COLUMN

2022.10.28

[HRプロ連載記事]第43話:フィリピンから学ぶ、「ワークライフバランス」と「パフォーマンス」を両立させるマネジメントの“バランス感覚

6.連載記事

アジア各国で活躍する人材ビジネスの企業の方々に、その国で成功する秘訣をお聞きする本シリーズ。第8弾は、フィリピンに関するお話を、株式会社プロゴス取締役会長の安藤益代氏にお聞きした。安藤さんご自身はアメリカの大学院や外資金融、および海外の日系金融機関などを経験し、25年以上グローバルに関わってきているプロフェッショナルのビジネスパーソン。所属するプロゴスは、オンライン英会話の走りであるレアジョブが法人向け研修に特化する形で設立された会社だ。レアジョブの外国人講師の多くはフィリピン人で構成されており、安藤さんはフィリピンの子会社もマネジメントしている。今回は、フィリピンの文化や風土、ご自身の経験による日本人のグローバル化などについてお話を伺った。

“家族第一主義”ゆえの「相互理解」の重要性

稲垣:はじめに、安藤さんのプロフィールを教えていただけますでしょうか。

安藤:大学卒業後、野村総合研究所およびドイツ系製薬会社に勤めた後に渡米して、シカゴ大学大学院、ニューヨーク大学経営大学院で学び、NY日系証券会社勤務を経て日本に帰ってきました。その後、2020年よりレアジョブに参画し、現在法人子会社であるプロゴスの会長職を務め、そのフィリピン子会社のCEOも兼務しております。

稲垣:フィリピンと日本の文化の違いについて、安藤さんのご経験から教えていただければと思います。

安藤:まず多くの方々が抱くイメージとして、東南アジアの国々でのマネジメントにおいては、「こちらがリードしてあげなければいけない」といったものがあるかもしれません。しかし現地の経済は成長し英語も達者な人が多いなど、努力している部分をリスペクトすることがとても大事だと思っています。そうした意味では、彼らの文化や言葉、料理など、いろいろなことに興味を持って知ろうとすることが重要でしょう。日本人はビジネスの場合、どうしても「仕事の話を中心に進めよう」という傾向があると思うのですが、フィリピンではその土台となる“相互理解”から始める必要があります。「タスク」と「リレーション」とを比較することは多いと思いますが、その「リレーション」をしっかり作っておくことがとても大事です。「タスク」だけで押しきろうとすると、うまくいかないのではないかと感じますね。

稲垣:これはアメリカにいらっしゃった時から思っていたことなのでしょうか。それとも、フィリピンに深く関わられてから感じたことですか?

安藤:アメリカにいた時も「タスク」と同じように「リレーション」はとても大切だと思っていましたが、フィリピンでは、よりその考えが強くなりました。

稲垣:それはなぜなのでしょうか。

安藤:理由は、彼らの価値観でしょうか。例えば、フィリピンの人は家族をとても大切にするんです。家族が一番で、例えばお休みをとる際の理由も、「弟が大学を卒業したため、みんなでお祝いをするためにお休みさせてください」といった形です。日本人の感覚だと、兄弟が大学を卒業したからといって休みをとる人はなかなかいないと思うのですが、彼らにとっては当然なんですよね。

稲垣:結婚式などであれば分かりますが、“弟の大学卒業”でもお休みをとるんですね。

安藤:そういうことが彼らの価値観の中ではとても大切で、我々としてはそうした部分をしっかり受け止めてあげることから始めなければいけません。「なんでそんなことで休むの?」といった反応をしてしまってはいけないと感じるんです。逆に、「おめでとう!」、「何を専攻したの?」、「みんなでどんなお祝いをするの?」といったコミュニケーションをとることが望ましいです。もちろん仕事において自分のキャリアは大事ですが、それよりも「家族をみんなで養い合う」とか、「お給料をもらって家族のために使う」といった価値観を持つ人が多いんですよね。それはある意味、依存的な部分もあるかもしれませんが、とにかく家族が大事なので、「自分が働いてもらったお金は家族のために使おう」という気持ちがすごく強いです。ですから、例えば「甥っ子が可愛くてしょっちゅう行き来しているんだ」、「Facebookに写真あげているから見てね」といった、ごくごく普通の家族のことを皆さん話しますし、我々はそこへの共感力を持ってあげなければいけないというのが、まず大前提としてあると思います。

フィリピン人のマネジメントで重要な「共感」と「仕事」のバランス感覚

稲垣:日本人の場合、「仕事はちゃんとやる」、「プライベートの用事で休んではいけない」といった価値観がありますよね。今はだいぶ変わりましたが、少し前だと有給をとることさえも憚られるような文化でした。そんな日本と比較して、フィリピンやインドネシアにおいては、彼らの考え方や価値観を大事にしなければいけないというのはすごく理解できます。一方で、先ほど「アメリカ人はタスクが大事だけど、リレーションも必要」とおっしゃっていましたが、アメリカ人もとても家族を大事にしますよね。それでも、「アメリカよりもフィリピンの方がよりリレーションが大事」とのお考えには、どのような理由があるのでしょうか。

安藤:アメリカは基本的に“個人主義”ですよね。家族はものすごく大事にするし、家族との時間を大切にするという価値観は、アメリカ人にもあると思います。しかし、そのベースにあるのはやっぱり“個人主義”だと思うんです。例えば、大学に入ってからは実家を離れて寮に住むなど、基本的には「独立して暮らす」という風潮がありますよね。しかしフィリピン人の場合は、ずっと家族と一緒に住むという点で、個人主義とは根っこが少し違うと思います。アメリカの「独立する」、「自分なりの個性を大切にする」という色濃い文化と比べて、フィリピン人の場合は「家族が自分の価値の一部」という考えが本当にベースにあるんだなと感じますね。最近の話なのですが、スタッフが結婚式の2週間前に、お母様を亡くされたんですよ。ちょうどそのスタッフが結婚の準備のためにお休みするぐらいの時期に急逝されてしまって。そういう時も、同僚は本当に自分事として考え、すごく心配をしていました。私自身もそうでしたが、花嫁姿を一番楽しみにしてくれていた母親が急逝するという状況に本当にみんな胸を痛めて、そのスタッフをなんとかして支えるために仕事以外のところでもサポートをして、結果として結婚式を挙げることができたんですね。そのように、同僚の家族に不測の事態が起きても、自分事と思って支え合うという文化は大事にしてあげなければいけないところだと思います。

稲垣:これは心温まる話であると同時にすごく素晴らしいことで、会社を経営するマネジメント側の視点に立つと、バランス感覚が必要になってくると思うんです。言い方は悪いですが、みんなが仕事そっちのけでプライベートに情熱と時間を使ってしまうと、会社が成り立たなくなります。

安藤:そこはすごく大事なポイントですよね。プライベートのことばかり考えてしまったら仕事にならないので。そこのバランスは大切で、例えば本当に家族に不測の事態が起きたスタッフには、「やらなければいけないこのタスクはどうするか?」を必ず問いかけますね。たとえ家族のことが大事でも、あくまで仕事は仕事として確実にあるわけですから。仕事に関しての投げかけをして、「支障がない、調整ができる範囲で家族のことを考えよう」ということを話しています。これについては、毎週細かくフィードバックはしているため、幸いなことに仕事そっちのけにはなっていません。「ちゃんと守るべきものは守れるように」という枠組みの中で、「仕事の量やクオリティが落ちないように、ルールとしてきちんと守っていこうね」という話をして、それをしっかり守ってもらっています。そのように、必ずしも情に流されてしまってはいけませんが、それでも何かが起きた時の共感力や理解力を持つことが必要だということだと思います。

日本人が学ぶべき、フィリピン人の“グローバル感覚”

稲垣:フィリピンの人の特徴としては、他にどんなことがありますか?

安藤:仕事において、男女の差があまりない感じがしますね。リーダーシップをとる女性も普通にいて、そういう感覚は実は日本より進んでいるかもしれません。男女関係なく、実力のある人がリーダーシップをとります。

稲垣:なるほど。また、フィリピンはいわゆる「世界一の出稼ぎ国家」と言われていて、フィリピンから若い人がどんどん世界中に出ていますよね。そうした部分において、日本が学ばなければならない“フィリピン人のグローバル感覚”があると思うんです。英語もすごく上手ですよね。

安藤:彼らがシンプルに、「外貨を稼いだり、自分達が豊かになる為には英語はすごく役に立つ」と思っているのは確かだと思います。英語ができるので海外で働くことに抵抗感が少ないんです。また、フィリピンはそもそも多言語の国ですよね。タガログ語だけではなく、セブアノ語など様々な言語があって、その中でコミュニケーションをとり合っています。植民地だった歴史なども関係があるかもしれませんが、英語が堪能なのは、「フィリピン自体に多文化がある」という背景もあると思います。共通語としての英語を基本として、スタッフもバイリンガルで言語を切り替えており、現地の言葉で話しあったり、それが急に英語に変わったりと、会話の中でもスイッチして自由に話すんですよね。そういう意味では、「言葉はツールである」という“割り切り”があるのかもしれません。

稲垣:安藤さんがいらっしゃらない時は、スタッフの皆さんはタガログ語やセブアノ語、英語など、いろいろな言葉をミックスして話しているのですか。

安藤:そうですね。オンラインミーティング中のチャットでも英語以外にいろんな言葉でコメントが出てきます。

稲垣:それは、日本では考えられないですね。

安藤:日本でいうと、標準語と方言を切り替えるくらいの感覚なのかもしれませんね。

稲垣:そのうえフィリピン人の方々は、言葉だけでなく、入社した企業や配属された部署で適応していくグローバルマインドも強いと思いますが、この力はどのようにして培われたのでしょうか。

安藤:フィリピンの人はそもそも環境の変化などに強く、「なんでもあり」なマインドを持っているということがあると思います。「こうでなければいけない」ということがなく、予想外のことが起きた時に、彼らの明るく楽観的な性質がうまく機能しているのではないでしょうか。

稲垣:たしかに、フィリピンの人は明るいですよね。

安藤:そうですね。楽観的すぎてしまうところもあるのですが、日本のように「きっちりやって予想通りのことを期待する」という文化とは違う気がしますね。そこがグローバルに進出する際に、良い結果をもたらすこともあるのかもしれません。

対談を終えて

フィリピンの人々の特徴は、いわゆる東南アジア共通の“明るさ”や“ファミリーを大切にする価値観”などに加え、“グローバルマインド”や“コミュニケーション対応力の強さ”にもあると感じた。安藤さんは、こまめな1on1やチャットなどで、四六時中インタラクティブなコミュニケーションを大切にされるという。対談中にタコの絵(下図)を見せていただいた。安藤さんいわく、この絵を描いたのにはこんな背景があるという。

「ちょうど月例会があったのですが、そのアイスブレーキングに司会が“珊瑚礁とタコの絵を描いて”というお題を出したんです。みんなが描いた絵を写真で送り合い、心理的に分析して、『こう描いた人はこんな気持ちがあります。だからこんな風に仕事にしましょう』といったことを話しながら和やかな雰囲気を作っていました。こんなアクティビティにも役職に関係なく自ら入っていくと、仕事の面でもコミュニケーションがやりやすくなります」

生まれた国は違えど、自分が1人の人として目の前の人と対峙していくことの大切さを教えていただいた。

取材協力:安藤益代氏
株式会社プロゴス 取締役会長。大学卒業後、野村総合研究所、ドイツ系製薬会社を経て渡米。シカゴ大学大学院(国際関係論MA)、ニューヨーク大学経営大学院(MBA)、ならびにNY日系証券会社勤務を経て帰国後、英語教育・グローバル人材育成事業に25年以上従事。国際ビジネスコミュニケーション協会で、TOEIC®プログラムの企業・大学への普及ならびにグローバル人材育成の促進などに携わる。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招へい研究員、EdTech企業の執行役員を経て2020年より株式会社レアジョブに参画。2022年4月より現職。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2953

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