COLUMN

2021.06.02

[HRプロ連載記事]第26話:日本在住歴30年以上のイギリス人経営者が語る、組織マネジメントにおける日本人の強みと課題とは

5.連載記事

本日の対談ゲストは、日本で30年間以上生活するJ-GLOBALのJon社長だ。同社はグローバル展開する大手企業の人事コンサルティングを手掛けている。イギリス人の彼は、日本人ならではの育成などのための「曖昧な表現」や「周りの人を気遣う」といった特徴は、グローバルビジネスで大きな武器になるという。また日本の課題も明確に指摘してくれた。

日本のバーベキューから見るチームワークの良さ

稲垣:まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

Jon:イギリスから来て日本に30年住んでいます。J-GLOBALというコンサルティング会社を経営しており、異文化コミュニケーション及び日系企業のグローバル化を支援しております。

稲垣:日本でバーベキューをしたときにびっくりしたことがあるとおっしゃっていましたね。

Jon:はい。まだ日本に来て間もないころですが、バーベキュー会場でみんなと一緒にビールを飲んでいたら、ふと誰かが薪を集め始めました。すると誰かが米を洗いだして、誰かが野菜を切り出して、誰かがバーベキューセットを組み立てて、誰かが火をおこして。そこが一瞬にして工場になったんですよ。びっくりしました! 言わなくても助け合うことは素敵ですよね。日本ならではのチームワークです。

稲垣:あえてネガティブに考えると、欧米の人のおおらかな感じというのは日本人からすると結構憧れだと思うんですよ。例えば日本でバーベキューが始まるとおっしゃる通り「工場」になるわけですね。自分は何をしようかなと仕事を探す感覚です。逆に仕事をしていなくてビールを飲んでいる人に対しては「あの人は仕事してない」という空気を作ってしまうというか(笑)。なんとなく、欧米だとやりたい人が肉を焼いて、やってない人は酒を飲んでいても別に注意されないというおおらかさがあるような気がしますが、それはどう思いますか。

Jon:欧米では言われなければやらなかったり、役割分担を話し合ってスタートしたりしますね。また、ディナーパーティーでホストが全て準備したり、自ら進んで汚れた皿を洗い始めたりすると、人気者になる。でも日本のように何も言わなくても自然とみんながお互いを助け合うようなことはあまり起きないです。

稲垣:これは仕事でも通じる日本の強みですか?

Jon:はい。優秀な日本人のチームは自分の強みを生かし、お互いの弱みを言わなくても助け合うという雰囲気になります。また、日本人マネージャーは全部徹底的に決めて役割を部下に振るのは効率が悪いし、育成にならないと思っています。だから育成のためにわざと曖昧な指示をするんですね。これもう1回やってみてくださいとか、もう少し考えてやり直してとか、「あれ」を持ってきてくださいとか。部下は自分で考えなきゃならないですね。なんの「あれ」だろうな、もしかしたら「これ?」、いや「これ?」。曖昧な指示を部下に出して自分で考えさせたり、自分なりにできるようにさせたりするチャンスを与えているんですね。それから、何も言わなくてもみんながやっているというのは、「フォロワーシップ」ですよね。日本人のフォロワーシップは、リーダーシップの1つですね。

稲垣:というと?

Jon:「リーダーはなんの戦略で動いているんだろう」、「リーダーの希望はなんだろう」と意識して、言われる前に日本人の部下はやっちゃうんですね。リーダーが「あれは?」って聞いたら、もうやったよって、そういう会話ができるんですね。海外ではありえないことです。

稲垣:なるほど。曖昧な指示や暗黙知というのは時に異文化コミュニケーションにおいては「課題」とされていますが、日本ならではの強みでもあるということですね。海外の方からしたらテレパシーのようですね(笑)。

Jon:はい。だから外国人は暗黙知が伴うチームワークに参加しづらいし、事前に話があったのかなと思っちゃうんですね。さっきのバーベキューでも事前に役割分担を決められていて、私は役割がないんだろうなと外国人は思っちゃう。

稲垣:欧米の人達からしたらなんの打ち合わせもしてないのに勝手に役割が決まっていくというのは不思議なんですね。

Jon:そうですね。いわゆる異文化コミュニケーションの「ハイコンテクスト文化」です。これはエドワード・T・ホールっていう人が50年前に行った研究成果です。ハイコンテクストっていうのは、「前提は分かるだろう」、「察しているから言わなくてもいい」というコミュニケーションスタイルですね。ローコンテクストは「分からないだろう」という前提から入ります。

しかしハイコンテクストの日本人にはそういうのはくどいですね。逆に失礼。事細かく説明するっていうのは「あなたはばか」っていう意味ですね。だから大人のコミュニケーションはそういう最低限な部分だけを言うんですよね。洗練したコミュニケーションですね。しかし海外だと曖昧な指示をするマネージャーは「駄目なマネージャー」。例えば日本の課長は、ちょっといいですかってミーティングを始めますが、海外だとちょっといいですかは駄目ですよね。前の日にミーティングを決めてアジェンダを皆さんに教えなきゃなんですが、アジェンダなしのミーティングは日本人の1つの得意技ですよね。

稲垣:NETFLIXの企業文化を書いた『NO RULES』は大変面白い本でしたが、衝撃を受けたのは、彼らは「ルールを作らない、コンテクストを作る」という話でした。明確なルールで縛るのではなく、把握、コンテクスト、つまりは暗黙知を作るマネジメントです。ローコンテクスト文化のアメリカ人がハイコンテクストな日本文化になろうとしている。例えば同社は経費の申請はしなくていい、旅費規程もない。でも好き放題お金を使っていいのかというとそうではなくて、全てはNETFLIX の利益のためにという前提のもと、過去の成功事例とかケーススタディを共有し、みんなで共通概念を作っていくという。NETFLIX は日本的なハイコンテクスト文化を作っているという認識を持ちました。

Jon:まさにその通りです。素敵ですね。ルールを守るのではなく会社のために考え行動しなさいという感じ。まさに日本的です。

マルチタスクが得意な日本人

稲垣:日本のミーティングの仕方も特殊ですか?

Jon:はい。海外のミーティングはアジェンダに沿って、アイデアAについてみんなしゃべっていて、それが終わってからアクションプランを決めて、次はアイテムBについて話します。でも日本人はそうではなくAとBとCを同時に話せる、ちょっと柔らかい印象です。ルールはそこまできちんとしていないですね。日本人は順番に話していなくても、頭の中でつながりを作れます。

稲垣:確かに。それはどういう能力なんですかね。

Jon:日本人はマルチタスキング能力が高いと思います。例えば子供の面倒を見ながら料理を作るお母さんですね。仕事場でも自分の仕事をやりながら、隣の上司が電話で話している内容を聞いて、この資料が必要だろうなとさっと差し出す。すごいですね。そもそも海外だとパーテーションがあってヘッドフォンをつけて集中します。なぜならマルチタスキングをすると頭脳に毎回違うデータをアップロードしなくてはならず処理が遅くなるからですね。日本人は効率が悪くてもチームワークのほうが大事だから、オープンプランのオフィスで自分の仕事だけではなく、周りを気遣いながら仕事を進める。結果残業がどうしても多くなるんですね。

稲垣:効率よりも助け合いだと。

Jon:ある意味では仕事は遅くなりますね。その代わりに報告しなくてもお互いが何やっているか分かりますね。

稲垣:日本の時間当たり労働生産性は、47.9ドルで、OECD加盟37カ国中21位と非常に低いです。

Jon:確かにマルチタスクをやるので時間あたりの労働生産性は低いかもしれませんが、常に情報を共有・収集していますから、新しく何かをする時はスムーズにチームプレーができると思うんですよね。その効率は良いと思います。

日本の課題は「意思決定の遅さ」と「クリティカルシンキング」

稲垣:日本の課題は何でしょうか。

Jon:その1つは「意思決定の遅さ」だと思います。

稲垣:なぜ意思決定が遅くなるんでしょう。

Jon:まずマネージャー達が一人で決められないからです。リスクを避けるんですね。日系企業はリスクを管理するというより避けるんです。先に事例はありませんかという感じで自分で初めての事をやろうとしない。時間のかかる根回しをしようとする。そうすると時間がかかってチャンスを失っちゃうんですね。日系企業で意思決定が速いのはオーナー社長の企業ですね。アジア中のファミリービジネスみたいな感じで意思決定が早いんです。ミーティングは意思決定のために行う。海外ではそれが当たり前ですが、日本人のミーティングは情報共有のためです。

稲垣:確かにリスクを恐れて決めることができない人が多いと思います。他にはありますか?

Jon:「クリティカルシンキング(批判的思考)」ですね。日本人はプロセスを大事にして、価値を大事にして、人間関係を大事にする。それだと大きな変化は起こりづらいんですね。海外では、相手の意見を聞いて私は反対の意見を言う。クリティカルに考える。そのあと議論して今までになかったアイデアを一緒にその場で作って意思決定して変化が起こる。これを学校の段階で学ぶんですね。

稲垣:確かにディスカッションやディベートの授業というのは学校にはなかったですね。

Jon:私たちは小学校のころからやっていました。例えばバルーンディベートといって空を飛ぶバルーンのバスケットに人間が入っているんだけど、空気が足りなくて海に沈んじゃうから、1人1人人間を外に捨てなきゃならない。誰を先にするか、そういうディベートを小さいころからやるんです。歴史の試験も何年に何が起こったというのは覚えなくてよくて、歴史的な書類を2つ比較して実際に何が起こったんだろうと判断しなさいとか、そういう教育なんですよね。

稲垣:覚えるのではなく考えさせる教育ですよね。

Jon:大学の試験では、図書館を好きに使っていい48時間の試験とかもありましたよ。

稲垣:そっちのほうがリアルですよね。仕事をしているときは、やる気があればいくらでも調べられますから。

データドリブンな意思決定が日本の組織を強くする

稲垣:J-GLOBALは海外の日系企業のコンサルティングも多く取り組まれていますが、成功している日系企業の特徴はありますか?

Jon:例えばアジアに展開しているある機械メーカーにいいケーススタディがあります。その会社は、日本のチームプレーを外国人に教えて現地の皆さんになるべく意思決定を任せて成功しています。つまり「ローカライズリーダーシップ」。そうすると日本の改善スキルを持っているローカルの皆さんとワンチームになれる。日本からの中央集権ではなく、グローバルスピードをうまく使うといいと思うんですね。外国人に日本の働き方を教え、現地に任せる企業は成功すると思うんです。「暗黙知」、「助け合い」、「ジョブローテーション」、「お客様重視」、「社会貢献」。NETFLIXしかり、そういう日本の良さを吸収する企業が海外で成功していくだろうと思います。

そして皮肉にも今新型コロナウイルス (COVID-19) がいい影響を与えている側面もあります。皆さんがクラウドソリューションを使い始めたので、日本の組織は強くなる気がします。本当に日本と海外のギャップがなくなって、徹底的に情報共有するオンラインシステムになって大きくパフォーマンスが変わると思います。日本人は経験で決めますね。データではなく経験。人間関係を大事にしているので、ほかの部署に迷惑をかけないようにとか、誰がそれに対してどう思っているかとか、そういう付き合いが必要なんですね。クラウドソリューションが中心のコミュニケーションになっていったときには、データがより重視される。データで決めると意思決定が速くなると思います。

稲垣:日本人は人間関係で決めるから、「彼はどう思っているの」とか「あの人はどうなの、直接会って話そう」みたいな確認が増えて時間がかかってしまうということですね。それがクラウドに置き換わって、データドリブンな意思決定になっていくということですね。日本を内外から見ているJonならではの、日本の強みや課題を認識できました。ありがとうございました。

対談を終えて

失われた30年といわれ日本経済の停滞は長く続いている。私の世代以下は「経済で強い日本」を知らない。グローバルHRの勉強材料は欧米中心のケーススタディばかりだ。しかし、本当は日本ならではの強さや失ってはいけない価値があるのは間違いない。NETFLIXの成功事例にも従来の日本の強みがあった。Jonは、日本の働く文化に対して課題を指摘しつつも、多くの部分では肯定的だ。今一度自分たちの強みを再確認し、日本人ならではの組織マネジメントを見出したいと思った。


取材協力:Jonathan Lynchさん
コンサルタント(国際ビジネス・異文化コミュニケーション専門)
英国出身国。英国ブリストル大学卒(英文学と哲学専攻)。1990年に来日後、1991年に株式会社インテック・ジャパン社(現社名:株式会社リンクグローバルソリューション)に入社。1994年からはマネージャーとして国際ビジネス・コミュニケーション・スキルの指導に当たる。1997年から東京理科大学で英文ビジネスライティング等の講師業も続ける。2010年に「コラボレーション・コンサルティング」やデータに基づくマーケティングソリューションを提供する株式会社J-Globalを設立。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2420

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