COLUMN
2019年1月〜12月の日本における人手不足倒産件数は前年比20%以上の増加となり、4年連続で過去最多を更新しています。そんな中、人手不足解消の一手を担う外国人採用を「始めたいけど何からすれば良いのかわからない。」「手続きが難しそうでなかなか踏み出せない」という企業も多いのではないでしょうか。そこで今回は、外国人採用を始めるための基本的な流れや注意点等を解説します。
本コラムは、年間1000件以上の就労ビザ申請を行い、業界トップクラスの取得率を誇る行政書士Climbの森川敬太先生に監修頂いています。
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INDEX
以下のグラフは、日本の生産年齢人口の推移と外国人労働者の推移を表したものですが、ご覧いただく通り、2000年には8716万人だった生産年齢人口が10年後の2030年には6773万人にまで減少するということがわかっています。一方、外国人労働者数は2018年には過去最高の146万人を突破し、今後も更に増え続けることが予想されています。このことからも、10年後には日本国内の労働者は10人に1人が外国人になるとも言われています。
まず、実際に外国人採用を始めるにあたって、重要なビザについて触れていきます。
日本で働くためには必ずビザが必要となりますが、万一許可されないビザで外国人を雇用してしまうと雇用主側は罰則を受けることになります。
そのため、採用活動を始める前に、まずこのビザの種類と条件についての基本知識を得ておく必要があるのです。
外国人が働く場合のビザは、大きく分けて4パターン存在します。
◾️1.外国人の身分に対して与えられるビザ
永住者や定住者、またその配偶者などに与えられるビザです。◾️2.仕事内容に対して与えられるビザ 技術・人文知識・国際業務などの仕事に従事する人や、企業内転勤者、特定技能者に与えられるビザです。◾️3.家族滞在や留学のためのビザ 家族がいる人が日本に滞在するためや留学生のために与えられるビザで、基本的には就労することは不可ですが、週28時間までのアルバイトであれば可能です。◾️4.その他のビザ 技能実習のためやワーキングホリデー、または難民のために与えられるビザです。 |
なお、2の仕事内容に対して与えられる「技術・人文知識・国際業務ビザ」は、以下の通りの職種や条件を満たす必要があります。
<職種>
・エンジニア
・営業
・サービス企画
・通訳、翻訳
・マーケティング
・経理
・人事、総務
<条件>
・業務内容にあった学歴であること(大学、専門学校卒等)
・もしくは10年以上の実務経験があること(国が指定する資格を有する場合は例外あり)
このビザの注意点は、飲食店や小売店での単純接客や工場のなどのライン工程、肉体労働など、いわゆるブルーカラーと言われる職種については許可されないのです。
そこで、2019年4月より「特定技能ビザ」が運用開始されましたが、この特定技能ビザは、農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服関係、機械・金属関係を含む全8業種に適応され、いわゆるブルーカラーと言われる職種を含む、これまでは雇用することができなかった職種などもカバーできるようになりました。
しかし、特定技能ビザの取得には試験の合格や管理団体への登録などの条件をクリアする必要がありますので、注意が必要です。
上述の通り、基本的なビザの内容が理解できたら、いよいよ本題です。ここで外国人採用を始めるための5つのステップについて簡潔に解説します。
まず、採用ターゲットを決定する必要があります。国内人材の採用でも採用ターゲットを決定することは最初のステップとして非常に重要ではありますが、特に外国人採用の場合は、このプロセスは欠かせません。なぜなら、上述の通り、いくら本人の適性があったとしてもビザの条件に合わない業務で就労させることはできないからです。外国人採用を開始する際にはファーストステップとして、必ず採用する職種を明確に決定し、採用ターゲットにあったビザを決定した上で採用計画を立てていきましょう。
採用ターゲットが明確になったら、採用プロモーションを開始します。国内人材の採用の場合も、新卒採用と中途採用、職種によってもプロモーション活動が異なりますが、外国人採用の場合も各採用ターゲットに適したプロモーション活動が必要になります。
●技術・人文知識・国際業務ビザで採用したい場合
●特定技能ビザで採用したい場合
●留学生を採用したい場合
でも、それぞれにプロモーション方法は変わってきますし、
●海外在住の人材を採用して日本で働いてもらいたいのか
●すでに日本にいる人材を採用したいのか
によっても変わってきます。
例えば、「技術・人文知識・国際業務ビザ」で採用したい、かつ海外在住の人材を日本に呼んで採用したい場合、特に海外の新卒人材を採用したいというケースには、日本と同様に新卒を対象とした合同企業説明会のようなイベントに現地で参加するという方法が主流です。
「技術・人文知識・国際業務ビザ」で採用したい、かつ日本にいる人材を採用したい場合は、主に特に外国人に知名度がある求人媒体への掲載でプロモーション活動を行うのが主流になっています。
また、留学生を採用したい場合は、前項目で触れた通り留学生のビザは就労は週28時間までのアルバイト雇用のみ可能ですので、外国人向けのアルバイト求人媒体への掲載が一般的です。
なお、特定技能ビザで採用したい場合、現時点(2020年2月現在)では制度が固まっておらず手法が構築されていないというのが実情です。今後は大幅に増えていくことが予想されるため、近年中には採用手法が固まってくるでしょう。
最後に、技能実習生を採用したいという場合ですが、協同組合という機関を通して採用活動を行う必要があります。協同組合は多数ありますが、業種によって得意不得意が分かれる場合がありますので、自社の業種に強い協同組合へを探してみることをおすすめします。
採用プロモーションが開始されると同時に、考えておくべきことは、応募があった際の採用選考についてです。
人材を採用する上でこのプロセスは非常に重要ですが、特に外国人の場合は日本人とは別に
・外国人を採用する目的
・外国人に適した採用基準
・受け入れ研修
など、外国人に適した採用選考の方法やプロセスをしっかりと決めておく必要があります。
言葉の壁はもちろん文化の違いがある外国人に対して、日本人と同じような感覚で採用面接を進めてしまうと、外国人の多くは、採用されても採用されなくても、その理由や求められることがわからずに不安を覚えることが多いと言います。
日本人は特にハイコンテクスト文化で、感覚的なコミュニケーションが成立する文化ですが、その「雰囲気で感じ取る」というような感覚的なコミュニケーションは外国人に対しては非常に不向きです。
(参考:外国人労働者にあなたの指示は全然伝わっていない?)
そのため、双方が納得した雇用関係を継続するためにも、どんな仕事をまかせたいのか、何を求めているのか、どのような働き方をして欲しいのかなどを明確に言葉にして伝え、わかりやすく明確なコミュニケーションをとることが非常に重要であるということを念頭に、採用選考のプロセスを決定することをおすすめします。
(参考:外国人の定着率を高めるために設けるべき“外国人に適した”採用基準とは)
次に、入社後の受け入れ研修についてですが、外国人の本来の能力を発揮してもらうためには、このプロセスもまた非常に重要です。
いくら能力のある外国人でも、前述の通り同じ文化の中で育ってきた日本人とは違って、感覚的なコミュニケーションの中で仕事や自社のことを覚えてもらったり理解してもらったりすることは非常に難しいでしょう。
仕事をする上で必要なルールや仕事内容は、しっかりと研修を通して明確な言葉や書面で伝え、理解を深めて適応してもらえるように受け入れ後の研修を勘案することが大切です。
最後に、書面等の手続きについて簡単に解説します。
外国人採用に当たって最も重要なことは、「その人の持つ就労ビザ以外の仕事をさせることはできない」ということです。
採用したい人材が決まった際には、必ず以下の点を改めてしっかり確認しておきましょう。
✔︎ 就労可能なビザを所持しているか
✔︎ 所持していない場合は、就労可能なビザを取得する条件を満たしているか
✔︎ 所持している場合は、雇用する予定の仕事内容とビザの内容があっているか
✔︎ 資格外活動許可を受ける必要があるか
基本的には就労ビザ取得までの流れは上図の通りですが、多くの手続きは行政書士に手続きを依頼することが可能です。(図の赤枠の項目は行政書士に対応してもらえる。)
この手続きにかかる期間については、おおよそ
●日本在住の人材を採用する場合は1ヶ月程度
●海外在住の人材を採用する場合は3ヶ月程度
かかると言われています。
その人の学歴や経歴、会社の規模等によっても異なりますが、手続きの流れやそれにかかる期間を鑑みた上で、採用活動を行えるよう採用計画を立てていくとよいでしょう。
外国人採用は、手間がかかるというイメージが強い人事担当の方もまだまだ多いかもしれません。もちろん、就労ビザの手続きは時間がかかることも確かですし、日本人の採用以上に手間がかかることも否めません。
しかし冒頭でも述べた通り、今後ますます人手不足が深刻化していく中で、人材の確保はますます難しくなります。
今、まさに外国人採用を検討中の採用担当の方は、いち早く採用活動を開始し、今後の自社の躍進のためにも新たな一歩を踏み出されてはいかがでしょうか。