COLUMN

2020.11.30

[HRプロ連載記事]第20話:ラグビー日本代表をモデルとした、多国籍出身者によるチーム作り

5.連載記事

今月は、「多様性がもたらす日本企業の革新」というテーマで5日間にわたり実施した「特別講演会」最終日の様子をお届けします。元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんをゲストにお迎えした対談レポートです。廣瀬さんは、5歳からラグビーをはじめ、大阪の北野高校、慶応大学、東芝、そして日本代表としてプレーされました。特に皆さんの記憶に強く残っているのは2015年の「ラグビーワールドカップ イングランド大会」のメンバーとして収めた歴史的な勝利だと思います。引退後のご活躍も目覚ましく、ビジネス・ブレークスルー大学院でMBAを取得し、株式会社HiRAKUを設立。ほかにもさまざまなプロジェクトに参画されています。2019年放送のTBSのテレビドラマ「ノーサイド・ゲーム」でも、チーム不動のエースという主役級の役柄で出演されていました。そんな廣瀬さんと今回は、「ラグビー日本代表をモデルとした、多国籍出身者によるチーム作りとは」というテーマで語り合いました。

日本の重要な文化を海外にルーツのある人に、どう伝えていくか

ラグビーがその他のスポーツと違うところは、日本代表になれる権利を持つには3つの道があるということです。

・出身地が日本である場合
・ご両親もしくは祖父母のうち1人が日本出身者である場合
・日本に3年以上継続して移住している場合

この方々が日本代表としてエントリーができるそうです。こうした条件ですので、多くの外国籍の方が代表チームにいて、非常に多様性のある組織になっています。この組織を、廣瀬さんはキャプテンとして、エディー・ジョーンズ監督とともにまとめ上げてきたわけですが、そこには、日本企業が学ぶべき「ダイバーシティ&インクルージョン」の要素が詰まっていました。

(稲垣) 今回、5つのご質問を用意いたしました。まずは、お手元の「〇×」の札をあげて回答していただいて、その理由を後で詳しくうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

(廣瀬) 了解です。よろしくお願いします。

(稲垣) ご回答ありがとうございました。ではさっそく、1つ目から行きましょう。「自分の過去を振り返ると、異文化に適応する力が高くなった、と感じる時期がある」。これは「〇」とあげておられました。大体何歳くらいのことで、どのような経験ですか?

(廣瀬) これは、外国にいる時に限らず、国内でもありました。僕は大阪出身なので、東京は人も環境も「異文化」に等しかったです。田舎の公立高校出身なのですが、慶應大学に入ったら、幼稚舎から通っているお坊ちゃんもいる。これも完全に異文化体験でしたね。入学当初は衝撃的でした。

(稲垣) すごくよくわかります。私も関西で育ち、仕事で東京に来たのでカルチャーショックが大きかったですね。

(廣瀬) その後の異文化体験としては、やっぱり外国人選手との触れ合いですね。外国人監督エディー・ジョーンズさんなんか、まさにそうでしたね。

(稲垣) エディー監督とのやりとりで感じたカルチャーショックで、特に覚えているエピソードはありますか?

(廣瀬) 大敗した試合の後の記者会見で、エディー監督が隣ですごく怒っていらっしゃって、最後に僕がコメントを求められた時のことですね。既にエディーさんが怒り心頭で、すべてのことを話し終わっていたので、これ以上、僕には何も言うことがないなと思って、ちょっと苦笑いしたんです。その瞬間に「It’s not funny!This is the problem of Japanese rugby!!!(全然面白くない! これが日本ラグビーの問題だ!!!)」と、めちゃくちゃ怒られてしまって、「うわー」と思いました。

(稲垣):こういう場面で笑うから日本のラグビーは駄目なんだ! と……。

(廣瀬) そうです。あと、日本人は割と「イエス/ノー」をはっきり表現しませんし、あまり自分の意見がない。ミーティングが終わってからブツブツ文句を言って、後から「俺、実はこう思うんだよ」というのが結構多いですよね。でも、外国人の選手は、ミーティング中に「イエス/ノー」をきちんとはっきりさせます。

(稲垣) 特に、異文化というか多様性のある人達が所属する日本代表に入って、そういった新しい価値観を学んだという感じですか。

(廣瀬) そうですね。でも、学んだ一方だけかというと、そうでもないとは思います。僕達の規律――時間を守るとか、めちゃくちゃ耐え忍んでハードワークをこなすなどということは、トンガやフィジーの人はあまり得意ではありません。でも、そこは僕達流に合わせてもらうことによって彼らのポテンシャルが最大限についたと思っています。必ずしも、日本が下だと思う必要はなくて、「お互いに良いところを認め合う」というスタンスが大事かなと思います。

(稲垣) それについては、ぜひ3番の問題にも関連してうかがいたいのですが、先ほどおっしゃった「時間に対する感覚」など、日本独特の文化がありますよね。海外出身の選手たちも日本から学んでいることがあるというお話ですが、「日本独自のやり方」を徹底したところはどんなことですか。

(廣瀬) 時間については、すごく徹底しました。そこは僕達が大事にしているルールです。なぜなら、試合は「80分」と決まっている中でパフォーマンスをしっかり出さないといけないのに、時間にルーズな人がそんな舞台で最大のパフォーマンスが発揮できるわけがない。

(稲垣) 時間について、日本人選手の方が、集合時間をきちんと守る傾向があるんですか?

(廣瀬) はい、日本人の方が守ります。ニュージーランド人とかオーストラリア人もちゃんと守りますが、「アイランダー」と呼ばれるフィジーやサモアの人は、どちらかというとちょっとゆっくりとした人生を送っているので、時間厳守は得意ではない。

(稲垣) 「徹底した」とは、どのようにしたんですか?

(廣瀬) 誰かが一緒についてあげるとか、「一緒に行こうよ」と誘うとか。自分は早めに集合場所に行って、来てないなと思ったら、ちょっと見に行くとか。ルールに慣れるまで、最初はこういった感じのやり方でもいいのかなと思いました。

(稲垣) なるほど。彼らフィジーの人達から、「なんでそんなに時間を守らなきゃ駄目なの?」という戸惑いや疑問は出なかったんですか?

(廣瀬) 多少はあったかもしれませんね。しかし、そこは「僕達が大事にしているルールだ」と説明をしました。妥協するべき点というか、譲り合うところと譲らないところというのはきっちり線引きする必要があります。

先ほど「目的意識」というお話もありましたが、「これはなんのために必要で、将来、僕達はどんな世界を作りたいのか」というところまで踏みこんで話をすれば、僕らがただ単に嫌がらせをしているとか、強制的に日本のやり方に従わせようとしている、というふうに受けとられることはないんじゃないかなと思います。

(稲垣) なるほど。では、そうした説明に対して衝突や反発みたいなことは、あまりなかったですか。

(廣瀬) そうですね。あと、この衝突が起きる原因をつきつめると、人間関係といった根本的なところに行きつくのかなと思うので、まずはいい人間関係を築いて、そのあとに、「このルールを守ることは大事だから、ちゃんとやろうよ」って伝えたら、「そうだね」と納得してもらえるんじゃないでしょうか。

「How」ではなく、「Why」を握れ

(稲垣) いったん設問が戻って、2番目に行きましょうか。日本代表のチーム内で、「多様性がぶつかり合ったことがマイナスに働いたことはなかった」ということですが、「ぶつかったこと」自体はあったんでしょうか?

(廣瀬) はい、もちろん。多様性のあるチームでしたので。正直、これはちょっと迷いました。確かにいろいろな国の人が集まることによって、「1つになる」には時間はかかりました。いわゆる、空気で感じ取る「阿吽の呼吸」のような、「なんとなくだが、こうだ」というポイントが、日本人だけなら一緒です。これだと、ローリスク・ローリターンだと僕は思っているんですよ。

ただ、多様性があるといろんなバックグラウンドの人がいろんな意見を言うので、まとまるのに結構時間はかかるんです。でも、時間がかかった分だけ絆も深まりますし、さまざまな意見が出てくる中で、それこそ「自分達だけの当たり前」に気づくこともある。良い部分を吸収して化学反応も起こります。衝突もあったけれど、結果的にはプラスに働くことが多かったんじゃないか、という気がしています。

(稲垣) ラグビー日本代表は、選抜されてからワールドカップに出場するまで、どれくらいの期間、メンバーたちと一緒にいるんですか?

(廣瀬) 2015年の代表チームですと、120日ちょっとくらいですね。一緒に合宿をして、ワールドカップ期間は40日~50日くらい一緒、という感じでしたね。

(稲垣) すると、1年間のうち160~170日間、一緒にいるわけですか。企業で例えると、日本企業の稼働がだいたい年間240日くらいですから、週3~4日くらい稼働している感じですね。そう考えると、一緒にいる時間は多いですね。

(廣瀬) 実は、その点は「ラグビーが恵まれている」といわれているところでもあって。例えば、サッカー日本代表は、少しの間しかメンバー全員で集まれないんですよね。パッと集まってパッと試合をする。なかなかチームが作れない、という話も聞きます。

(稲垣) そういった多様性のある人達と「ワンチーム」になっていくためには、時間の長さも大事ですか?

(廣瀬) そうですね。やはり、合宿で同じ時間を過ごして、同じご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、寝て、また練習して……みたいな。「そこは特別なのかな」と思うところはありますね。ただ単に、集まって遊んでいるわけじゃなくて、割ときついハードルをみんなで乗り越えていくので、そういったところから絆が生まれるのだろうと思います。

また、僕達が掲げていた最終的な目標・世界観は、チームメンバーの誰にとってもすごく誇らしくて格好良いものだったので、「それに向かって頑張ろう!」と一丸となった意識もあると思います。

(稲垣) 廣瀬さんのご著書には、『大事なものは大義だ。勝つチームには大義が必要だ』と書かれていましたね。「憧れの存在になる」というのが、1つの大きな旗印だったと思うんですが、そこは、メンバーみんなが賛同してコミットしたような、いわゆる「大儀」になったんでしょうか?

(廣瀬) そうだと思いますね。堀江選手は「ちやほやされたい!」って、テレビでも言っていましたけど、そんなの感じで決めていいんです。2019年日本代表を見ていても、そういったところはありますよね。「勝つためにやっている」というよりも、「もっとラグビーが広まって、ラグビーをプレーする人が増えてほしいから、自分が頑張ろう」という意識。それがしっかりと根付いているんじゃないかなと思います。それを、「トップダウン」ではなくて、多様性も含めたメンバー、現場のみんなで考えてきたことが大変大きかったと思っています。

(稲垣) それは、企業経営の「ミッション・ビジョン・バリュー」でいうと、「ミッション」に近いのかなと思いますね。表現が合っているかどうかわかりませんが、どういった工夫をして、そのミッションに共感をしてもらい、チームを引っ張っていったんですか?

(廣瀬) まず、「みんな楽しく幸せに生きたい」というのは、人類共通の思いなんじゃないかと思っていまして。これを共通認識にした上で、チームに落とし込むように話をしました。「僕らはラグビーの日本代表で、僕らのプレーや勝利が日本のみなさんに喜んでもらえる。こんな幸せなチームは他にないじゃないか」と。そして、「そのチャンスがあるのは僕達だけなんだから、この幸運なチームをさらに今までにないものにして、みんなに喜んでもらえたら、ものすごくハッピーじゃない? どう思う?」といったことを言うと、大体みんな、「そりゃそうだよね」と腹落ちします。

「意識の共有」ができるよう、善人に語り掛ける。さらに、リーダーがことあるごとに言う。こういうふうにして、少しずつ築いていったという気はしますね。

(稲垣) なるほど。「『みんなで幸せになりたい気持ちを誰もが持っている』ということに対しては、絶対に全員『イエス』だよね」と。それを言葉にして確認することから始める。

(廣瀬) 僕らができる「1番の幸せ」って何だろう? とか、僕らは日本代表として、誰に幸せを届けられるんだろう? とか。そうすると、「それは、今応援してくれているファンの皆さんだし、注目し、広めてくれるメディアの人だし、ご飯を作ってくれる人もそうだ。僕らが頑張ることによって、あらゆる人に「幸せ」を届けられるんじゃないか。それを届けるために、最大限僕らはやろう」と。だから勝たないといけない。

勝つため、売上を上げるためにやるんじゃなくて、「勝つ理由」ができるんですよね。これを共有・共感してもらえれば、外国人か日本人か、なんていうことはもう関係ないんだと思います。共有・共感が大事。その1番間違いない方法は、やはり、「why」を握ることなんですね。

(稲垣) 「なぜやるのか」を考える。その理由をそれぞれが握れれば、結果的に強いチームになっていく、ということですよね。

(廣瀬) そうです。「how(どうやってやるか)」では、多少甘さがあっていい。みんなそれぞれのやり方があるんです。最終的に「why」に向かっている中の「how」だから、それでいい。でも、「how」の段階を強制しすぎると息苦しくなってしまう。

(稲垣) 「why」はしっかり握って、「how」はある程度まで個人の裁量に任せてもいいんじゃないか、と。

(廣瀬) 「ちょっと」ですけどね。それぞれに、ちょっとは任せてもいいんじゃないか。もちろん「ジャパンウェイ」で、ですけれどね。そこは、お互いに様子を見ながら、なんですよ。周りの様子を見つつ、とはいっても、意外とパフォーマンスが出るものなんですよね。

(稲垣) その「ちょっと」というところが、また1つのミソだと思うんですよね。

(廣瀬) はい。この「ちょっと」には、やはり個人差があると思うんですよ。一口に「how」、「やり方」と言っても、日本人の中でもいろいろありますよね。「日本人なららこれ」というのは絶対にないと思っています。そこで「ちょっと」、「多少は」という誤差をきかせることが大事だと思っています。

チームに欠かせない「グルー」の存在

(稲垣) 多様性のぶつかりがマイナスに働いたことって、「敢えて」の衝突、というところでもあんまりないですか?

(廣瀬) 最初はやっぱりお互いストレスはあったんじゃないかなと思いますね。それこそ「ミーティングで決まったのに、なんで後でブツブツ言ってるんだ!」みたいなことはあったでしょう。そういった「すれ違い」をどうやって解決していったかというと、ちょうど間に入ってくれる人がたくさんいたんですよ。日本人で海外の経験がある選手とか、リーチ・マイケル選手みたいな、外国人だけれど高校が札幌の山の手で、東海大学出身、というのような人材。

今回のセミナーを通じてあらためて思ったのですが、「0か、100か」ではなくて、間に「75」とか、「50」とか「25」の人がいたんですよ。これが「肝」だったんじゃないかなと。

(稲垣) いい「通訳」がいたわけですね。

(廣瀬) そうですね。同じチームの中に、白黒はっきりさせるんじゃなくて、間ぐらいの人がいた。「向こうの気持ちはこうだし、こっちの気持ちはこうだ」と翻訳できる。そうすることによって、お互い「なるほど」と納得できる。

(稲垣) そういう人は、エディー監督が意識的に入れたんでしょうか?

(廣瀬) 良い選手を選んだ中に、たまたま出てきたという側面はあるかもしれません。でも、エディー監督は、リーチ・マイケル選手をキャプテン選んでいますよね。彼が「グルー」、つまり「接着剤」としての存在になった。これは、まったくの無意識というわけではなかったと思います。

(稲垣) 面白いな。なるほど、そのような「グルー」が組織には必要なんですね。

(廣瀬) 僕も今、この多国籍・ダイバーシティの中には「グルー」になる存在が必要なんじゃないかという仮説を立てています。どういったバランスが良いのかは、考えどころなんですけれど。

あと、「自分の軸をぶらさない、絶対これだ!と信じて進む人」と、割と柔軟な思考を持っている人。このバランスも面白いんじゃないかと思います。柔軟性があるということは良い面でもありますが、ふらふらと自分を変えてしまうというデメリットもあります。ただ、軸が強すぎて変われないというのも困るじゃないですか。「最適な組織のバランス」とはどんな感じなのか、というポイントにもちょっと興味があります。

例えば、五郎丸選手は、「ザ・日本人」みたいな面があって、自分の軸をぶらさない。「侍」みたいなところがちょっとあるんですよ。僕の場合は、もうちょっと柔軟で、「面白いことをやらなきゃ勝てないじゃん」みたいに考えていた部分もあって。でも、みんながみんな柔軟すぎてもいけないな、とは思っていたんですよね。

(稲垣) 廣瀬さんよりも、もっと柔軟な人もいたわけですか?

(廣瀬) 堀江翔太選手ですね。今ドレッドヘアの人ですが、あの人はもうちょっと柔軟な感じです。海外の経験があったし。

(稲垣) 確かにインタビューでも、すごくフランクですね。

(廣瀬) そうなんです。いつもあんな感じの人なんです。でも、「日本人らしさ」もきちんと大事にしていて。そんな中でかなり外国の発想も持っていて。

(稲垣):その「グルー」というのが、先ほどの「軸と柔軟性」につながっていて、いろいろな場面で役割が変わっていくのかもしれませんね。

(廣瀬) おっしゃる通りかと思います。

(稲垣) こういった「人間の相関図」のようなものは、キャプテンの時にも見えていましたか? 「今は彼がグルーになっているな」とか、「今、こちらの意見に寄っているから、反対側の意見ももうちょっとほしいな」とか。

(廣瀬) そうですね、ある程度は。「バランスをとる接着剤の役割を担える人」というのは決まっていた気がしますね。例えば、小野晃征選手は、日本人なんですが小さい頃からニュージーランドで育っているので、「見た目は日本人、頭は外国人」。そういった人が「グルー」になってくれていました。

(稲垣) 面白いですね! あと、さきほど「1年間で120日一緒にいる」とおっしゃっていましたが、最初はある意味で「普通の集団」だったわけですよね。それが、日数の経過とともに、1つのすごく強いチームになっていった。どれくらいの期間で、どの時点で変わったのでしょうか? 強いチームになってきたなと実感したのは、120日間の前半の方なのか後半なのか。

(廣瀬) 強さをすごく実感できたのは2年目でしょうか。でも、最初からこのチームは魅力的だったし、「何かが起きるチームになれるかもしれないな」というような、ちょっとワクワクした感じはありました。

(稲垣) その感じを持つにいたったのには、何か象徴的な出来事があったんですか?

(廣瀬) いいえ、結果ですね。練習中にパフォーマンスが良くなってきていること、試合をすることによって相手にしっかり勝てていることを通して、「今までできなかったことができていく」という体感によって、徐々に自信が生まれていきました。1年目(2012年)の秋、ヨーロッパで初めて勝利をあげて、2013年の春は、日本でウェールズに勝って……という感じで、「どんどん登っていってるな」という手応えは大きかったと思います。

(稲垣) 効果的なチーム作りといえば、Googleが「Project Aristotle(アリストテレス)」というプロジェクトで、チームの生産性を高めるカギを探したのですが、なかなかわからなかったようです。次に、頭のいいメンバーをそろえたらいいかというとそうではない。では、なんらかの特殊な技術を持っている人間だけを集めたらパフォーマンスが上がるかというと、そうでもなかった。1つのカギが見えてきたのは、「リーダーが自分をさらけ出す」ということに気づいた時。リーダーが率先してそうすることで、チームメンバーも自分をさらけ出し、チーム内に「心理的安全性」が生まれた。これがチーム力のカギだった、といっていました。このように、チーム力が高まったきっかけになった出来事は、何か記憶の中でありますか?

(廣瀬) 「さらけ出す」という観点でいうと、東芝に所属していた時ですね。キャプテンになった2年目でした。実は当時、不祥事が結構ありまして、ラグビー部がなくなるんじゃないかなという状態でした。それでも試合をさせてもらえると決まった時、僕自身もスピーチのときに涙も流したし、「この部を本当に守りたい。そのためには勝つしかない。だから頑張ろう」と心から思いました。あの時は本当に、内なる声をすべてさらけ出しました。その時に、チームがグッとまとまって、それによって連勝できた面はあったと思います。そういった意味では、窮地に陥った東芝での経験が大きいかな、と思います。

多様性を「チャンス」と思え

(稲垣) 「〇×問題」の4番目、「外国人の方に日本代表の誇りを持ってもらうことは難しい」は、「×」をあげていらっしゃいましたね。先ほど「whyを握れ」というお話があって、その通りだなと思いました。例えば、廣瀬さんがニュージーランド代表になることは、ラグビーのルール上はあり得るわけですよね。

(廣瀬) そうですね。僕がもし日本代表になっていなかったら、ルール上、ニュージーランドでも代表になることはできますね。

(稲垣) この場合だと、廣瀬さんがニュージーランドの誇りを持って日本と全力で戦う、ということになるかと思います。「他国の代表そして、その国の誇りを持つ」というのは、あまり障壁にならないのか、もしくはハードルは高かったけれど乗り越えられたのか。どうでしょうか?

(廣瀬) その障壁を僕が実際に経験したわけではないですけれども、例えばニュージーラン出身者が日本代表になることを選ぶということは、今後、ニュージーランドの代表にはなれないことを受け入れることになります。ですので、多少の戸惑いは必ずあるとは思います。しかし、外国で代表選手になる人は、みんなその国に住んで、その国の人が大好きで、その国のラグビーをもっと広めたいという思いの中で、プレーをしています。その結果、選んでもらえた、ということですから、みんな、すごく誇りを持って戦ってくれているんじゃないでしょうか。

僕達の場合は、チームのみんなで、国歌に出てくる「さざれ石」を見に行ったことがあるんですけれど、こういった、「ルーツ」みたいな物に実際触れて、そこに自分の「精神性」を乗せられれば、より力が湧いてくるような気がする。僕がもし、ニュージーランド代表になったら、マオリ族のところに行って、これまでの歴史を聞きますね。イギリスが侵略してきて、今はさまざまな民族が一緒に暮らしている中でこの国がある、といったところを聞いた上で、国の誇りというより、この国の人に貢献できることはないかを考えて戦うんじゃないかと思います。

(稲垣) なるほど。その国のルーツを探しに行く、実際に見に行くことで、自分もその国を好きになっていくということですね。これはスポーツ以外の、一般会社でも同じことがいえるかもしれませんね。現在の日本社会は、多様性を受け入れるには、まだまだたくさんの課題があります。日本代表という経験から、多様性を受け入れるうえで、1番重要になるキーワードはなんだと考えますか?

(廣瀬) 僕が個人的に思うことは、「多様性を『脅威』と思うか、『チャンス』ととらえるか」ということですね。

(稲垣) 多様性を「チャンス」と思えるかどうか。

(廣瀬) 「ほかの国の人が来たから嫌だな」と思うか、「もしかしたら面白いことが起きるかも」、「今まで知らないことを知ることができるかも」と思うのか。それが1つ目のマインドセットです。それで、「やっぱりうまくできないな」と感じるか、「いやいや、これはこれでうまくいくまでの途中の経過だ、絶対に将来はうまくいく!」と信じるのか。

ここのマインドセットは、僕個人が大事にしていることです。例えば、海外から日本に来てもらった選手が相手ならば、この人はよりストレスを感じているのは間違いないと思います。だから、そこを踏まえたうえで、相手に寄り添った進め方をした方がいいと思います。

対談を終えて

これから多様性の受け入れを進めていく日本にとって、本当に素晴らしいお話を聞けた時間であった。世界というレベルで戦っている廣瀬さんの言葉には重みがあったし、不思議と多様性を受け入れること自体を「楽しいこと」と感じられるお話でもあった。学びは数多くあったのだが、敢えてここでは「3つのキーワード」にまとめてみた。

(1)多様性を「チャンス」と捉えること
自分と違う意見があると、面倒くさいとか、しんどいとか、厄介だとか考えてしまう時もある。しかし、「これはチャンスだ」と考えられるかどうか。「自分とは全然違うタイプの人や意見に出会ったら、これはチャンスなんだととらえる」というのは、非常に大事ことだと感じた。

(2)「How」よりも「Why」を重視
どうしても、どうやればいいのか(how)を考えてしまいがちだが、「なんのためにやるのか(why)」、つまり最終的な目標は何かを見据えて考えることが重要だ。そこを握ることができれば、多様性のある人達とでも「ワンチーム」になれるのではないか、というキーワードであった。

(3)「グルー(接着剤)」の存在
これは、お話の中でも特に大きな学びだった。恐らく、多様性のある組織を自分で作っていく時、中間で接着剤になってくれるような人がほしいな、という感覚的なものは意識していたかもしれないが、それを組織マネジメントの中で、実際に明確に役割化して配置できれば、チーム力はもっと向上させられるのではないだろうか。多様性はもっと活かせるのではないか、と感じた。

登壇者:廣瀬俊朗(ひろせ としあき)氏
「ラグビーワールドカップ2019」アンバサダー、スポーツボランティア協会 代表理事、株式会社HiRAKU 代表取締役、NPO法人Doooooooo 理事。
1981年生まれ、大阪府吹田市出身。5歳からラグビーを始め、2004年、東芝ブレイブルーパス入団。高校日本代表や日本代表でも主将を務める。代表キャップ数(日本代表として試合に出た数)は28にのぼる。2015年、「ラグビーワールドカップ イングランド大会」で、代表メンバーとして歴史的な勝利を収める。2016年、ラグビーを引退し、ビジネス・ブレークスルー大学院に入学。2017年からは東芝ブレイブルーパスのコーチを2年間務める。2019年、株式会社東芝を退社し、株式会社HiRAKUを設立。TBSテレビドラマ「ノーサイド・ゲーム」 にも出演した。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2243

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