COLUMN

[HRプロ連載記事]第32話:調査レポートから見る、日本で働く外国籍人材の「離職」と「モチベーションダウン」(課題解決編)

8.連載記事

先月は弊社株式会社エイムソウル、ヒューマングローバルタレント株式会社、リフト株式会社と共同で実施した「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」の「現状分析編」をご紹介しました。今月は、その課題にどう対応するべきかについて述べた「課題解決編」をお届けします。

「多様な人材の評価と採用」で必要な7つのStep

稲垣:前回は、「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」の現状分析結果を上崎さんに伝えていただきました。今回は課題に対してどう向き合っていくのかというお話になります。では、早速ですが研究チームのアウトプットを説明してください。

上崎:はい。私たちは「日本企業に求められている3つのインクルージョン」をこのようなカテゴリーに分けました。

(1)多様な人材の評価と採用(Inclusive Recruitment)
(2)外国籍人材向けオンボーディング(Inclusive Onboarding)
(3)受け入れ側の教育と体制(Inclusive Practices)

まずは、「多様な人材の評価と採用(Inclusive Recruitment)」ですが、これは外国籍人材の多様な能力・スキルを評価できる7つの採用プロセスです。

Step1の「社内人材の偏りの認識」ですが、日本は単一民族国家に近いので、どうしても考え方やバックグラウンドが似た人で構成される集団が多くなります。“自社は男性の割合が多い”とか、“夜まで残業できるような人達が活躍している”とか、そういう偏りですね。そこをまず認識することが大事になってきます。Step2が、そういう中でいろんな多様な人材を採用しようという時に、特に海外の方向けには少なくとも「客観的に伝わる職務記述書の用意」というのが必要になります。これは客観的に伝わるというのがすごく大事です。社内の人から見て問題なくても、外部の人が見て入社した時にギャップを感じるものだと客観的ではありませんので、そこの担保ですね。

Step3の「公正で偏見のない採用プロセス設計」では、どの応募者も公正に扱って、判断基準も人によって変えないようにする。例えばこの方は〇〇人だから採用しないとかそういう差別的な視点は排除するということです。そしてStep4・5は、とても重要で、我々としても1番価値提供していける部分ですが、「面接手法の設計」ですね。日本国籍でない方でも、能力や特性を見極められる公正な判断を作ったり、それを見極める面接官のスキルセットトレーニングをしたりする。ここで海外だと禁止されている質問事項をちゃんと伝えたり、こういった質問をしましょうという提案をしたりします。例えば宗教上の理由で何か配慮するべきことはありますかとか、そういったことを聞けるようにする。

Step6の「多様なメンバーによる選考実施」では、常に同じ人が意思決定者になるとその方の偏りが当然バイアスとして反映されるので、極力多様なメンバーで必要な人を見極めていく。最後のStep7は、「カルチャーフィットの見極め」。ここがやはり大事な部分で、スキル面で合っていても人柄とか価値観が合っていないとどうしても離職につながりやすくなります。自社のカルチャーに馴染めるか、こういったところの確認がすごく大事になるでしょう。

「外国籍人材向けオンボーディング」で必要な7つのStep

稲垣:次は、「外国籍人材向けオンボーディング」ですね。

上崎:前回お見せした調査でもお分かりの通り、入社後3ヵ月から半年で、大きなモチベーションダウンが起きます。オンボーディングとは、「on-board」から派生した言葉で、本来の意味は船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に対して、必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのこと。よく新規人材の受け入れ現場で使われる言葉です。今回の調査から見えたオンボーディングの課題は、大きく4つほどありました。1つ目が「外国人向けのマニュアル未整備」。2つ目が「日本人と外国人の教育研修格差」。3つ目が、「個別のサポート体制の未整備」。4つ目が「キャリアパスの欠如」。ここでも7つのStepで課題解決策を設計しました。

まず、Step1では、「オンボーディングプランの設計」をすることが重要です。今回の調査結果を見ていると、そもそもオンボーディングという考え方が日本人にあまりないですよね。さらにStep2の「入社してから寄り添うパートナーを選定」することは、すごく大事になってきます。外国人の方のコメントでも、“個人的なつながりでフォローをお願いします”とか“支援を求められる人がいない”などというコメントがありました。こういう時にオンボーディングのパートナーがいて、会社としてあなたが世話役で相談にのってあげてくださいとなっていると、その方も仕事の一環としてできますし、頼む側もすごくやりやすくなります。

Step3が、「職場メンバーとの顔合わせ」なんですけれども、これも入社時に上司とメンター、チューターだけじゃなく職場メンバー全員と顔合わせをしていく。顔合わせの大事な部分が、個人的に知り合うというところになります。その人が“どういう人でどういうバックグラウンドを持っていて”というのをお互いに知り合って、付き合っていける体制を作るということです。Step4は「職場ルール、社内共通言語のレクチャー」。これは結構どの企業も入ったら学んでくれっていうようなかたちで、新入社員を受け入れていることが多い部分だと思います。実は社内の人しか分からないルールで、事前に伝えておけば新しく入った人も分かるんだけれども、言われないと分からない暗黙知。そういったところを意図的にちゃんとプログラムにしてレクチャーをしていく。ここは大事ですね。

Step5は業務に関する「オンボーディング用の教材」ですね。これは日本語、外国語、それぞれ状況に応じて用意いただいて、かつそれがちゃんとまとまった場所にあってそこにアクセスできるようにしてあげる。そうすることで、彼らが困った時にいつでも頼れるような存在になっていきます。Step4・5に関してはレクチャーや教材というトレーニング部分なんですが、Step6・7は更に定着していくためのフォローという側面です。1つ目が、「30日目、60日目、90日目の目標作り」。大体入社して3ヵ月目ぐらいでオンボーディングができるのが理想です。1ヵ月目、2ヵ月目、3ヵ月目それぞれで達成可能、かつ彼らがこの職場でやっていけるなと思えるような目標を設定する、またそういう設定を支援する。あとは「定期的な1on1面談」で目標に近づいているのかを、上司もしくは職場の同僚を問わずフォローできる体制を作っていく。これが外国籍人材向けのオンボーディングです。

稲垣:日本でも実はオンボーディングをしっかりしているタイミングがありますが、それは新卒採用のときですね。毎年4月に入社する新卒に関しては、日本は世界で1番手厚くオンボーディングする仕組みができ上がっていて、入社前から入社後のフォローまで約2年間にわたって多くの企業がちゃんとオンボーディングしています。ところが、日本の会社は“新卒で一括採用して中途社員はあまり採らない”というのが今までの文化だったから、中途社員に関してはそれほどちゃんとオンボーディングしている会社はあまりありません。バラバラに社員が入ってきて勝手に定着するという感じだったんですが、最近はだいぶ日本国内でも新卒だけじゃなくて中途のオンボーディングを作っていこうという動きが出てきました。それが外国籍人材となると、まだまだ未整備ですから、このようなStepを参考にそれぞれのオンボーディングプログラミングを作っていただければと思います。

「受け入れ側の教育と体制」で必要な7つのStep

稲垣:最後が、「受け入れ側の教育と体制」ですね。

上崎:ここで特に大事なのは、受け入れる側が成功体験を積んで、これだったら自分達も海外の方を受け入れられると思えることです。それによってポジティブな循環が回っていくと思います。ここは今回のデータから見えた課題でいくと4つほどありました。1つ目は「日本人社員による差別、偏見」。2つ目が「ワークライフバランスへの配慮不足」。3つ目は「日本人と外国人のコミュニケーション不足」。4つ目は「硬直的な組織文化と考え方、働き方」。ここも7つのStepで解決策を整理しました。

まずStep1の「D&I推進の目指す姿の定義」。せっかく海外の方を採用する、多様な人材を採用するのであれば、それはなんのためにやっているのかということを職場の皆さんが理解できるところまでちゃんと定義して全体に周知する、ここがまず第一歩目だと思います。

Step2・3・4は今回の調査結果を踏まえて意図的に入れている部分ですが、まだまだ外国人の受け入れに慣れてない状態の時には、まず受け入れる側の上司の教育が必要になってきます。要は多様な考え方を持っている人達をマネジメントする時は、日本人にやるようにやるだけでは駄目。じゃあその時に具体的にどうすればいいのか。そういう指南書が必要になります。同時に受け入れる職場向けに「異文化理解教育の実施」が必要になるでしょう。海外の方に対しての偏見みたいなのもなくせるようなプログラムを用意する必要があります。その上で、やはり外国人と日本人がコミュニケーションをとって一緒になって生産性を高めていくことが重要となります。

Step4では「チームビルディング」と書いていますが、ここは短期的な施策として海外の方を受け入れた時に意図的に実施する施策を想定しています。例えばワークショップをみんなでやるとか、何かしら1つの課題に対して取り組んで、国籍の垣根なく関係性を作る。そんなところがStep4のゴールになります。Step5・6のあたりは、より中長期的な話になるのですが、「宗教文化に配慮した職場ルールの整備」ですね。今回の回答の中でも、例えば“自国の休暇に合わせた休暇制度がない”、“お盆だから無理やり休まされたけれども、自分の国には別の休暇があり、でもそこでは帰れなかった”みたいな声がありました。

稲垣:中国の旧正月や、イスラム教のレバランなど、それぞれの文化の休暇がありますからね。

上崎:はい、そういう配慮ですね。Step6が「外国人と日本人のコミュニケーション施策」です。これは本当に意図的にお互いがコミュニケーションして仲良くなるような施策を職場として作ったほうがいいと思います。それは一緒に出かけるとか懇親会であってもいいでしょう。日本人が職場のメンターになって、外国人の方が一緒になって、日々仕事をしていくとか。

稲垣:新卒の社員には、既存社員とコミュニケーション機会を意図的にとっている会社は多いんですけど、それを外国籍人材にも実施しようということですね。

上崎:まさにそうですね。最後のStep7が「マイノリティの意見を拾い上げるサーベイ実施」です。ここでは「マイノリティ」というあえて強い書き方をさせていただきました。外国の方を受け入れる時に、僕ら日本人側はマジョリティーで、あちらはマイノリティであるっていうことは意識したほうがいい部分だと思います。例えば意見を聞いたとしても、マイノリティの方からは出てこない、もしくは出せないみたいなことも無意識に出てくるでしょう。意図的に彼らがどう思っているのかっていう意見を拾い上げて、それで職場の改善につなげていく。そういうPDCAをしっかり回すことが大事だというStepになります。

対談を終えて

今回は、2ヵ月にわたり、弊社研究チームによる「調査の結果分析」と「課題を解決する施策」についてまとめてみた。課題がたくさん浮き彫りになった調査といえるだろう。外国籍人材にとって、日本がより魅力的な働き場所に映り、また日本人・外国籍人材双方の力を引き出し、強い組織を作るという状態になるには、まだまだ課題は多い。しかし、課題とは「伸びしろ」である。これらを解決し、ノウハウを積み上げていけば、多様な人材を受け入れた日本は、伸びしろがある分成長していく。当社エイムソウルは、この課題解決に向け、より具体的な施策を打ち出していき、日本のグローバル化に寄与したいと考えている。

【取材協力】
上崎 大輔
株式会社エイムソウル グローバル事業部研究員

上智大学(学士)、早稲田大学(修士)。2011年三井化学株式会社入社。人事部門にて、新卒採用・人材開発を担当。2016年にケンブリッジテクノロジーパートナーズに転職。大手製造業向けの業務・組織変革コンサルティングに従事。その後、旅行系ベンチャーで海外インバウンド事業の立ち上げに参画。海外1500社の旅行代理店への営業、受注案件の管理・実行を担当。2019年に退社/独立後、株式会社エイムソウル参画 本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。 https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2625

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