COLUMN

2021.02.26

[HRプロ連載記事]第23話:日本ならではの新しいダイバーシティマネジメントを構築する 一橋ICS(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)の国際エリートたちの本音

5.連載記事

今回は、一橋ICS(一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)に在籍中の留学生3名にインタビューをさせていただいた。韓国・タイ・ドイツ出身の才子・才女で、大前提として日本が大好きで、日本にいることを選択している方たちだ。彼・彼女たちが日本の文化の疑問や、就職・働く上での課題、不安を語ってくれた。出てきた課題のすべてが「日本のダメな部分」だったわけではないが、外国の方たちから見れば「非常に変わった文化」だったことは間違いない。この課題に真摯に向き合うと、改善すべきところや、特徴的なところが見えてくる。彼・彼女らの言葉の先に、「日本ならでは新しいダイバーシティマネジメントを構築するヒント」が隠されていると感じた。私も日本人を代表する思いでしっかりと耳を傾けた。

日本のコミュニケーションスタイルの特徴

稲垣 今日は一橋ICSで在学中のお三方とディスカッションしていきたいと思います。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

アルム チェ・アルムと申します。韓国からまいりました。日本に住むのは2回目で、最初は2008年です。早稲田大学に通うための来日でした。卒業後は韓国で3年ぐらい働き、もう1度日本に来てICSに入学しています。

ドロテア 私は、得能ドロテアと申します。私はドイツ出身で、夫は日本人です。8年前に日本に引っ越してきて、5年間は学校で正社員として働き、去年からICSに入って、今はコンサルティング会社でインターンをしています。

プーリット キントン・プーリットと申します。タイからまいりました。大学の卒業後からずっとタイの日系企業で働いています。その後、日本で貿易関係の会社に2年程勤めてICSに入学しました。

稲垣 ありがとうございます。では、皆さんが「日本の良いところ」だと思うのは、どういった部分でしょうか。

プーリット ご飯が美味しい。日本の和食が好きです。

ドロテア とにかく美しいです。食事や建物、着物の文化も美しくて好きです。

アルム 日本は、物のクオリティが高いですね。


アルムさん

稲垣 なるほど。では、人に焦点を当てると、日本人の性格や習慣など、内面的なところはどうでしょうか。

ドロテア どんなに小さいところにも注目するところ、それがすごく好きです。例えば、何年もかけて漆の茶碗を作るような。そうやって何か熱心に1つのことを行う。日本人には結構そういった傾向があり、好ましいと思います。

稲垣 ドイツの方も、近いような気がしますが、いかがですか?

ドロテア 日本ほどではないです。エンジニアだったらそういう傾向はあるんでしょうが、それ以外はあまり感じないですね。とにかく「早い」という感じです。物作りでも、ささっと作ったら「はい、でき上がり」という感じです。

プーリット 日本人は「相手の気持ち」を尊敬していますね。相手の時間に対してもリスペクトがある。そういうところが好きです。そして、日本人は頑張り屋さんが多いと思います。「できなくても頑張ろう」と、モチベーションを保てますね。タイ人と違うところです。

稲垣 タイは、私がかかわりのあるインドネシアと似ているかもしれません。気候が暖かいので、穏やかな性格なのかもしれませんね。日本には四季があるから計画的に物事を進める習慣がある。アルムさんは韓国と比べて日本の好きな性格や習慣はありますか?

アルム 礼儀正しいところが好きです。だから、誰と話してみても、気分が悪くなるような経験はあまりないですね。

稲垣 韓国人はどうですか?

アルム 韓国人の方が、率直にズバッと物を言うことが多い性格ですね。わかりやすい部分もありますが、コミュニケーションがはっきりしすぎていて、ちょっと驚く時もあります。

稲垣 これはみなさんもご存じのコンテクストですね。エリン・メイヤーの『The Culture Map』によると、アメリカやドイツは「ローコンテクストコミュニケーション」で、直接的な表現を好み、日本人は「ハイコンテクストコミュニケーション」で、間接的な表現を好みます。韓国もハイコンテクストですが、日本と比較すると「はっきり意見を伝える」傾向が強いんだと思います。このコミュニケーションスタイルをマイナスに感じることもありますか?

アルム ちょっと曖昧に感じる部分がありますね。

稲垣 日本人のコミュニケーションスタイルに対して困ったことはどんなことはありますか?

ドロテア 仕事をする時、時間がかかりがちなところですね。相手の気持ちを傷つけないように、大事なポイントでもはっきり言わない。しかし、実は「やりたい」とか、「やらないといけない」とか思っている。そこを読むという手間が、結構かかります。

稲垣 「本心をちゃんと伝えてくれればすぐに終わるのに、それを伝えず、遠回しに言う」ということですね。例えばこんなエピソードがあるんです。ある英会話スクールに勤めているアメリカ人が休暇後ヒゲを伸ばして職場に行ったら上司から「わー、サンタクロースみたいなヒゲだね!」と言われた。これは、言葉の内に「ヒゲを剃りなさい」という指摘をふくんでいたというわけです。彼は日本に長く住んでいるのでピンときましたが、「直接言って欲しかった」と傷ついてもいました。来日してまだ日が浅い外国の方からすると、このやりとりは、もはや暗号でしょうね(笑)。

ドロテア 私の3歳の娘はすごく元気で、叫ぶことが多いんです。ある日病院で、「静かにしなさい」ではなく「元気な子ですね」って言われました。相手の方の表情を見ると、静かにしてほしいと思っているのは、私にはわかったのですが、直接言ってほしいな……という気持ちになることはあります。

稲垣 その時の雰囲気とかシチュエーションとか表情で、「今は注意をされているんだ」と「察する」のが日本の文化なんですよね。外国の方には分かりづらいと思いますが、ドロテアさんはそのような表現でも察知できるんですか?

ドロテア 場合によりますね。どっちかよくわからない場合は、笑ってごまかします。

ドロテアさん

稲垣 アルムさんも感じることはありますか?

アルム 特に「ノー」と言う時に、表現が長くなりますね。例えば、私は何度もクレジットカードの申し込みを断られたんですが、通知の文面を読んでも、最初はイエスかノーなのか、わからなかったんです。

稲垣 どんな書き方だったんですか?

アルム 「~~が難しいです」と書いてあり、それが「ノー」だということがわかりませんでした。

プーリット 「今回は見送りいたします」もわかりにくいですね。「ほかの書類を送ってくれる」という意味かな? と思ったら、「ノー」という返事でした。

稲垣 間接的な表現であるハイコンテクストなコミュニケーション文化は、自社独自の強みとなる「暗黙知」を作り上げたり、表現に「奥行き」を持たせたりする点では、日本の良い文化でもありますが、文化の異なる人とのコミュニケーションでは、「使い分け」が大事なのかもしれませんね。

日本企業で働く不安

稲垣 ICS卒業後は日本で働きたいですか?

プーリット はい。しかし外資がいいです。

稲垣 なぜ外資系がいいのですか?

プーリット ずっと日系企業で働いてきましたが、キャリアパスが見えにくいからです。歳上の人が、なぜ成績もよくないのに主任になっているの? といったことが、ずっと自分の中で疑問として残っているんです。商社に勤めた時に、営業ですごく頑張って成果を残したんですが一向に出世できませんでした。その一方で、自分より歳上の日本人は、全然成果を残していませんでしたが出世していました。日本の企業社会では、「頑張って成果を残したら必ず出世できると限らない」と、身をもって感じています。

稲垣 なるほど。その思いは会社に伝えました?

プーリット 伝えました。「来年には必ずあなたを昇進させる」と言ってもらいましたが、私は来年ではなくて今昇進させてほしかったので、会社を辞めました。

稲垣 外資系の方が、よりキャリアパスがわかりやすいということですね。そのような経験をしても、日本で働く理由は何でしょうか?

プーリット やっぱり日本が好きだからですね。ご飯は美味しいし、日本人の性格もすごく良いと思っています。

稲垣 なるほど。「日本文化は好きだけれど、日本企業のキャリアパスは納得いかないから、日本の会社では働きたくない」と。


プーリットさん

ドロテア 私も日本に住むのは好きなので、ドイツに帰ることは考えていません。ただ、日本の会社で働きたいかどうかは、正直なところ、まだわからないです。

稲垣 日本企業で働くうえでの「不安」とは、どういったところですか?

ドロテア 2つあって、第1に「残業が多い」ところです。ドイツ人はとにかく5時に帰るので。意味があって必要な残業だったら絶対にやりますが、ただ、ほかのみんなが残っているからといって残業するのはすごく嫌です。それは絶対にやらない。

稲垣 近年ではだいぶんなくなってきましたが、上司が残っていると自分も残業しなきゃいけない雰囲気になる、という同調圧力はいまだにあるんでしょうね。

アルム それは韓国も同じですね。だから、この「残業の文化」は理解していますけれども、私もやりたくはないですね。

稲垣 韓国は儒教の国だから、「目上の人に配慮する」という習慣が、日本と同じような残業といった仕事文化に影響しているんでしょうか?

アルム はい。ただし、両国だけを比較してみると、日本の方がその意識は強いと思います。サムスンなどのグローバル企業は、ルールがはっきりと整備されています。

稲垣 ドロテアさん、2つ目の「不安」は何ですか?

ドロテア 私が女性ですから、日本会社は女性、特に子供をもっている女性にとっては働きにくいという話を結構聞くので、それもちょっと怖いです。

アルム それは私もちょっと不安ですね。女性として、働くには適しているのかどうなのか。将来、育児と仕事を両立できるか、それをサポートする環境になっているか……ちょっと心配です。

稲垣 そうですね。ジェンダーに関するダイバーシティについては、日本もだいぶ変わってきたけれど、まだまだですね。また、昇給昇格や残業への考え方などは、昔は家族経営で強い組織を作っていたことが要因でしたが、もうそこは進化しないといけないところなのでしょう。

就職活動の不安

稲垣 ICS卒業後、みなさん就職活動をすると思いますが、不安はありますか?

アルム 就職そのものが不安ですね。どのぐらい時間がかかるかもわかりません。

プーリット 日本の就職活動は、1次面接、2次面接、3次面接、最終面接もあるじゃないですか。タイの場合だと、1ヵ月以内に全部が決まり、就職できるかできないか、はっきりした回答がもらえます。でも日本はちょっと長く回答がわかりにくいです。また、日本は新卒を基準に考えるから、中途や第2新卒でも、新卒の給料とあまり変わらないことも、不安です。

稲垣 ドイツや韓国ではどれくらいで決まりますか?

ドロテア 面接は大体1つ、多くても2つなので、1ヵ月以内には済むと思います。

アルム 韓国も結構短いかな。1ヵ月ぐらいの間に面接が何回あっても、スピーディです。

稲垣 なるほど。日本は面接官が単独で決められないので複数人で合意形成する。そのために時間がかかってしまうんですね。その反面、人を採用するっていうのはとても大事なことで、簡単に辞めずに長く働いてもらいたいという慎重さはあると思います。就職するうえで大切な条件。譲れないことは何かありますか?

プーリット 「休み」です。

ドロテア 賛成です。

稲垣 「休み」とは、どういうことですか?

プーリット 日本の場合は、規則や要項に休日の日数を書いていても、実際には土曜日に出社しなければならないといった会社がたくさんあるので、そこは大事だと思います。

ドロテア 私はちゃんと休みをとれるかどうか。例えば、娘が病気になったら、普通に半日休みをとれるのかとか。あと、家で働けるフレキシブルなシステムがあるかどうか、とか。私にとってはとても大切です。

アルム 私は「ジョブディスクリプション」ですね。「何でもやってください」というのは駄目だと思っています。

プーリット タイも業務内容については、詳細に、具体的に書きますね。私は、もし1つの会社はジョブディスクリプションをはっきり書いていて、もう1社が曖昧だったら、はっきり書いてある方に就職しますね。

稲垣 ほかに、日本の会社で働くうえでの不安はありますか?

ドロテア 外国籍の人を公平に評価するかどうか、です。

プーリット それ、私も賛成です。

稲垣 プーリットさんは、以前の会社で感じたと言っていましたね。

アルム 私は今までは経験しななかったけれども、外国で働く時、その不安はいつも感じています。特に日本だけ、ということではなく、アメリカで働いていても外国籍ですから。また、正直なところ、日本で外国人がトップマネージャーになるのは珍しいと思いますが、それは韓国でも同じです。

ドロテア ドイツでもそうだと思います。有名企業でもトップマネージャーにドイツ人以外の人がなるのは本当に珍しいと思いますね。

アルム 卒業後日本で働きたいという気持ちはありますが、実際に入社したらどこまで私が組織の中でステップアップできるかは、ちょっと疑問です。

稲垣:なるほど。先ほど話に出た、ジェンダーのダイバーシティマネジメントはどうですか?

ドロテア ジェンダーも不安ですね。ドイツでもやっぱりマネジメント層には女性は少ないですが、日本よりはまだ多いと思います。

アルム 韓国もまだ少ないです。女性もだんだん増えいてると思いますけれども、やっぱり難しいですね。

プーリット タイは半分半分ぐらいです。

稲垣 タイは、結構進んでいるんですね。

プーリット そうですね。仕事がすごくできる女性達が活躍してCEOとかディレクターとかになっていることも多いです。

稲垣 では最後に、「自分の国の誇らしい文化」を教えてください。

アルム 韓国だったら「スピードが速い」ということですね。

ドロテア ドイツは「効率的に働く文化」ですね。

プーリット タイは「柔軟性」です。

稲垣 なるほど、わかりました。今回のディスカッションを通じて日本の特徴であったり、進化して変わっていかないといけなかったりする部分がたくさん見えました。みなさんのような優秀な方々に、是非、自分・母国の素晴らしい部分を活かして、日本で働いてほしいと思います。本日はありがとうございます。

対談を終えて

今まで、何百人と日本・日系企業で働く外国人の方々にインタビューをしてきた。今回のテーマは、何度も何度も聞いてきた、外国人の方々が感じる疑問や不安である。正直なところ、ディスカッションの中であがったキーワードは、7年前に私がこのような情報収集を始めた頃と変わらず、新たな発見はなかった。これは、逆に言えば、その課題が、変化なく、まだまだ根強く残っていることだともいえる。

このコラムを読んでくださった日本の方々の頭の中には、コミュニケーションの仕方、残業や休暇、昇格の考え方について、「そうは言っても仕方がない」、「これが日本人のやり方だ」と感じられた方もいたと思う。かくいう私も、外国の方から日本文化の特徴を指摘されて、そう感じることもある。しかし、人手不足により外国人の方々の働き手を増やしたり、グローバル展開のために優秀な外国人を雇い入れたり、ビジネスの相手が国境を越えていく現在、我々日本人の「特徴」を客観的にとらえ、改善すること、強みに変えること、異文化を取り入れることを見出し、「日本ならではの強いダイバーシティマネジメント」を作っていく時代なのだと思う。

【取材協力】
チェ・アルムさん

1988年、韓国ソウル生まれ。中学校の時から海外留学。初めて日本への渡航は2008年、早稲田大学入学のために。 現在、一橋大学ICSのMBAコースに在学中。

得能ドロテアさん
1984年、ドイツ生まれ。ボン大学 教養学部 日本学科を卒業後、2012年来日し、東京横浜独逸学園の事務室に入社。2019年に一橋大学ビジネススクールのMBAコースに入学。

キントン・プーリットさん
タイ生まれ。大学では経済学を専攻し、2012年長崎大学に交換留学で日本語を覚えた。2017年日本に転職。現在、車業界のコネクテッド・モビリティやMaaSなどに興味をもっている。

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2342

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