COLUMN

外国籍人材を受け入れる職場向け教育と体制づくりの7Step

5.ダイバシティ&インクルージョン

「力を入れて外国籍人材を採用したものの、すぐに辞めてしまう」「外国籍人材の仕事に対するモチベーションを高めることができず、なかなか定着しない」。こうした人事担当の皆様からの声を受けて、当社では外国籍人材の本音から日本企業の受け入れ課題を明らかにするための共同調査を実施しました。

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『日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査』についてはこちら ※2021年8月実施

その結果、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上での施策として、①インクルーシブな採用の実現、②外国籍人材向けオンボーディング、③受け入れ体制の強化が必要なことが判明しました。前回に引き続き、本コラムでは「③外国籍人材を受け入れる職場向け教育と体制づくり」について、7つのStepを中心にご紹介いたします。

① インクルーシブ採用を実現する7Step(多様な人材の評価と採用)についてはこちら
② 外国籍人材のオンボーディングを実現する7Stepについてはこちら

インクルーシブプラクティスとは

そもそも「インクルーシブ」とは、どのような状態のことを意味するのでしょうか。インクルーシブを名詞にすると、インクルージョン(inclusion)となり、日本語訳をすると「包括、包摂」といった意味合いになります。一方で、インクルージョンの反対語はエクスクルージョン(exclusion)であり、「排除、隔離」といった意味を示します。したがって、「インクルーシブである」=「排除しない」「仲間はずれにしない」状態であるということを、念頭に置いておく必要があるでしょう。

尚、このインクルーシブの概念は、1980年代にヨーロッパで始まった政策理念である「ソーシャル・インクルージョン」に由来すると考えられています。1970年代のフランスでは、社会的経済格差により貧困状態から抜け出せない労働者が多数発生し、その状態を「ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)」と呼びました。それらを解決するための理念として、“誰も排除されず、全員が社会に参画する機会を持つ”必要性を説く「ソーシャル・インクルージョン」が提唱されたという背景があり、この考え方は現代のビジネスにおいても不可欠なものとなっています。
「持続可能な開発目標(SDGs)」全体の理念にも「誰一人取り残さない」という概念がありますが、この理念はまさにダイバーシティ&インクルージョンの思想と合致していると言えるでしょう。

そして、今回のテーマである「インクルーシブプラクティス」とは、包摂的(インクルーシブ)な教育や体制づくり(プラクティス)のことを意味しています。
先のコラムでも触れたように、多様性(ダイバーシティ)のある職場は、組織内に革新と創造性をもたらします。さまざまなバックグラウンドを持つ従業員がいることで、日常業務にさまざまな視点やアイデアがプラスされるからです。また、個々人が組織に包括(インクルージョン)されていると感じることで、自身の存在価値を見出すことができ、モチベーションとエンゲージメントが高まることで、より高いパフォーマンスを発揮することにも繋がります。

それでは、実際に個々がインクルージョンされていると感じることができる組織をつくるためには、何が必要なのでしょうか?
インクルーシブな職場の要件として、例えば以下の要素が挙げられます。

  • 年齢、性別、人種、宗教、言語、文化的背景、性的指向等が配慮された人員構成になっていること
  • すべての従業員が「組織の一員である」と感じられる文化がつくられていること
  • 従業員が安心して、自身のバックグラウンドやコア部分をさらけ出せる風土があること

米国の調査によると、自身が所属している組織が「多様性」と「包括性」に取り組んでいると認識されている企業ほど、従業員の定着率が高くなるというデータも出ています。

すなわち、新入社員が職場に馴染めるかどうかは、本人の努力よりも、オープンでインクルーシブな職場づくりができているかという条件の方が大きいと言えます。そのために必要となるのが、さまざまな風土づくりの取り組みや、従業員向けのトレーニングです。特に職場のリーダーは、組織の価値観を示すロールモデルとして機能しています。リーダーが率先してチームビルディングに取り組んだり、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を排除する働きかけを行ったり、メンバー参加型の意思決定プロセスを取り入れたりする姿勢を示すことで、インクルージョンに対する前向きな認識が組織に生まれます。

データから見えた課題

実際に日本で働く外国籍人材は、日本企業のインクルージョンに対する取り組みに対して、どのように感じているのでしょうか。当社の『日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査』によると、下記のような課題が浮かび上がってきました。

日本人社員による差別・偏見(異文化への理解不足)

⇒「日本企業は外国人の採用を受け入れる際に、言語の違いや文化の違いを受け入れる必要があります。」(技人国・ベトナム出身)

⇒「外国人採用者の強みは「違い」にあることを理解しないで、外国人を「より日本人」にしようとすることは、早期離職につながります。」(身分に基づく在留資格・カナダ出身)

職場でのパワハラ・セクハラ・いじめ

⇒「誰もが目にし、誰も何もしないパワーハラスメントがありました。」(特定技能・エジプト出身)

⇒「職場でのいじめ、職場外での嫌がらせ、それに対して経営陣がしてくれませんでした。」(技人国・カナダ出身)

ワークライフバランスへの配慮不足

⇒「非常に長い労働時間のためワークライフバランスが欠如していました。」(身分に基づく在留資格・台湾出身)

⇒「毎日13時間労働させられて、有給休暇は付与してもらえませんでした。」(技人国・英国出身)

日本人と外国人のコミュニケーション不足

⇒「トレーニングはほとんどなく、特に日本人と外国人スタッフとのコミュニケーションが非常に悪い状態でした。」(技人国・中国出身)

⇒「長時間労働の中で、バイリンガルな従業員の不足と強い上下関係のため、日本人の同僚と絆をつくるのが難しかったです。」(技人国・ブラジル出身)

硬直的な組織文化と考え方・働き方

⇒「新しいことに挑戦したくないがゆえに、それ自体のための官僚主義、マイクロマネジメントがありました。」(身分に基づく在留資格・英国出身)

⇒「業務内容が曖昧で、上下関係が強く、意見・提案をしても受け入れてもらいにくい環境でした。」(身分に基づく在留資格・ウズベキスタン出身)

受け入れ側の教育と体制づくりを実現する7つのStep

こうした課題も踏まえ、外国籍人材を受け入れ、活躍を促すためには、以下の7つのStepが有効であると考えらえます。

①D&I推進で目指す姿の定義
  • なぜ外国籍人材の採用をしようとしているのか、D&Iを推進してどのような組織にしていきたいのか、会社としての方針を明確にする
  • そのうえで、外国籍人材の採用方針やD&I推進方針を社内に浸透させる
②ダイバーシティマネジメント教育の実施
  • 外国籍人材を採用する際には、リーダー向けのトレーニングが重要である
  • 特に初めて受け入れをする場合には、そもそもどのような文化や価値観の違いがあるのか、それらに配慮したダイバーシティマネジメント手法を教える必要がある
  • 中でも、アンコンシャスバイアスを取り除くことの重要性の周知が鍵となる
  • リモートコミュニケーションが発達した昨今のコミュニケーション環境下で、「承認」をベースに従業員同士が互いを認め合い、尊重できるチームがつくれるよう専念する
③異文化理解教育の実施
  • 受け入れ側の職場向けに、異文化理解を促進する教育を実施する。特に、異文化適応のプロセスの認識を促し、そのためには職場の同僚からの支援が重要であることを理解してもらう
  • 既存の従業員に対し、異文化出身者と接するときのマインドセットづくりを行う
④日本人と外国人のチームビルディング
  • チームビルディングは、特に受け入れ直後の短期的な施策として有効である
  • 日本人と外国人が国籍の垣根なく、共通のお題や課題に取り組むワークショップを実施することで、ワンチームで動ける体制を作る
⑤宗教・文化に配慮した職場ルールの整備
  • 多様なニーズに配慮した職場ルールづくりを意識する
  • 出勤時間、退勤時間、休憩時間を宗教や習慣に配慮して設定する
  • 自国の長期休暇シーズンに、有給休暇取得を推奨する
⑥日本人と外国人のコミュニケーション施策
  • 日本人と外国人が日常的にコミュニケーションを取れる施策を用意し、中長期的に運用できるようにしくみ化する
  • 一緒にトレーニングを受ける機会の提供、日本人の先輩社員に仕事に関する質問ができる定例会の開催、定期的な懇親会の開催など、意図的に実施する
  • 新規採用の外国籍人材に対しては、メンターを配置する。定期的に悩みや課題を吸い上げることで、信頼関係を築くとともに、業務に対するモチベーションを高めてもらう
⑦マイノリティの意見を拾い上げるサーベイ実施
  • 外国籍人材など職場でマイノリティになる場合は、オープンな職場であったとしても、すべての本音を出せるわけではない。そのため、匿名式のサーベイを実施して、マイノリティの人たちの声を拾い上げて、職場改善につなげる

まとめ

背景の異なるメンバー同士、互いの違いを受け入れ、尊重し合う体制をつくることは、ビジネスの長期的な成功のために必要不可欠な施策です。組織の成長力や競争力を高めるためにも、企業としてインクルーシブプラクティスに取り組むことの意義は非常に大きいと言えるでしょう。

① インクルーシブ採用を実現する7Step(多様な人材の評価と採用)についてはこちら
② 外国籍人材のオンボーディングを実現する7Stepについてはこちら

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