COLUMN

[HRプロ連載記事]第29話:グローバル化のキーワードは、「徹底すべき企業文化」と「徹底すべきではない企業文化」を見極めること

8.連載記事

前回は、弊社が6月28日から7月2日までの5日間で主催した“ダイバシティ&インクルージョンフォーラム2021「多様性がもたらす日本企業の革新」”の初日の様子をお届けしました。
今回は、Day2の様子をお届けします。第一部は、私がCQIの事業について講演させていただきました。
第二部は、様々な企業経営や組織作りに関わり、日本で最も著名な転職エージェントである森本千賀子さんと、数々の企業の組織戦略を担い、現在はAnyMind Japan社の人事最高責任者を務める水谷健彦さんとディスカッションいたしました。本コラムでは第二部の様子をお伝えいたします。

徹底すべきでない企業文化

稲垣:まずは皆さん簡単に自己紹介をお願いします。

森本:皆さんこんにちは。株式会社morichの森本と申します。ダイバーシティという文脈ですと、私は獨協大学の外国語学部を卒業しております。3分の2ぐらいが帰国子女や留学経験者で、ある意味、大学時代にダイバーシティをすごく実感しています。そのあとリクルートという非常にドメスティックな会社の中にいました。ただ私の仕事柄、海外に駐在されていらっしゃるエグゼクティブの方々へのキャリア支援も仕事の一つだったので、海外の現地にはよく赴きました。3年前に株式会社morichを設立し、CxOと企業のマッチング事業だけでなく、様々なスタートアップやNPOの社外取締役や理事を務め、20枚くらいの名刺を持って、いろんな顔を持って活動しています。よろしくお願いします。

稲垣:森本さんの人脈は本当にすごいので、企業トップのダイバーシティの考え方などもお聞きできればと思います。では水谷さんよろしくお願いします。

水谷:皆さんこんにちは。水谷健彦と申します。僕は20代の頃にリクルートに入社し、中途採用の人材紹介事業を行っていました。その後、創業期のリンクアンドモチベーションに入社して12年在籍し、取締役として同社の事業を担ってきました。このリクルートとリンクアンドモチベーションで、採用や育成、組織マネジメントということを学んで、2013年に人事コンサルティング会社の株式会社JAMを設立しました。2021年の2月からAnyMind JapanのCHROに就任しています。AnyMindは世界13市場17拠点に展開するテクノロジーカンパニーです。私自身、日本の中の日本の会社という価値観でこれまで働いてきた人間ですが、その人間がグローバルな会社に向き合った時にどんなことを感じるのかなどをお伝えできれば良いなと思います。

稲垣:ありがとうございます。第一部のCQIのお話を聞かれてどう感じられましたか?

水谷:AnyMind GROUPはシンガポールで会社を作って、アジア各国でビジネス展開し、その後日本に本格的に進出しています。なので、創業者は日本人ですが、感覚はグローバルカンパニーです。稲垣さんが話されていた、「時間の感覚」が日本人と外国人は違うという事なんですが、まさにそれを感じています。私がこの会社にジョインして会議に参加するわけですが、私の感覚はやっぱり5分前行動。部屋に入るとまず誰もいないですね。時間が過ぎても僕1人。あれ、「この会議室合っているかな?」と思って数分待っているとぞろぞろと入ってくる。私は5分前行動、みんなは開始時間になったら向かおうという感覚ですね。日本人社員も、もともと2~3年東南アジアでビジネスをしていたメンバーが日本に来ているので、そのメンバーも同じくアジア的な時間感覚です。最初は戸惑いましたが、最近はあまり気にするのをやめようと思い、私が適応している感じです。

稲垣:この時間の感覚に関しては、AnyMind社にご協力を頂き事前に調査をした結果があります。管理職172名の方にお答えいただいたアンケートで、日本が30名ぐらい、その他多国籍です。これは「月に何回の遅刻を許容できるか」に関する調査なのですが、エイムソウルが様々な企業に勤める方に実施したのが【図1】、AnyMind社の結果が【図2】です。

図1:当社サーベイ 図2:AnyMind

大まかには、我々の調査と近しいですね。日本人は我々の調査だと月に1.5回ぐらいが遅刻の許容範囲で、AnyMind社は2回強くらいなのでちょっと緩いですね。ほかの国はだいたい一緒ですが、ベトナムが遅刻に対して寛容。大体月に6回か7回ぐらいはOK。稼働日22日としたら、1/3は遅刻してもOKという感じです(笑)。

水谷:月6回の遅刻が普通ですっていうのは、ドメスティックな日本人の僕からしてみたら衝撃の結果ですね。この結果を事前に頂いたので、「ベトナムでは遅刻に対してはどうやって指導しているの?」と聞いてみたんですよ。返ってきたのは、「あんまりとやかく言っていない」という答えでした。受け入れてマネジメントしているという感じですね。更に「課題として認識しているの?」と聞いたら、「課題と思ってない」と言う回答がありました。我々はパフォーマンスで評価をするので、時間に関してはあまり重要視してないという答えでしたね。

稲垣:マネジメント方法は、ベトナムに任せているんですね。トップはベトナム人ですか?

水谷:そうです。ベトナムはエンジニア集団で、そのようなエンジニア集団の国は何ヵ国かありますが、その組織を統率しているのは日本人のリーダーです。この日本人のマネージャーはパフォーマンスをしっかり見ていますが、ベトナム人のこの時間の緩さは問題にしていないという状態です。

森本:私もベトナムに行った時に気づいたのは、時間通りにバスが来ないっていう、日本とは違う文化ですね。でもそれもその国の価値観なので、それが「だめだ!」というのは考えモノですね。

稲垣:そうですね。インドネシアでは「ラバータイム(ゴムの時間)」っていうんですよね。時間は伸び縮みするものという考え。インドネシアにも長距離高速移動の日本でいう新幹線のような電車があって、事前に時刻と座席を指定してチケットを買うんですが、絶対時間通り来ませんね(笑)。最初に乗ったときは焦りました。つたないインドネシア語で何度も駅員に確認しましたが、「遅れてる。何時に来るかわからない」ってニコニコされて。他のお客さんらしき人らも誰も焦ってない。「電車来ないから弁当食べよう」みたいな感じで。かなりカルチャーショックを受けました(笑)。森本さんは、第一部のCQIのお話を聞いてどう感じられましたか?

森本:稲垣さんが仰っていた「モノサシ・理由・メリット」に関してはおっしゃる通りだと思いました。

ここをちゃんと伝えるってことが大事なんだろうと思うんですよね。ある大手調味料のメーカーさんなんですけど、インドネシアに工場があって。日本は清掃などもとてもしっかりやっているじゃないですか。ゴミ1つ許さないみたいな文化があるんですが、インドネシアではそれを言葉で伝えるのって難しいことで、何枚も写真を撮って、置く場所・置き方を示したら皆できるようになったと言っていますね。「ほうきを立てかけなさい」、「ちゃんと掃除しなさい」って言っても皆したことがありませんし、「ちゃんと」のレベルがわからないから、それでは駄目なんだということですね。

稲垣:まさにそれはCQI-IIで言っている「コミュニケーションの工夫」の重要性ですね。「言ったでしょ」ではなく伝え方の工夫をするというのはすごく大事なんですよね。我々からすると、「ほうきを立てかける」というのは完全にイメージできますけど、外国人の方からしたら「ほうきはどれ?」、「立てかけるってなんだっけ」という話なので、そこを詳細に伝えていくっていうことが大事です。それを徹底したいのであればですが。

徹底すべき企業文化

稲垣:AnyMind社の調査で、また面白い結果があるんですが、「従業員から昇給の見直しをしてほしいと言われた場合、適正な期間は」という調査です。


図1:当社サーベイ 図2:AnyMind

エイムソウルが調べた色んな会社の結果では、3ヵ月ぐらいでようやくポジティブな結果になります。要は、3ヵ月未満で成長することはあまりないということです。ところが、AnyMind社の場合は、1ヵ月目くらいからポジティブな結果になっている。しかも外国人ではなく日本人ということがすごく面白い。森本さんどうですか、日本では昇給の見直しって大体半年~1年ですかね。

森本:大体大企業は1年ですよね。ベンチャーとかの中には年4回、クオーターごとにやりますっていうことをアドバンテージにして採用力を高めるというところもありますが、でも実際1年に1回ですよね。すごい成長意欲が高いですね。

稲垣:しかも日本人がこの短期間での成長マインドを引っ張っているっていうのが面白いと思います。どんな企業マインドなんですか。

水谷:今、日本法人は2019年の30名から2年で250人ぐらいに急成長しています。業績はこの2年間で日本法人だけの売り上げが100億円ぐらいに届いたんです。爆発的に伸びています。会社がこれだけ実績を出しているから、社員も短期間で成長しているという実感があるのは納得できます。当社の給与改定は今、半年に1回なんですが、それだとちょっと遅いなと思っている可能性がありますし、3ヵ月に1回にしてもいいかなとは思いますね。ただ、今のこの流れの弊害として、この2年間でかなり数字重視みたいな文化ができ上がっているところがあります。マインドやマネジメントも重要なので、少しバランスをとっている感じですね。

森本:報酬とか給与もすごくうまくいっていて、定着率も高く、外国人の方もすごくモチベーションも高くて、なおかつロイヤリティが高い、組織ロイヤリティが高いという組織があったので、何を工夫しているんですかと日本人の長の方に聞いてみたことがあります。外国人の方は個人主義が強くて評価に対してはものすごくシビアですよね、自分の報酬にそのまま反映されるから。なので、その評価の体系の2~3割を組織貢献みたいな形でおいておいたらしいんですよ。3割組織貢献をしたらしっかりちゃんと報いるよという形の評価体系に変えた瞬間、結構分かりやすく変わったと言ってました。

稲垣:その話面白いですね。要は企業文化をどう作っていくかというお話だと思います。次の調査結果がまさにそういうことだと思いますが、これは「部下からのフィードバックを依頼される頻度に関する調査」。要は部下からもっとフィードバックをくださいと言われた時に、1週間ごとにするか、1ヵ月ごとにするか。


図1:当社サーベイ 図2:AnyMind

図1は当社が一般の会社でとった結果ですね。1ヵ月のフィードバックが1番適切という感じです。しかしAnyMindさんはもう1週間からポジティブ。これもすごい特徴的です。少し前に1on1というキーワードが流行りましたけども、フィードバックの企業文化を大事にされていますか?

水谷:1on1は会社として推奨しています。週次で1on1があってフィードバックが全員になされるというサイクルが回っているのと、あとは即時フィードバックですね。何かあった時にここら辺はもうちょっとこうしたほうがいい、これはこうだよねっていう話が日常でなされています。日本の結果はその表れだと思うんですよね。若く成長意欲の高い人達が集まると、上司的な存在からのフィードバックってとても大事になるので、それは総量を増やすことが大事だと思っています。

そういう意味でいうと、コロナ禍においてもどれぐらいWork From Homeをやったかでいうと、当社はかなり少ないほうだと思うんですよね。当然ながら本人が選択できて希望すればできるんですけど、物理的に一緒にいることが即時フィードバックのやりやすさにすごくつながるじゃないですか。なので、感染対策をしながらちゃんと集まるべきメンバーは集まりましょうっていうことで、僕も2月以降に加わりましたが、いわゆるWork From Homeっていう感じのスタイルじゃないですね。昔と一緒のスタイルで出社してやっていますね。

稲垣:先ほどの遅刻に関してはこだわらないけれど、フィードバックの頻度や速さにはこだわっているということですね。

水谷:はい。ここがとても大事です。AnyMindの成長エンジンだと思います。

稲垣:面白いですね。森本さん、まさに今コロナ禍で、直接的なフィードバックの機会っていうのは減ってはいますけども、他の会社はどうですか。

森本:だいぶ今ハイブリッドの中でもオフィスワークの比率をちょっと増やしましたみたいな企業様が増えてきたっていうことと、特にベンチャー企業様ほどコミュニケーションはとても大事だということで、むしろオフィスワークを増やしているっていうところが増加している気がしますね。

稲垣:ベンチャーのほうがオフィスワークを増やしている。

森本:あえて集まることを増やして。日々大事にする指標とかは変わっていくじゃないですか。その日々の変化を共有する、1on1を毎日やるというのは例えばオンラインではなかなか難しいので、その日々の変化を体感してもらう意味でもできるだけオフィスワークを積極的に進めようとしている会社さんが増えている感じがとてもしています。

稲垣:なるほど、それは面白いですね。ベンチャーほどオフィスワークを増やしているっていうのは逆説的ですね。

リクルートグループの社内報「カモメ」は今も紙で配り続ける

稲垣:企業文化の構築について考えたいのですが、AnyMindさんはすごい成長スピードで、これからも世界中でどんどん展開されていくわけですが、当然スピードが速く広がっていくと、大事なこと、徹底したいことっていうのが十分できないことも出てくると思うんですよね。守りたい文化と展開するスピードの速さって、どう調整していくんだろうかと。

水谷:まずAnyMindの話からすると、創業してからずっとスピード速く成長しているので、大事にしてきたものがそれによって失われるというフェーズにはまだなってないんですよね。それを大事にしていたら、成長してきたっていう感じだと思います。各国及び日本も含めてビジネスユニットみたいな感覚、事業部みたいな感覚で、30人から50人ぐらいの組織が多いんですよ。この単位でみるとマネジメントがすごく難しくなっているわけではないじゃないですか。その人数を見られる事業部長がいればしっかり回るわけなので、デメリットはそんなに今出てきてないんですよね、まだ。

これがまだこのあとどうなるかっていうのは分からないんですけど、スピードをもって伸びてきた、それを支えてきた文化みたいなもので、弊害が出てきているという感じにはなってないですね。強いていうと、スピードが速い分当然ながら粗さが残る面がありますので、このあと上場とかそういったものを迎えていく中でいうと、もう少しベースをレベルアップしなきゃいけないっていうことは当然発生しますと思います。

稲垣:なるほど。森本さんどうですか。

森本:私がリクルートを卒業してもう3年くらい経つんですけど、私が20代の頃と変わらないこと、グローバルカンパニーになっても変わらないことの1つでいうと、未だに社内報っていうのが紙なんですよ。

稲垣:『かもめ』ですね。まだやっているんですか。

森本:はい。しかもまだ紙でやり続けているんですよ。

稲垣:あえて紙なんですね。OBにも届くんですか!!

森本:届くんですよ。最近、グローバルカンパニーになって変わったのは、半分が日本語で半分が英語になったこと。内容は、よく本になったりもしている「リクルート語録」、そういったものをこの言葉はこういう意味を指すとか、そういう文化になるような、企業文化のようなものをしっかり社内報の中に載せたりとか。あと自分達が今評価している人とか、すごい象徴的にフォーカスしているケーススタディとか、成功事例とか、そういうのが必ず掲載されているんですよね。それって恐らくメッセージだと思っていて、リクルートが今大事にしている価値観、仕事の価値観ですね。アウトプットっていうのはこういうことなんだよという具体的な事例を必ずそこの中に載せていて、そのケーススタディをやった人がどういう思いでこの仕事に取り組んだかとか、結果としてお客様にどういう価値提供をしたかとか。こういう結果でしたっていうことだけじゃなくてその背景までちゃんとインタビューされたものが、その社内報に載っているんですよ、紙で。

稲垣:例えば海外でバンバン派遣会社とかも買収されているじゃないですか。ああいうところにも送っているんですか。

森本:送っていますね。だから英語になっているんですよ。なおかつそういったところでのケーススタディ、成功事例も載っているんです。取り上げていらっしゃるんですよ。ドラッカーが企業文化は戦略に勝るといっていましたが、企業文化をとても大事にしている1つの象徴だなと思ってみています。

稲垣:いま思い出しましたが、僕がインドネシアにいた時、RGFインドネシアというリクルートグループがありましたが、会社に行ったときに『かもめ』が届きましたって見せてもらいました。その時の表情が印象的だったんですよね。うれしいというか誇らしいというか。

森本:ネットでも全然やろうと思えばできると思うんですよ。なんですけど、やっぱり紙っていうのは見るんですよね。見るし感じるものがある。これは多分これからも変わらないんじゃないかと思いますね。

対談を終えて

お二人とも経験豊富で様々な事例を持って話していただき大変勉強になった。企業文化は、変えるべきことと変えてはいけないことがある。特にこのダイバーシティ、グローバル化する現在では、その見極めをしていくことが重要だということだ。しかし、リクルート社の社内報をOB/OG、買収した会社、海外の企業、全てに送り続ける、という執念のような企業文化には凄みを感じた。

【登壇者】
森本 千賀子氏
株式会社morich代表取締役

1993年、現株式会社リクルートキャリアに入社。企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援などのミッションに携わり、1年目からトップセールスとなる。その後、株式会社リクルートエグゼクティブエージェントに転籍、CxOなどのエグゼクティブ層の採用支援を行う。2017年3月には株式会社morichを創業、同年10月にリクルート卒業、独立。オールラウンダーエージェントとして活躍。2012年にはNHKプロフェッショナル仕事の流儀に出演、オンラインメディアへの連載や『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』『No.1営業ウーマンの「朝3時起き」でトリプルハッピーに生きる本』など著書多数。

水谷 健彦氏
AnyMind Japan株式会社CHRO(人事最高責任者)
株式会社リクルート人材センター(現リクルート)を経て、株式会社リンクアンドモチベーションに入社、2008年取締役に就任。2013年に株式会社JAMを設立。2017年株式会社PKSHA Technology社外取締役就任。2021年2月よりAnyMind Japan株式会社のCHROに就任。リンクアンドモチベーション社が20名程度の時代に入社し、1200名へと急成長する過程を経験。その経験を礎にしたベンチャー/成長企業の幹部育成、人事制度設計、MVVの浸透が得意。AnyMindでは、既に13カ国・地域に展開する同社の組織戦略の立案から実行までを司っている。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2508

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