COLUMN
2019年1月29日、『採用難・人手不足が加速する2030年に向けて日本企業の採用・組織はどうあるべきか』をテーマに、各分野の専門家として活躍される講師の方々をお招きし、外国籍人材の採用における特別講演会を実施しました。
パネルディスカッション後には、参加者の方からいただいたご意見やご質問に対してパネラーが回答する質疑応答の時間が設けられました。
今回は、そのうち「外国人の受け入れがうまくいっている企業とそうでない企業の違いはどこにあるのか?」というご質問に対してのパネラーの回答およびディスカッションの内容を一部抜粋してお届けします。
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米倉 誠一郎氏 一橋大学名誉教授 法政大学大学院教授
1981年、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。1990年、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得し、1997年より一橋大学イノベーション研究センター教授。現在、一橋大学、法政大学の他に、Japan-Somaliland Open University 学長も務める。
畝岡 健氏 株式会社TSUTAYA IT本部 SREユニットユニットリーダー (兼) オフショア開発室 ユニットリーダー
ITベンチャーのインターネットサービスや大手小売ECサイトなどの構築・運用を行なった後、2006年株式会社ツタヤオンラインに入社(現株式会社TSUTAYA)。2009年よりインターネットサービス全般の開発やオンプレミスのデータセンターの構築運用を担当。最近ではクラウド環境への移行やIT人材獲得のため、ベトナムでのオフショア開発・人材採用など行っている。
鈴木 美津子氏 特定行政書士 東京都多文化共生コーディネーター
外国人を雇用する企業を顧客に持ち、外国人雇用のためのビザ取得手続を多く手がける。また、外資系企業やベンチャー企業等の開業手続を一元的にサポートする、東京開業ワンストップセンター(JETRO本部内設置)において、入国管理の相談員を務める。自身の海外在住経験から日本における多様性の重要性を実感。ビザ手続の他、外国人による法人設立や起業後のサポートにも力を入れている。英語対応可。
稲垣 隆司 株式会社エイムソウル 代表取締役
同志社大学卒。急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。2005年株式会社エイムソウルを設立し300社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年インドネシアに進出。日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。
INDEX
外国人採用が活発になる中、採用活動が成功していく企業とうまくいかない企業とが出てきますが、果たしてここにはどんな違いがあるのでしょうか。
パネラーの方々からは、成功している企業の特徴や成功するために大切にすべきことなど、以下の5つのポイントについて述べられました。
<成功している企業の特徴>
✔︎ 自社の異文化適応状況を正しく理解している
✔︎ 常に改善・改革を行っている
✔︎ 何度も失敗しながら、地道に改善を積み重ねている
✔︎ 人材の価値を理解し、投資をしている
✔︎ 自社の将来を見据えた採用活動ができている
外国人かどうかに関わらず、採用活動は常に明確な目的と採用戦略を以て進めていくものであり、上記についても基本的なことなのかもしれません。
しかし実際には、採用活動には多くの費用や時間もかかりますし、解決すべき細かな課題は多くあり、これらの一つひとつは決して容易ではありません。
果たして、外国人をうまく受け入れ人材が活躍している背景には、どんな具体的施策があるのでしょうか。
弊社稲垣は、まずは自社の状況を把握することから始め、地道な改善を継続することが重要だと述べました。
稲垣「僕自身、6年前までは日本の常識が世界の常識だと思っていたタイプなのでわかるのですが、特に日本人は異文化を受け入れることが苦手で、怖いと思うんです。
ミルトン・ベネットの「異文化感受性発達モデル」(下図参照)で見ると、ここにある6つの成長段階のうち、自社がどこにいるのかということをまずはしっかり把握することが大事だと思います。
最初は左から2番目の「違いからの防衛」か3番目の「違いの矯小化」の段階にいることが多いのではないかと思います。
異文化に対して排他的な考えになっているなという現状はよいとしても、それを自社の中で理解して、何をどのように変えていくのか、それに対してどんな努力をするのかが大事で、弊社のお客様の中でもそれを継続されている企業は、最初からうまくはいかなくてもどんどん成長されています。
外国人の受け入れの仕組みや教育、採用方法はどんどん変わっていくので、常にそれに応じた地道な努力をすべきなのではないかと思います。」
上記の通り、まずは自社全体の状況を把握するということは非常に重要でしょう。会社もしくは人事サイドが外国人採用に積極的であっても、受け入れる現場スタッフの体制や意識がそこに向いていないなど温度差があると、もちろんうまくはいきません。
一番に自社の状況を理解しながら常に自社の状況の理解と改善をし、左側の3つの状況から右側の方に意識的に移行させていくことが重要であり、右側に近づくに連れ、外国人採用も成功しやすいと言います。
行政書士の鈴木氏は、多くの企業の状況をみてきた経験から、人材採用へ意識が重要だと言います。
鈴木氏「これはある意味投資なんですよね。平たく言うと外国人を呼んできて雇用するのは、どんな在留資格の人でもやはりお金がかかります。ですから、体力のある企業は現地で育成して日本へ誘致するなどの色々な方法がありますが、中小企業では伸びしろもあって人も足りないという状況でも、そこに踏み込み辛いと言う企業も実はすごく多くあると思うんです。
それでも投資をして、どんな人に対してもきちんと面接をして、例え言語ができなくても現地まで足を運んで直接会って話をして、カルチャーの違いなどエモーショナルな問題も含めて知ろうと努力をされているところは、成功されていると思います。」
また、参加者の方からも「留学生の多くは、日本語ができなければどれだけ優秀でも次のステップに進めないばかりか使えないと言われてしまう。しかし、視野を広げれば、企業にとっても大きなメリットに繋がる可能性がある。
例えば、日本語が話せることにこだわるのをやめて選考方法を英語に変え、採用後に日本語教育を強化するという施策をとったことで、MBA学生のような優秀な人材獲得に成功されている企業もある。」と成功事例も紹介されました。
外国人採用においては、特に最初は日本人の採用活動以上に労力や費用もかかるかもしれません。しかし、現在日本は著しい人材不足に悩まされているだけではなく、世界経済からも大幅な遅れをとっているという指摘もあります。
外国人採用の成功とは、採用した人材がその場しのぎでの単なるマンパワーではなく、その人自身の能力活かして活躍してもらうということ。そこに行き着くためには、鈴木氏の言葉通り、費用や労力がかかることを投資だと捉え、未来への投資意識を持って採用活動をすることが自社に適した良い人材と巡り合えるカギになるのではないでしょうか。
最後に、各パネラーから外国人採用をする上で課題は多いものの、将来的に状況が大きく変わっていくことを見据えて外国人採用に向き合うことの重要性について示唆されました。
畝岡氏「海外から日本に来て働く人材をリスペクトするということは、重要だなと感じています。周りを見ると、ちらほらと「お金をやる」とか「雇用してやる」というような上から目線の企業や人も中にはいるように感じています。
しかし、基調講演のお話の中でもあったように日本のGDPなどからみても、数十年後は逆の立場になっている可能性が十分にあります。ベトナムで言うと十何年6〜7%の成長を続けていますから。
そうなると、逆に日本人が他国に雇ってもらう立場になるという危機感を日本人は持つべきだし、採用活動においても採用する人に対してリスペクトしていくことが大切ですよね。」
鈴木氏「この10年、20年で大きく状況は変わると思うですね。日本も変わりますし、世界も変わります。その時になってから慌てるというようなことではなく、多様性の重要性に気付いている人や企業も多いはずなので、今のうちから何か一つでもいち早くアクションを起こすということがすごく大事なのではないかと思っています。」
GDPの伸び、生産人口の著しい減少、生産性の低さなど様々なデータからも、日本が世界経済から遅れをとっていることは顕著です。
日本は今、世界経済から遅れを取り戻すため、グローバル社会からみた日本の状況を日本企業、そして日本人が各々理解することからはじめ、それをどのように改善していくのかを考え、いち早く実行すべき窮地に立たされているのかもしれません。