COLUMN

2020.10.30

[HRプロ連載記事]第19話:日本は「Group Think(集団浅慮)」を抜け出してイノベーションを起こす必要がある!

5.連載記事

今月は、「CQIサービス」が「HRテクノロジー大賞」の「採用サービス部門優秀賞」を受賞したことを記念して行われた、特別講演会の初日の様子をお届けします。「多様性がもたらす日本企業の革新」というテーマで、2020年8月31日~9月4日の間、5日にわたり実施した講演会。初日は、一橋大学 名誉教授の米倉誠一郎先生をゲストに迎えて対談しました。米倉先生は、一橋大学 名誉教授、法政大学大学院 教授で、日本に「イノベーション」という概念を広め、数多くのアントレプレナーを支援されてきたイノベーション研究の第一人者です。私とは10年以上のお付き合いになりますが、今から3年ほど前に、「CQIで日本をグローバル化したい」という想いを先生にぶつけ、共感いただき、エイムソウルの特別顧問にご就任いただきました。米倉先生をはじめとする専門家で研究開発チームを結成し、「CQの研究とソリューション開発」を行っています。
本対談では、日本が多様性を受け入れ発展していくために、どのような革新を遂げるべきかを議論させていただきました。

日本の生産性が低い理由

(稲垣)  米倉先生には、2019年にインドネシアで日系企業の方々や現地のアントレプレナーなど、たくさんの人にお会いいただきましたね。印象はいかがでしたか?

(米倉) 日本人の皆さんも、日本を離れ異文化の地で頑張っておられましたね。心からエールを送りたいと思います。そして、稲垣さんに紹介してもらったインドネシアの方々にも飛び切り優秀な人がたくさんいましたね。インドネシアの奥深さを実感しました。ただ、まずいな、と思ったのは、「優秀なインドネシア人がなかなかいない」と日本人が言うこと。これは本当に問題だと思うんです。要するに、日本人や、日本企業に合う人間、日本語ができる人間だけを集めると、真に優秀な人たちは外れてしまう。カルチュラルフィットを考えないでこっち側の問題だけを押し付けるのは、非常にまずいことだと思うんです。それを科学的にデータから調べていこうという「CQI」が大きく注目を浴びているというのは、非常に素晴らしいと思いますよ。今日は、なぜ多様性が大事なのかを考える中で、「Group Thinkを憂う」と題してお話ししていきたいと思います。

(稲垣)  日本は危機的な状況ですか?

(米倉) 日本はやはり取り残されているんですよね。1998年を「100」として、20年後の2018年にどれぐらい伸びたか、GDPを確認すると、アメリカは227%。学生達にはわかりやすく教えるために、1998年に身長100cmだった10歳児が、20年後の30歳になったとき、何cmになっているか? と例えています。アメリカ人は2m27cm、ドイツ人は1m76cm、イギリス人は1m72cm。びっくりするのは中国人で、12m95cmになっちゃう。さらに、お隣の韓国は4m45cmです。ところが、我々日本人は、たったの1m23cmですよ。これはまずくないですか? この要因のひとつとしてあげられるのが、「日本が、いかに生産性の低い働き方をしているか」ということなんです。

公益財団法人日本生産性本部が、各国の総GDPを時給換算したデータがあります。アイルランドが1位で時給100ドル以上。次いで、ルクセンブルグ・ノルウェー・ベルギー・デンマークなど、北欧の国々が上位を占めています。アメリカが6位で、ドイツが8位、フランスが11位です。オーストラリアもなんと15位です。さらに驚くのが、17位のイタリア。イタリア人があくせく働いているのはあまり見たことがないな、と思っていたのですけれど。そんな中、日本は21位ですよ。日本人って、そんな働いてないのか? というと、そんなことはないですよね。「企業戦士」たちは、毎朝満員電車に乗り込んで働きに行きますよね。では、なぜこのようなことになっているのでしょうか? やはり、「無駄な働き方」をしているんですよね。


(稲垣) 日本の生産性は、1位のアイルランドの半分以下ということですか……。

(米倉) そういうことですね。なぜだろうと考えると、日本企業は内部留保を500兆円も貯めているんですが、貯め込んでいるだけで投資をしていない。何に投資してないかというと、「デジタル」です。24時間働いても疲れないデジタルを、もっと採用しなければ。この間、政府から支給された「持続化給付金」だって、「ネットで申し込んでください」と言っているのに、現場ではそれをプリントアウトして、人力で原本との確認作業をしている。まったくデジタルに投資をしてこなかったわけです。今までのやり方を“全力で”やっているだけで、全然新しい概念・考え方が入っていない。多様性からイノベーションが起きていないんです。

(稲垣)  あえてお聞きしますが、「多様性の効果」とはなんなのでしょうか。

(米倉)  僕も昭和の人間ですから、「行くぞ! みんなで徹夜だ!」といった働き方が良いことだと思っていた時代もありましたが、2016年にデイビッド・ロック氏とハイディ・グラント氏が、「ハーバードビジネスレビュー」に「Why diverse teams are smarter(多様性のあるチームはなぜ賢いのか)」という論文を書いたんです。その中に、アメリカの366のパブリックカンパニーを対象とした面白い調査がありました。人種的に多様性の高い企業の上位25%は、同業者平均よりも35%業績が高いという調査結果だったんです。女性が多いという性的多様性が高い企業の上位25%は、同業者平均より15%高い。Credit Suisseも同じようなことをやっていて、「2,400社のグローバルカンパニーで、ボードメンバーに1人でも女性が入っていると、他の入ってない業者よりも高業績だった」というデータを示しているんですね。

(米倉) また、アメリカでは社会心理学者が、さまざまなビデオや証拠を集め、200人で本当に起きた事件の「模擬裁判」を行いました。あるチームは白人だけ6人の陪審員。別のチームは白人4人に黒人が2人。また、あるチームは女性が入っている。結果を見ると、多様性の高いチームのほうが、事実誤認が少なく、実際に下された判決に近い結果を出しました。

もっと面白い実験もありました。テキサスとシンガポールで行われた行動心理学の実験では、金融知識を同じもつ証券マンを200人ほど集めて、チームを作り、ひとつは「シンガポール人だけ」、別は「中国人・香港人が入っている」、そして、「アメリカ人も入っている」、「アメリカ人だけ」、「日本人だけ」……そういったチームで「模擬マーケット」を作って株価を推定させる。そうすると、多様性の高いチームのほうが約58%、つまり半分以上、正確な株価を当てた、といいます。この実験、面白いでしょ。

さらに、スペインの調査では4,277の研究開発部で、女性が含まれる研究開発のほうがよりラディカルなイノベーション、今までにないようなイノベーションを生み出した。イギリスの調査では、これよりももっと大規模で7,615社のうち文化的多様性、いわゆる経営陣にいろいろな人種の方々が入っているほうが、モノリシックな企業よりも新製品開発に対して新しい商品を次々出しているんです。なぜだと思いますか?

(稲垣)  多様性のあるチームの方が、意見が違うので議論が活発になるからですか?

(米倉) その通り。事実をしっかり見て議論するんです。同じ人種の人間だけが集まったら、誰かが「こうだよね」と言うと、みな「そうだよな」と納得してしまう。ところが、違う考え方の人間がいると、「え? そうだっけ」と、一度立ち止まってみる一言が出る。

(稲垣)  多様性があると「形式知化する」ということですか。

(米倉) そう。みなが当たり前だと思っている「暗黙知」は、考えが浅くなっていくんですよね。暗黙知で伝わる会話をしていても、違う人種、違うバックグラウンドの人間がいると、「いやいや、それ違うんじゃない?」という話が出るんです。同じような仲間と働くことは、単一的な仕事をする時には良いんですよ。ただ、ちょっと複雑なことを行う時には、「それは本当?」、「いや違うんじゃないですか?」という言葉が大事なんです。

この、「いや、それは本当?」という疑問に対して、同質性が高いチームは、心理学用語でいう「Group Think」に陥る。「Group Think」は、今では、日本語だと「集団思考」と訳されてしまうんです。しかし、やはり昔の人達は事実に対して謙虚だった。意味を読み込んで、「集団浅慮」と訳した。みんなで考えていると、思考は深まるようでいて、実は浅くなっていく。「そうだよね?」と言われて、疑いなく「そうだよね」と同意する。「これは2人で考えて一致したことだから、間違いないよね」と。でも、実はどんどん考えが浅くなっていく。日本では、知らないうちに同じような考え方、物の見方をしている人達を集めすぎてしまったんです。

その点、例えばAmazonという企業はすごいんです。今、日本のオフィスだけでも14ヵ国の人達が6,000人ぐらい働いているのですが、本社に行ってびっくりしたことがありました。プレイヤールーム(お祈りできる部屋)はもちろんありますし、寝る部屋もあるし、搾乳室まであったんです。社長のジャスパー・チャン氏に「すごいね、こういった設備があったほうが、やっぱりイノベーティブになるから?」と聞いたら、答えは簡単でした。「顧客がこれだけ多様化しているのに、会社が多様化しなくていいわけないじゃないか。日本は、女性の服を作っている会社のボードメンバーのほとんどが男。あるいは、若者のことを考えなきゃいけない研究開発チームのメンバーのほとんどが50歳のおじさん。これは、間違っているよね」と。

トム・ピーターズ氏が出した『新エクセレント・カンパニー AIに勝てる組織の条件』という本では、「少なくとも人口構成と同じぐらい、企業の役員会は多様性をもったほうがいい」といっています。これは、特にアメリカがあてはまりますね。日本の役員会も男女比率をフィフティ・フィフティくらいにしたほうがいい。そうなってくると、顧客がもっと見えるようになるんだろうなと思います。

転んだ人を笑うな。彼らは歩こうとしたのだ

(稲垣) そんな日本は、多様性への適応力が弱いのでしょうか?

(米倉) 今の日本は、「Group Think」になっていて、弱くなっているかもしれないけれど、本来は強いと思うんです。幕末なんて、地方のなまりの強い方言で西郷隆盛や坂本龍馬、勝海舟などが語り合い、外国人を雇って、わずか20年で日本の繊維産業という国際競争力を獲得したわけですよ。これは世界的に見てすごいことです。ところが、だんだんとモノリシックになっちゃったわけですよ。戦争に行く、日本は神の国だなんて言い出してしまって、国民みんなが同じ思考に陥った。そして、戦争に負ける。

渋澤 健さん(渋沢栄一の直系の子孫)が、「30年ごとに分けて見ていくと、日本は面白い」とおっしゃっていました。1867年に明治維新、それから30年間頑張って日清・日露戦争に勝ち、先進国のひとつになるわけです。しかし、先進国になったと思い込んで、今度は傲慢になって戦争に突き進んで負ける。それからまた、1930年から戦争に入っていき、戦後を含めて50年頃はバタバタするんだけど、60年ぐらいにもう1回目が覚める、というわけです。「これからは高度成長だ」、「戦争では欧米には負けたけど、経済では負けない」と、30年間、ガンガン頑張って、1990年にバブルが弾ける。それからさらに30年間経って、今はノタノタしているわけよ。ということは、日本はこれからです。

(稲垣) まさに今30年経ったところですね。日本でも多様性をもってどんどんイノベーションを起こしていきたいですが、イノベーションを起こす人材は、年齢が若いほうがいいのでしょうか?

(米倉) ウルマン風にいうと、「年齢は青春とは歳の数ではない。心の持ちようだ」と。今、蓄電池の世界ですごく伸びている、エリーパワーという企業があるのですが、そこの社長は今、80歳代ですよ。69歳で起業したんです。三井住友銀行の副頭取までやった方です。あのような方を見ていると「人は年齢ではないな」と思いますね。「心の若さ」です。ただ、やはり物理的に年をとると、頭は固くなるし、馬力がないとできないこともあるから、そういった意味では、若い人にたくさんの経験をさせたほうがいいと思います。ただし、若ければいいというものではない。もうひとつ大事なことは、「失敗した人に再登場してほしい」ということです。

(稲垣) 僕が好きな米倉先生の言葉に「転んだ人を笑うな。彼らは歩こうとしたのだ」というのがあります。本当に素晴らしい言葉だと思います。最後になりますが、そんな日本の将来は明るいでしょうか。

(米倉) 僕は歴史家なので、よく「歴史は繰り返しますか?」と聞かれます。「おお、繰り返すよ、歴史を学ばない者には。おお、繰り返さないよ、歴史を学ぶ者には」。これも同じ。「日本の将来は明るいですか?」、「おお、明るいよ。明るくしようと思っている人間には。おお、暗いよ。何もしない人間には」。ですから、ちょうど我々にかかっているんですよね。日本の将来を明るくするか暗くするかは。

「チャーチルの、ペシミストは素晴らしいオポチュニティがあるのに、できないという」、「オプティミストはどこを見てもできなさそうだけど、ここはできる、ここはすごい」というのと同じです。日本に今、必要なのは「楽観主義」。我々はできますよ。だって、これだけのインフラをもっていて、これだけ清潔で、これだけエフィシェントなんです。例えば、新幹線の年間遅延時間はたったの「8秒」ですよ。10分に1本走っているのに。こんな国ないですよね。人は親切、食べ物は美味しく、しかも安い。今どき5ドル程度で昼ごはんが食べられる国なんて、そうそうないですよね。牛丼ならお釣りもくる。そういうアドバンテージでみんなが国際競争力を意識してほしい。

英語もティーンエイジャーがしゃべるような英語じゃなく、意志を伝えられる英語にすることが大事。ペラペラ流暢にしゃべれなくてもいいんです。「きちんと伝える英語」を学べばいい。世の中にはいろんな英語があるんですから。今、世界で1番英語を使っている人はどこの国の人だか知っていますか? 中国人です。13億人が英語を話す。インド人もしゃべります。ネイティブじゃないから少しわかりづらいですけどね。だから、こういった英語にみんなが慣れていき、大事なのは言葉ではなくて中身だという世界になってくると面白いですよね。

(稲垣) 最後に、先生が「CQI」に期待していらっしゃることや、アドバイスをいただけますでしょうか。

(米倉) やはり、「データ×カルチャー」という部分です。イタリア車のアルファロメオが中国で車を販売するときに、パートナーに選んだのがアリババです。彼らはあるキャンペーンで350台を販売目標とした。パートナーになったアリババはどれくらいの時間で売ったと思いますか? なんと33秒で完売です。

(稲垣) 33秒……。何が起こったのでしょうか。

米倉 「データの力」です。北京と上海と深圳の資産2億円以上の富裕層で、過去3年以上前に外車を買って、イタリアブランド好き、というデータをピックアップし、プロモーションをかけた。すると、一瞬でターゲットにアプローチできるんです。

(稲垣) 従来の、店舗を作って、広告を打って、来場者に風船を配って試乗会をやって、後日パンフレットを郵送して顧客フォローをして……というやり方と随分違うのですね。

(米倉) そのやり方は、決してアルファロメオを買わない人に対して一生懸命アピールしているわけです。本当にアルファロメオを欲しがっている人のデータがあれば、マッチングは一瞬なんです。そして、CQIが面白いのは、「カルチャーに注力している」ところです。稲垣さんが講演でよく話していらっしゃいますが、日本人は「インドネシア人は時間にルーズだ」と思っている。しかし、インドネシア人は「時間を守っている」と思っている。これは、「許容度」が違うんですよね。日本は1分遅れて来たら遅刻。インドネシア人は5分遅れだったら時間に正確。そういうことを理解しながらタスクや仕事をしていくことなんですよ。

だから、日本の「暗黙知」を「形式知」にしていく必要がある。これは、バックグラウンドが違うカルチャーをもっている人同士が、協働するのに必要な工程です。大変ですけれど、だからこそこのプロセスが「集団浅慮」を抜け出してイノベーションを起こせるんです。

対談を終えて

米倉先生とのお付き合いは長いのだが、毎回お会いするたびに緊張感とワクワクを感じる。今の自分に足りないものを高い視座から指摘され、今の自分がやりたいことを暖かく引き出していただくような気持ちがする。

アリババがアルファロメオ350台を33秒で完売したように、まずはしっかりとデータを集めて、人と組織のカルチャーマッチングを実現したいと思った。今まで日本で働く外国人にたくさんインタビューをしてきたが、その会社のカルチャーに合わず、低いモチベーションで働いていたり、失望して日本を去ったりすることが悲しすぎるのだ。日本が世界から必要とされる国になるために、「CQの概念」をもっと極めていこうと思う。


登壇者:米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう)氏
一橋大学 名誉教授、法政大学大学院 教授
1981年、一橋大学大学院 社会学研究科 修士課程修了。1990年、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得し、1997年より一橋大学 イノベーション研究センター 教授。現在、法政大学、一橋大学の他に、Japan‐Somaliland Open University 学長も務める。企業経営の歴史的発展プロセス、とくにイノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究を主たる研究領域としている。経営史を専門とする一方で、関心領域を広く保ち、学際的であることを旨としている。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2206

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