COLUMN

2020.03.14

[HRプロ連載記事]第6回:仕事の「意味」を伝えて納得させることで、社員が自ら動く“太陽のマネジメント”

連載記事

関西ペイントは、1918年尼崎で創業し、昨年100周年を迎えた、日本を代表する塗料メーカーだ。2018年度の決算は売上高4,274億円で、そのうち海外が約60%にのぼる2,679億円。日本以外の国籍の社員比率も約80%と、もはや関西ペイントではなく、“世界ペイント”である。(※売上数字は関西ペイント2018年度決算説明会の資料より抜粋)
今回のコラムの対談者は、今年の6月までKANSAI PAINT ASIA PACIFIC SDN. BHD.(以下、KPAP)のCEOを務められていた小谷宜行さん(※取材を行なった2019年4月当時は現職)。インドネシアで知り合い、私とはもう5年ほどのお付き合いだ。大学の先輩でもあり、公私ともに大変お世話になった方である。あちらでも有名だが、決しておごらず、関西弁でしゃべる親しみやすいお人柄のため、社内外にファンが多かった。この小谷さんに、これまで海外で苦労されたさまざまなエピソードをお聞きした。

タイの暗黒の土曜日・洪水に、東日本大震災と労働組合のロックアウト

(稲垣) 小谷さんは、ASEANのみならず、日本中のさまざまな場所でお仕事をされていらっしゃいますよね。

(小谷) 転勤は両手で数えても足りません。1975年に尼崎で入社してから、倉敷→広島→三好→浜松→埼玉→福岡→浜松→名古屋→大井町……。ここまでいろんな場所で仕事をしている人間は、社内でもあまりいないでしょう(笑)。領域も、建築用、自動車用、船舶用、工業用と、ほとんど全部に関わったと思います。そこから2010年に、タイへ行き、インドネシアからマレーシア……。マレーシアに来てからは、そのほか毎月ASEAN地域をグルグル回っています。

(稲垣) すごいご経験ですね。2010年からタイへ行かれたということは、57歳で初海外ということだと思いますが、戸惑いなどはありましたか?

(小谷) いえ、正直、あまりなかったです。国が違えど、同じ塗料を扱いますし、結局、同じ人間がやることですから。ただ、2010年以降は、タイでも日本でも、いろんなことが起こった時代でした。有名な「暗黒の土曜日」(バンコクで発生した武力弾圧事件で、タクシン元首相派の市民ら約10万人の抗議デモに対し、アピシット首相の指示のもとにタイ王国軍が発砲し、2,000人以上の死傷者を出した。)がありましたし、2011年3月の「東日本大震災」では、日本から供給される材料が止まりました。

さらに2011年はタイでも、11月に洪水で国内が混乱したし、12月には労働争議でロックアウトする、という事態にもなって。そのさなか、各社自動車メーカーの工場が次々と建設されて、我々にご注文を頂けたのは、嬉しいやら忙しいやら。……大変は大変でしたよ (笑) 。

(稲垣) 何かもう、聞いているだけでも戦慄が走りますが、笑って話されている小谷さんはさすがです。(笑)

(小谷) いろんなことが同時に起こって大変でしたが、塗料の経営なので、やることは国内でやってきたことと、そう変わりません。お客様に喜んでいただけることを第一に考えて、在庫管理、サプライチェーンの見直しなどの内部改革、それから何と言っても社員を教育していくこと。1~2年先を見た経営ではなくて、5年後10年後を見て、コツコツとやっていくんです。

“北風と太陽”のマネジメント

(稲垣) 本質は日本と変わらない、ということですが、海外に来て特に力を入れたことは何ですか?

(小谷) 我々は製造業なので、一番大事なのは、安定品質。特に自動車メーカーですと、日本と同じ品質のものをASEAN各国に提供しないといけません。そのためには、材料調達、品質管理、生産工程と、全ての過程で品質を保つ必要があります。状態のよくない設備を洗い出して計画的にメンテナンスしたり、思い切って古い在庫を処分したり、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)などの従業員のトレーニングを徹底したり、品質を保つためにやるべきことを漏れなく挙げて、的確に手を打っていかなくてはなりません。

ただ、実行するのは現場のローカルスタッフなので、これをやる“意味”をしっかりと伝える、ということです。これが最も大事で、日本よりも工夫が必要だと思います。

(稲垣) なるほど。私も、日本人が外国の方にトレーニングする際は、3つのポイントが必要だとお伝えしています。それは(1)モノサシ、(2)理由、(3)メリットです。日本人は日本人の常識やモノの見方があるから、どうしても同じ基準で考えます。十分な説明もないまま、指示を出したり指摘したりしがちです。

例えば、「ホウレンソウする」ということひとつでも、日本人が報告してほしい内容やタイミングとは異なることがあります。そのために、(1)モノサシ:何をどのタイミングでどのように報告すべきか、(2)理由:なぜ報告すべきか、(3)メリット:報告するとどんなメリットがあるのか、をしっかり伝える必要があると思います。こういったことに関連して、何か具体的なエピソードはありますか?

(小谷) そうですね。塗料の世界では、「異常品質」が発生することがあります。例えば、塗膜になると、ピンでつついたような米粒のようなへこみができてしまうことがあるんです。これにはいろんな原因が考えられますが、塗料に限らず、女性の化粧品にも何かしら原因となる物質が入っていて、そのようなことが起こることがあります。

ある時期、タイでそういう問題が散発した時がありました。それを防ぐため、女性の化粧品は必ず事前に全部チェックするようにしましょう、となったのです。しかし当時の人事部長は「従業員から抵抗が出る」と言って、なかなか現場が動かない。それで私が、全工場に直接行って話しました。異常品質が起きたら、こんな風に会社や皆さん自身が損をしますよ、と。

たとえば、数トンの塗料を作っても、そういう物質が1滴でも入ると売れなくなる。売れなかったら、100万円損します。100万円損することによって、いくら皆さんに給料やボーナスをあげたくても、あげられなくなるんですよ、と。そういう説明を一生懸命して回りました。すると、分かってくれました。

いきなり「これからは化粧品の品質チェックをすることになりました」と言ってもやるかも知れませんが、“意味”を理解しないので、やらされ感が強かったり、さぼったりしてしまう。ちゃんと納得して理解すれば、自分で考えるようになります。

例えば、タイは油分の多い食事が多いので、昼食後に手を洗わず工場へ戻ると異常品質の原因になるのでは、という声があったので、昼食後、手洗いを徹底するようにしました。また、工場に入る前に服を必ずエアブローしたりとか、現場発でどんどん新しいルールが生まれました。これは、上からただ頭ごなしに「やりなさい」と言っていたら、起こらなかったことです。やっぱり、みんな納得することが大切です。そういうことを積み重ねていたら、異常品質もほとんどなくなりました。

(稲垣) すごいですね。北風と太陽のような話だ。

(小谷) 北風と太陽、いい例えですね(笑)。そうですね、基本的なポイントとしては、相手をしっかり見て伝え、自ら動くようにする、これです。びゅう~! っと北風を吹かせるのは、たまにでいいんです。

(稲垣) 小谷さんは、国籍とか年齢とか性別とか役職とか、本当に誰とでも対等なお付き合いされると思うんですが、外国人だから、といって構えるようなことはないのですか?

(小谷) 私の信条は、「人間はすべて一緒だ」です。特にプライベートな世界になったら、嫁さんもいる、子供もいる。誰だって、嫁さんにいいもの食べさせてやりたい、子供もちゃんと育てたい。そういうのがベースになる。そのベースがあって、文化とか宗教とかが入ってくるんだと思います。ベースのところは一緒ですから、付き合い方として「嘘をつかない」とか、「誠心誠意尽くす」というのは、万国共通だと思うんです。ここさえ外さなかったら、たとえ国が違っても大丈夫ですよ。

インタビューを終えて

小谷さんは、どんな話も冗談を交えながらニコニコと話されるのだが、次々と出てくるエピソードはハラハラドキドキするような内容ばかりであった。一般公開するコラムであるため、残念ながら一部しかお伝えできないのだが、本当に多くの修羅場をくぐってこられていて、課題を解決する力が非常に高い。何が起こっても動じないし、対処するスピードの速さや、周りを巻き込む力がすごいのだ。

さらに、身近な人を実に大切にされる。インドネシアからマレーシアに移られる最終日、私は社長室に呼ばれて、お茶をいただいていた。小谷さんが離席されたとき、秘書の方と2人になったが、彼女は小谷さんとの思い出を話しながら泣かれていた。こういうところに、裏表のない人柄がにじみ出ているのだと思う。そんな小谷さんが大切にされる“太陽マネジメント”のお話は、大変勉強になった。しかし、たまに吹かせる北風は、周りの方々をさぞかし凍えさせただろうと思う。

取材協力:小谷 宜行(こたに のぶゆき)さん
前 KANSAI PAINT ASIA PACIFIC SDN. BHD. CEO

1952年生まれ。同志社大学 商学部を卒業後 関西ペイントに入社。入社以来ほぼ営業畑を歩み、2010年より2019年5月まで、タイ 、インドネシア、マレーシアの現地法人責任者として勤務。「営業とはお客様に誠心誠意尽くせば 必ず道が開かれる」をモットーに歩んできた。結果として、自分で学んだ事よりもお客様から教えを請うた事が血となり肉となった。これを執筆して、若い方の仕事の指針の一つになれば、と考えているという。


本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
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