COLUMN
本連載では前回まで、“アジア特集”として、アジア各国の文化的特徴について、それぞれの国を知り尽くされた方々と対談をしてきた。2022年最後となる今回は、日本を掘り下げたいと思う。
2022年、サッカーワールドカップがカタールで開催され、日本はドイツ・スペインと同じ“死の組”に入り、予選突破は至難の業だとされていた。しかし、なんと世界の予想を裏切り、ドイツ・スペインを破ってリーグ1位で予選を通過した。日本初のベスト8をかけたクロアチアとの試合では惜しくもPKで負けたが、世界中を熱狂させる戦いを見せた。皆さんも日本代表の活躍に興奮し、勇気をもらったことだろう。中・高・大とサッカーに夢中になった筆者にとっても同様だが、今回のワールドカップではもう一つ、日本が世界から絶賛された行動があった。それは“日本の文化”だ。
INDEX
ワールドカップでは、日本代表選手および日本人サポーターの以下のような場面が世界から称賛された。
・森保一監督がクロアチア戦後にピッチに出てきて深々とお辞儀をした場面
・日本人サポーターが試合後の観客席でゴミ拾いをした場面
・ベンチに下がった前田選手の献身的なサポート
・ロッカールームを清掃し、そこに残した折り鶴
改めて、日本に生まれ育った自分を誇らしく感じることができた出来事だったのではないだろうか。
では、この世界に誇る「日本の文化」とは何だろうか。2022年10月、いよいよ外国人の渡航人数の上限が撤廃され、多くの外国人観光客および外国人ビジネスパーソンが入国している。2023年はさらに加速するであろうことから、今こそ、その文化を言語化しておきたい。
弊社エイムソウルは、今後急増する外国人ビジネスパーソンが日本でしっかりと定着し活躍するために、2020年より「CQIシリーズ」を続々と開発してきた。
(1)「CQI」:グローバル採用適性検査(日本に来る外国籍人材のCQを計る) 2020年ローンチ
(2)「CQI-Ⅱ」:グローバル採用受け入れ力検査(日本で外国籍人材を受け入れる日本人のCQを計る) 2021年ローンチ
(3)「CQI-Ⅲ」:海外赴任適応力検査(海外に赴任する日本人のCQを計る) 2022年ローンチ
ありがたいことに、多くの求人企業様、送り出し機関様、受け入れ協同組合様、人材紹介会社様、人材派遣会社様にご導入いただき、どのような人材がフィットするかを科学的な視点からご活用いただいている。
サービスをローンチして約3年間。よく聞かれる質問がある。「これからのグローバル化にあたり、日本は変化しないといけないのでしょうか」。答えは疑いもなく、YESだ。
進化論を唱えたダーウィンの名言に、「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」とあるように、時代の移り変わりとともに進化していかなければ我々も生き残れない。大事な論点は、「何を変え、何を変えるべきではないか」の線引きだ。
皆さんの会社でも、時代とともに様々に考え方や仕事の仕方、サービスを変化させてきたと考えられるが、一方で、「会社が大事にしてきた文化や理念、良い社風は変えるべきではない」という議論もされているだろう。筆者は日本文化においても、そのような線引きがあるのではないかと考えている。冒頭に記載したサッカーワールドカップでの出来事をはじめ、2011年の東日本大震災の混乱時にも見られた、秩序を守った行動や思いやり。これは世界に誇る日本の文化であり、時代が変わっても廃れさせてはいけない文化なのではないだろうか。
一方、年々生産年齢人口が減少している日本では、外国籍人材との関わりを増やしており、2013年から日本国内にも多くの外国籍人材が増えた。なんとその増加率は、2019年末で約238%となっている。そんな中、移民問題やいびつな技能実習制度、増加する不法労働者といった問題に加え、外国籍人材をただの“安価な労働力”として見ていることによって旧来のビジネスモデルから脱せないなど、“外国人労働者にまつわる課題”は山積みだ。これらの問題を解決しつつ前に進まなければ、日本の成長はない。こうした課題のひとつ、トラブルを起こす外国籍人材に頭を悩ます企業から、我々はよく相談を受けてきた。失踪や金銭トラブル、サボりやミスコミュニケーション、人間関係などのトラブルを起こす外国籍人材は、少数ではあるが一定数存在する。
この現象の原因には、「日本企業側の受け入れる力」の問題と、「外国籍人材の資質」の問題の2つがある。前者に関しては、「CQI-Ⅱ」の検査でデータを蓄積し、日本人の進化・成長と向き合っている。一方、後者の問題に焦点を当て、トラブル人材のデータを集めて分析すると、さまざまなことがわかってきた。日本の文化に合わない外国籍人材も一定数いるということだ。この文化のギャップは、外国籍人材だけでなく、若い世代の日本人にも当てはまる。現代の日本の若い世代は、幼少の頃からインターネットで世界と繋がり、昔の日本人よりも価値観がグローバルスタンダード化している。昭和世代のビジネスパーソンの中には、若い世代の日本人との文化的ギャップに苦しんでいる人も多くいるだろう。
エイムソウルの研究チームはこの課題を受け、「日本が大切にする職場文化」を2年前から研究してきた。前述の通り、外国から日本に来る外国籍人材はもちろんのこと、若い世代の日本人も対象とした研究だ。前述のトラブルについては、実は日本ではトラブルになっても、海外ではトラブルにならないこともある。
例えば、皆さんの部下が1ヵ月のうち3回遅刻をしたらどう思うだろうか。おそらく多くの方は、遅刻に対する指導をするであろう。しかし、当社の調査によれば、韓国・インドネシア・インド・アメリカ・中国では、3回の遅刻であれば許容されるというデータがある。対して日本のデータでは、2回の遅刻も許容されないことがわかる。
また、海外に行けば、スーパーの店員がレジを打ちながら雑談をしており、店側もお客さんもたいして気に留めない事もある。日本ではあまり考えられない行動だ。
これらの調査で分かってきたことは、日本の職場において必要な要素として、「集団適応力」、「基本的素養」、「仕事観」、「倫理観」の4つがあり、それを他国と比較すると、より高いレベルで求めるということだ。特に「仕事観」については、日本企業が大事にする仕事の心構え・価値観を計っており、「(1)勤勉さ・粘り強さ」、「(2)集中力・丁寧さ・持久力」、「(3)協調性」、「(4)素直さ」、「(5)整理整頓力・段取り力」という5つの項目で我々は定義した。この5つが、“日本が世界から評価される文化”の基本要素だ。例えばどの国でも、汚れていることはよくないことと考え、掃除をする。また、遅刻をすることもよくないことと考え、時間を守る。しかし、日本では上位の5つの項目への意識が特に高く、国の特徴になっているということだ。
我々の現時点での研究成果では、外国籍人材も若い世代の日本人も、多くの人がこれらの項目で高いポイントを取るが、低いポイントにとどまる人材が5~10%の出現率で現れる。その人たちは、実際に何かしらのトラブルを起こしていることが多く、「日本の独特な文化の中では適応しにくい人材」と言える可能性がある。2023年、我々は早々にこの検査をローンチし、日本企業のグローバル化、ネクストジェネレーションとの融合に向けた一助になりたいと考えている。
筆者自身が2014年に海外に移住してカルチャーギャップに苦戦し、2017年から大学の先生方と「カルチャー」をキーワードに日本のグローバル化に関する研究を開始したのち、いま改めて思うことは、「文化は“ただの違い”である」ということだ。文化の違いは、優劣ではない。世界から称賛された日本代表選手および日本人サポーターの行動についても、これが唯一の絶対解ではない。我々の知らないところで、様々な国や人の美徳から生まれたドラマがあったことだろう。
また、日本の「変化してはいけない文化」として上記を言語化しているが、これはこれからの時代の変化とともに変わってくる可能性もある。脈々と繋がる「日本人の精神」を受け継ぎながら、時代のうねりととともに進化していき、新しい時代を力強く生きていく日本人であってほしい。
本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3021