COLUMN

2020.03.25

[HRプロ連載記事]第9回:「よろしく、ありがとう、ごめんね」を言えるグローバルリーダー

連載記事

今回のコラムインタビューのお相手・豊田圭一さんは、並外れた経歴を積み上げられてこられた。お父様が三菱商事に勤められていた関係で幼少期の5年間をアルゼンチンで過ごし、上智大学を卒業されてバブル期の清水建設に入社。1994年、まだまだ終身雇用の意識が強かった中、大企業を飛び出し、留学コンサルティングの会社を興して若者が海外に行く選択肢を作った。その業界の第一人者として書籍出版や講演などを行い、今も多方面でご活躍されている。ご自身もスペインの大学院IEでリーダーシップのエグゼクティブ修士号を取得し、現在は日本以外にも7ヵ国にグループ会社を持つほか、グローバルで活躍する日本人に対して実践型海外研修「ミッション:グローバル」を実施しながら世界中を渡り歩かれている。
ということで、今回もグローバルにすごい経験を積んでいらっしゃる方が対談のお相手なのだが、例にもれず豊田さんも「大変な苦労人」だった。ご本人が体験した「25~35歳の暗黒時代」が、今の研修や信念のもとになっているという。今回は特に、豊田さんが暗黒時代と呼ぶ25~35歳くらいの年代で、自分の思うように物事が進まず「自分の人生これでいいのだろうか」と思っている方々に読んでもらいたい。この対談に自分の背中を押してくれる多くのヒントが隠されていると思う。

海外研修「ミッション:グローバル」の本質

(稲垣) 豊田さんは、「ミッション:グローバル」という研修プログラムを開発され、さまざまな国で実施されているとお聞きしていますが、どのような研修ですか?

(豊田) 日本人を対象とした、東南アジアやインドなどで実施する課題解決型の経験学習プログラムです。5日間のフィールドワークを通じて現地人の意識や考え⽅を肌で感じながら、現地企業から課されたミッションと呼ばれるビジネス課題に対して、期日までに成果を出すことを求めます。

(稲垣) 日本人を海外に連れて行って実施している研修ですね。机上ではなく海外で、実践型でやるということでしょうか。

(豊田) そうです。日本にいる時の日常とは全く違うアウェイな環境で活動することで、修羅場と成功体験の獲得を目的としています。ケーススタディよりもリアルスタディによる体験型プログラムでビジネス成果を追求する研修です。

(稲垣) そもそも、なぜそのような体感型プログラムを海外で行うという発想が生まれたのですか?

(豊田) 自分で「暗黒時代」と呼んでいる25~35歳の実体験が影響しているかもしれません(笑)。

(稲垣) 拝見する限りすごいご経歴で、「暗黒」とはかけ離れているように感じますが、そんな時代があったのですね。

(豊田) 今でこそ、こうして自分のやってきたことを書籍やインタビューなどで伝えられるようになりましたが、本当に底辺の時期を過ごしました。もともと海外勤務を希望して清水建設に入ったのですが、なかなかその順番が回ってこず、しびれを切らして3年弱で辞めて留学コンサルタント会社を起ち上げ、自ら外国にかかわる仕事を作りました。

しかし現実は甘くなかった……。顧客開拓がうまくいかず、書店の留学のコーナーにいる人に声をかけたり、TOEICとかTOEFLの試験会場の外で待ち構えて声をかけたりと、ありとあらゆる手段を使いましたが、なかなかうまくいきませんでした。数年の話ではなく10年間ずっと低空飛行。暗黒時代です。30歳になっても年収300万円程のレベルで、飲みにも行けなかったし、友達や先輩の結婚式は1回も行ったことがありません。この時代にたくさん友達を失ったと思います……。

さらに、父親が三菱商事で、弟は三井物産。エリート街道を行く2人に比べて、兄の自分は何をやっているんだ、と。周りからは、そんなに大変な環境にいるよりもっといい環境で仕事をしたほうがいいのではないかとアドバイスもされました。でも辞めなかったのは、意地と、このアウェイな状況でも仕事自体は楽しかったからだと思います。

(稲垣) その状況で仕事を楽しめたのですか!?

(豊田) 生活面とか周りの目とかは本当につらかったけれど、楽しいっていうのは、自分の頭で考えて、アクションを起こすという自由があったからだと思います。「今回はうまくいかなかったから今度はこんなチラシ作ろうよ」とか、「声のかけ方をこう工夫しよう」とか、「留学先をアメリカだけではなくて、ヨーロッパにも広げてみようか」とか。とにかく、自分の頭で考えて行動するのが、楽しかったんだと思います。

その経験が今の研修プログラムにつながるのですが、仕事って上から勝手に降りてくるものをこなすだけではだめで、自分でつかみにいかなければいけないものですよね。そうしないと充実感は得られない。どんなに高く偉いポジションの人でも、完全な安全地帯で、指示された通りにしか動いていなかったら毎日がつまらないし、成長しない。反対に、たとえお金がなかったとしても、どんなアウェイな環境であっても、自分で考えて動くことが仕事の楽しさや成長につながるのでしょう。この「暗黒時代」に、唯一私が楽しさを見出せたのが「自ら考え動く」ということだったと思います。

(稲垣) なるほど。「ミッション:グローバル研修」の本質は、「アウェイな環境で自ら考え動く成功体験」をするということですね。

(豊田) まさにそうです。私が10年の人生を費やしてつかんだ最大の財産です。あの状況でさえ、仕事に充実感を覚えることができましたから。

リーダに大切なのは、「よろしく、ありがとう、ごめんね」が言えること

(稲垣) 今、トータルで1,500人くらいの日本人に研修を行ってきたとうかがっています。日本人のグローバル化に向けて重要なことはなんでしょうか。

(豊田) 英語の勉強や異文化理解講座といったものは、日本でもできるのですが、我々はわざわざ海外に行って研修をするため、その地域でしかできないことを選んでいます。「グローバルマインドセット」にこだわっているのですが、日本人が弱い点がここです。

(稲垣) グローバルマインドセットとはなんでしょうか。

(豊田) グローバルな環境に身を置いてもいつも通りの成果を出せるマインドで、我々は7つの要素を設定しています。

主体性とか行動力とか非言語コミュニケーション力とか、グローバルな環境ではこれらがより強く必要になってきます。これは日本にいても必要な要素だと、誰もが思うのですが、日本の大きな会社にいたら、自分が主体的に行動しなくても組織が回っていく。「阿吽の呼吸」とか「独特のヒエラルキー」とかがあるので、「言わなくてもそれは分かるだろう」、「あれやっといて」といった考え方や行動がまかりとおる。

しかし、グローバルな環境では絶対に通じない。日本以外の環境にいるほうが想定外の出来事に見舞われやすいから、当然メンタルタフネスだって、状況対応力だって、より強く、高くなる必要がある。「パッション」という言葉を言い換えれば、「想い」とか、自分にはこんなミッションがあるという「信念」とかになると思います。そういったものを内面に持っていなかったら、人はついてこないですよ。日本では、あなたの仕事はこれだと言われて粛々とこなしていればよかったかもしれないけれど、グローバルな環境では、よりパッションを出していかないと人がついてこない。

(稲垣) 大企業の方でも、日本では部下はいなかったけれど、海外では急に多くの部下をマネジメントしなければいけない立場になるケースがありますからね。

(豊田) 日本の、上司がいて自分が部下だった環境を「ホーム」とすれば、海外で部下を率いるのはかなりアウェイですよね。リーダーシップというと難しく考えてしまいがちですが、私はリーダーに大切なのは、「よろしく、ありがとう、ごめんね」という3つの言葉だと思っています。

「よろしく」は、権限委譲。まず人に任せる。しかし、リーダーになる人には名プレイヤーが多いから、「なんできないんだ」とか、「俺だったらこうだ」とか、ついつい言ってしまうのですが、それは言ってはいけません。次に、「ありがとう」は、メンバーがやってくれたことに対して感謝すること。素直に自分の気持ちを言葉に表すことが大切です。最後に、間違ったら「ごめんね」と謝る。謝れないリーダーがたくさんいますが、謝罪するというより自分をさらけ出すことと考えてください。内面が見えた時に人はついてくるものなのかな、と思っています。強がらないことが大切です。でも、自分が目一杯やっていないとついていく人は納得しないから、まずはリーダー自身が一生懸命やることが大事。全力でやってみて失敗したら、きちんと謝る。そういった形でリーダーシップを発揮すれば、海外やアウェイな環境でも通用すると思っています。

(稲垣) 豊田さんは、ご自身の暗黒時代に大変苦労をなさったから、それが今のご自分を形作っている。よく「若いうちの苦労は買ってでもしろ」といいますが、そう思いますか?

(豊田) 私自身は、苦労は嫌いです(笑)。可能な限り苦労はしたくない。人生、いつも楽しくいきたいと思っていますから。しかし、先ほど言ったように一生懸命やっていこうとすると必ず困難にはぶつかります。それならば、タイミングは若いに越したことはない。若ければ、チャレンジと壁を乗り越えられるだけのエネルギーがありますから。若いうちに苦労をしたことが、結果的に人生の財産になっていた、ということだと思います。そして、うまくいかない、いやだと思ったら逃げることも大切です。私も挑戦しては失敗し、逃げては自分の弱みを知り、また挑戦してやっと成功したことで自分の強みを知って、そして今の自分のスタイルを作っていきました。

インタビューを終えて

人並外れた経歴で、グローバル研修の第一人者となっている豊田さん。最初のイメージは、洗練されたグローバルエリートであったが、実際は非常に泥臭く、体温が感じられる言葉をしきりに発する方だった。かのイチローは、「やっていることに言っていることが伴っているから、人の心が動く」と言った。豊田さんの話はシンプルだが誰かの言葉を借りているのではなく、自分の目で見つけた言葉だから温度を感じるのだろう。

取材協力:豊田圭一(とよだけいいち)さん
1969年埼玉県生まれ。幼少期に5年間、アルゼンチン(ブエノスアイレス)で過ごす。1992年、上智大学を卒業。清水建設株式会社にて約3年間の勤務後、海外教育事業で独立。17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に携わる。その間にSNS開発会社や国際通信会社も起業。 2011年にスパイスアップ・ジャパンを設立し、主にアジア新興国で企業向けのグローバル人材育成(海外研修)に従事するほか、海外7ヵ国でグループ会社がさまざまな事業を展開中。 2018年、スペインの大学院 IEでリーダーシップの修士号を取得。NPO留学協会の副理事長やレインボータウンFMのラジオパーソナリティも務める。著書に、『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』など多数。


本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1953&page=1

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