COLUMN
2019年7月31日、『高度外国人材の獲得と活躍する土台作り~組織のグローバル化にむけた人事マネジメントとは~』をテーマに、特別講演会が実施されました。
パネルディスカッションでは、各分野のスペシャリストにご登壇いただき、グローバル化を目指すための日本の人事マネジメントについてお話をいただきました。
今回は、グローバル化を目指す日本企業が高度外国人を獲得するために考えるべきポイントについて、特別講演会のパネルディスカッションより一部抜粋した内容をお届けいたします。
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米倉 誠一郎氏 一橋大学名誉教授 法政大学大学院教授
1981年、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。1990年、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得し、1997年より一橋大学イノベーション研究センター教授。現在、一橋大学、法政大学の他に、Japan-Somaliland Open University 学長も務める。
曽山 哲人氏 株式会社サイバーエージェント 取締役 人事管轄
上智大学卒。1998年、伊勢丹に入社、紳士服配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、20名程度だったサイバーエージェントに入社。インターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任、2008年より取締役、2014年に執行役員就任などを経て、再度2016年に現職。
ブライアン シャーマン氏 グラマシーエンゲージメントグループ ㈱ 代表取締役
米国ニューヨーク州出身。米国住商情報システムにて人事総務部長に就任。来日後は株式会社ファーストリテイリングでのグローバル人事業務に参画。欧米露アジア拠点の人事マネジメント業務に従事。2010年グラマシー エンゲージメント グループ株式会社設立。現在は、日本企業の人事のグローバル化をサポートするコンサルタントとして活躍中。
加藤 将司氏 株式会社ジェイエイシーリクルートメント 海外進出支援室
上海師範大学卒。大手人材サービス会社での人材採用業務を経て2001年GAコンサルタンツ株式会社に入社。国内企業向けベトナム人材紹介コンサルティングに従事。
稲垣 隆司 株式会社エイムソウル代表取締役
同志社大学卒。急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。2005年株式会社エイムソウルを設立し300社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年インドネシアに進出。日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。
INDEX
日本は今、深刻な人手不足に直面し、グローバル経済でも他国から大きく遅れてをとり、少しずつグローバル化に向けての動きが活発になりつつありますが、外国人採用においてもグローバル化においても、まず「言語の壁」を一つの大きな課題だと感じている企業は多いのではないでしょうか。
日本人の英語力は、非英語圏の主要100ヵ国の中でも2019年は53位となり、フィリピンやマレーシア、中国、韓国、台湾、ベトナム等よりも低い順位となりました。
この結果からもこの30年で中国や韓国などの各国が英語力をあげているのに対し、日本人の英語力はさほど上がっておらず、むしろ遅れをとっているという指摘もあります。
英語を母国語としない世界の国々は、どのように対応しているのでしょうか。
シャーマン氏「アメリカ企業やイギリス企業と日本企業を比較するとあまりフェアではないので、例えばドイツ企業と日本企業を比較すると、外国人採用をしているドイツ企業は全員がドイツ語を使うでしょうか。本社の中では当然、ドイツ人はドイツ語で喋ります。でも、ドイツ語が喋れない人が来るとすぐに英語で喋ります。つまり、英語が公用語ということですね。一方、日本企業はどうでしょう。」
ドイツをはじめ多くの国では母国語がビジネスの場面で適さない場合には、英語を公用語だという意識を持って使い分けているとシャーマン氏は言います。しかし、シャーマン氏の指摘通り、日本企業の中では国内では特に公用語が英語だという感覚は非常に希薄で、外国人が日本語を話すことを求めることが多いのが現実でしょう。
加藤氏「正直なところ、日本語が喋れる外国人、さらにいうと日本のカルチャーがわかる外国人というのはなかなかいません。しかし、私も英語はできないですが、お互いにゴールが明確なら商談は実はそんなに難しくありません。日本人が勝手に難しいと思っているだけのようなところが大いにあると思います。
そういったハードルさえ越えていければ、語学の部分は、実はそんなに難しい話ではないと思っています。
以前、韓国のビジネスマンと話している時に「韓国人はなぜハングルだけじゃなくて英語や日本語もペラペラなのか」と聞いたら、「簡単だよ。ビジネスで誰もハングルを喋らないから。」と言っていました。
このように韓国では、母国の言葉をグローバル社会では使わないことを理解しているためビジネスに必要な言語を使用するだけであり、日本人は英語に対して過度な難しさを感じているだけだと、加藤氏は述べました。
上記の通り日本人は、グローバル社会に合わせた言語を使うことへの意識が希薄なのかもしれませんし、日本人が言語の壁を難しく捉えすぎているのかもしれません。しかし、シャーマン氏は、日本企業にとって英語が必要かどうかは、なぜ外国人採用に関心があるのかを紐解けば自ずと答えは出ると言います。
シャーマン氏「そもそも、なぜ日本の会社は外国人を採用しようとしているのでしょうか。なぜ、外国人の採用について関心を持っているのか、ということに触れると、多分英語が必要かどうかの答えは出ると思います。
今から読み上げる6つのステートメントから、なぜ外国人採用をするのか自社に当てはまるステートメントを考えてみてください。
① 単に多様性を求めている
② 事業を成功させるために必要なスキルや資格を持つ日本人を見つけられない
③ 日本人社員に英語や他言語を話す機会を提供したい
④ 同じ資格をもつ日本人の候補者が採用される可能性がある場合でも、差別せずに外国人を採用している(日本人か外国人かの差別はしない)
⑤ 他の会社が外国人を雇用しているため、当社もそうするべきだと考えている
⑥ 海外市場に進出しており、その市場に馴染みのある外国人を雇う必要性がある
どれが妥当でしょう。⑥は外国人のお客様に対応するため、外国人を採用しているという場合ですね。これは妥当な理由だと思います。
また②についても、このような目的のために外国人を採用したら企業のパワーとなりますし、本人(雇用された外国人)にとっても意味がありますね。
となると、英語は本当に必要でしょうか。もしくは外国人が日本語を使えることが重要なのでしょうか。
ただ、やはり日本でも会社が一丸となるためには英語は必要です。デフォルトは英語にするべきではないかと思っています。」
シャーマン氏はこのように問いかけ、外国人と一緒に仕事をする上で会社が一丸となるためには言語は統一すべきであるが、英語を使うことについては、まず外国人を採用する目的を明確にすること、またその目的によって必要性を見極めるべきだと述べました。
外国人を採用する目的によって言語の壁をどのように捉えるのかは各企業が考えるべき大切な課題であるということは明らかになりましたが、目指すべきは高度外国人材の獲得です。高度外国人に活躍してもらうためには、果たして日本企業はどのようなことに留意すべきなのでしょうか。
曽山氏からは、外国人材にも活躍してもらうための施策として、以下のような自社の例をお話いただきました。
曽山氏「サイバーエージェントではまだ外国人を役員に採用するなどといったところには至っていませんが、新卒採用した人に実力があれば、国籍は関係なく外国人も日本人と同様に厚遇しています。
最近の例でいうと、新卒でインドから来た3年目の人がマネージャーになりました。また、エンジニア50人くらいのトップに、ベトナム出身の新卒4年目もいます。」
米倉氏「仕事はできるけど、性格は良くないなという人も中にはいると思うんですが、そういう人はどういう評価をしていますか。」
曽山氏「それは、厚遇します。給与をちゃんと支払うということですね。ただ、ポジションは下のメンバーが潰れてしまうので、マネジメントはさせません。
本人がなぜマネージャーになれないのかとクレームを言ってきたら、「誰がついてくる?」と質問します。そうすると大抵の場合、「あっ」という顔をするんですよ。もちろん、会社にとって業績は最重要なので、給与の厚遇はします。」
このように、日本人、外国人に関わらず仕事に対する評価は明確にしていると言います。日本企業の中ではこういった評価や待遇が不明瞭であることが課題だという企業もあるのではないかと思いますが、評価や待遇を明確にすること、また国籍関係なく平等であることは高度な人材を活用する上で重要なポイントの一つでしょう。
またディスカッションの中では、高度な外国人材を採用し、日本人と外国人とのチームでやっていく、または日本人ができないことを外国人のサポートを得ることで、すでにグローバル経済から遅れをとっている日本が世界に追いつくための一手になる可能性があることや、異文化の人を入れることでお互いにインテグレーションしようとするなどの良い影響を与えることもあるなど、外国人採用のメリットについても意見が飛び交いました。
外国人採用において、特に日本人の課題の一つとして言語の壁があるものの、それは外国人採用の目的が大切であること、また人材活用のためには明確な評価や待遇が重要だということが述べられましたが、最後に、シャーマン氏は高度外国人に限らず積極的に外国人採用を推進するために企業の人事が考えておくべき重要なポイントがあると述べました。
シャーマン氏「採用面において、やはりちゃんとした目的を持って採用しないと、日本人であろうと外国人であろうと人は入ってこないですね。特に外国人は、この会社に入ったら自分は何ができるのかが第一に重要なポイントです。1〜3年ほど経ったところで「母国に帰るのはまだ早い」とその人が思えるなら、外国人だからこそできる、また自分らしい仕事ができていると証拠です。しかし、自分らしいところが見つけられなかったら、当然その人は辞めていきます。案外簡単なことなんです、ポイントは。」
米倉氏「新卒採用の(日本人)社員がすぐに辞めてしまう理由と同じですね。つまり、今回のテーマの中にある「高度外国人材」の「外国人」はいらないかもしれない。突き詰めていくと、国籍関係なく「高度人材」をどう獲得するかということが重要になってくるということですね。」
シャーマン氏「そうですね。特に海外拠点の場合はみんな外国人なので、できるだけ高度な人材を獲得することが重要になってきます。
ただ、日本国内で考えるなら、この外国人は本当に採用すべきかどうかということを、自社の採用ストラテジーから考えるべきですね。人事は、いかにその人らしい仕事ができるか、いわゆるダイバーシティマネジメントの観点から考える必要がまだまだあると思います。」
このように、日本企業の人事が考えるべきポイントは、
・形だけで外国人採用をするのではなく、自社の採用戦略や目的を明確にすること
・外国人採用においても、個々の能力を活かすためにダイバーシティマネジメントの観点から考えること
この二つについて自社で統一した明確な答えをもつことで、どのような人材が自社に必要なのか、また外国人を採用する上で自社に必要な対策はどのようなことなのかが判断できるようになり、より効果的な人材採用ができるようになるだけでなく、高度な人材を確保しやすい組織創りに繋げられるのではないでしょうか。