COLUMN
「力を入れて外国籍人材を採用したものの、すぐに辞めてしまう」「外国籍人材の仕事に対するモチベーションを高めることができず、なかなか定着しない」。こうした人事担当の皆様からの声を受けて、当社では外国籍人材の本音から日本企業の受け入れ課題を明らかにするための共同調査を実施しました。
『日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査』についてはこちら
その結果、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上での施策として、①インクルーシブな採用の実現(多様な人材の評価と採用)、②外国籍人材向けオンボーディング、③受け入れ側の教育と体制の強化が必要なことが判明しました。
本コラムでは、「①インクルーシブな採用の実現」について、7つのStepを中心にお伝えいたします。
②外国籍人材のオンボーディングを実現する7Stepについてはこちら
③外国籍人材を受け入れる職場向け教育と体制づくりの7Stepについてはこちら
【関連の動画セミナー(下記画像をクリック)】
INDEX
VUCAの時代と呼ばれる現代において、企業が競争力を得て持続的に成長していくためには、創造的なソリューションや革新的なサービスを開発し、新しい市場を獲得していく必要があります。そしてその実現のためには、同質性の高いチームではなく、多様性を活かしたチームのほうが優れていることが分かっています。ダイバーシティ先進国である米国では、多様性を活用するためにであることの重要性が浸透しており、さまざまな活動にインクルーシブが強調されています。
そもそも「インクルーシブ」とは、どのような状態のことを意味するのでしょうか。インクルーシブを名詞にすると、インクルージョン(inclusion)となり、日本語訳をすると「包括、包摂」といった意味合いになります。一方で、インクルージョンの反対語はエクスクルージョン(exclusion)であり、「排除、隔離」といった意味を示します。したがって、「インクルーシブである」=「排除しない」「仲間はずれにしない」状態であると捉えていただくと良いでしょう。
このように、インクルーシブなチームにおいては、「組織に受け入れられ、尊重されていると感じ、最大限に能力を発揮することができている状態」が重視されます。すなわち、従業員一人ひとりが安心して、自信をもって、自らの「違い」を出せる環境があるからこそ、多様性が発揮できるという考え方が求められるのです。
このインクルーシブの概念は、企業の採用活動においても重視されはじめてきています。そこで今回は、米国で広まっている「インクルーシブリクルーティング」についてご紹介します。
インクルーシブリクルーティングとは包摂的な採用活動のことであり、公正に選考するための取り組みを実施することです。例えば、ある米国の大企業では、人種や国籍を問わず応募できるためのしくみとして、約80か国で利用可能なオンライン採用システムを用意し、それぞれの特性や強みを生かした組織づくりができるよう推進しています。また別のある米国企業では、全社員に対し、組織における「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」を排除するためのトレーニングや、無意識の偏見に対して行動を起こすための練習を行う「バイアス・バスティング」のトレーニングを継続的に実施しています。こうした共通認識を組織に浸透させることで、採用フェーズにおける差別や偏見をなくすだけでなく、新たに採用するメンバー個々の能力や価値観をどう活かしていくべきかという共通認識の形成に繋がります。
インクルーシブな採用によって形成された多様性のある組織では、自分らしさを発揮できる環境が生まれやすくなります。その結果、一人ひとりの生産性も高まると同時に、社員のエンゲージメントが向上したり、新たな変化やイノベーションが創出されたりといった効果が期待できます。
このように、採用シーンにおいてもインクルーシブが必要とされる時代において、実際の現場ではどのような障壁があるのでしょうか。当社の『日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査』によると、回答者である外国籍人材のうち28%が、入社後1年以内の早期離職を経験していることが分かっています。また、早期離職をしていない外国籍人材のうち、53%がモチベーションダウンを経験していることも明らかになりました。
こうした外国籍人材の早期離職やモチベーションダウンの背景にある課題として、以下のような声が挙げられています。
⇒「事務、営業系採用にも関わらず、飲食店でのサービス業務をさせられました。」(技人国、イタリア出身)
⇒「仕事内容が面接時に言われたことと違っていました。」(身分に基づく在留資格、ロシア出身)
⇒「契約の中に盛り込まれていないタスクが多すぎます。」(技人国、フランス出身)
⇒「職務記述書に書かれていない仕事を実行することが求められます。」(身分に基づく在留資格、アメリカ出身)
⇒「ベンチャー企業だから社風がフランクで風通しが良いと面接の際に感じたが、入社後に実際は縦の上下関係を作る会社だと分かった。」(技人国、台湾出身)
⇒「日本の会社は自分には合わないため、帰国しようと思いました。」(技人国、ドイツ出身)
⇒「週末や休日にも働かされて代休を付与されましたが、『あなたにしかできない仕事が多すぎる』という理由で取得できませんでした。」(技人国、アメリカ出身)
⇒「海外にいるときに採用されて、来日したら勤務時間は選べると言われましたが、就業を始めると上司から勤務時間外の勤務を余儀なくされ、1日約16時間、週6日勤務することになりました。」(技人国、ザンビア出身)
それでは、実際にインクルーシブ採用の肝となる「多様な人材の評価と採用」を行うために、どのような準備が必要なのでしょうか。ここでは7つのStepに沿って説明していきます。
現状の人員構成を分析して、多様性がある組織となっているかを確認する
偏りがある場合には、どのような偏りなのか、要因は何か、採用をどう変えるべきか議論する
職務とは何か、それに必要なスキルをできるだけ明確に定義する
不必要な専門用語は避け、組織外の人でもどのような役割やスキルが求められているかを簡単に理解できるように書く
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを説明する。海外はジョブ型雇用が前提なので、そちらに合わせて伝わる職務記述書を用意する
多様な採用を実現するために、さまざまな求職者が簡単に応募できるようなしくみを整え、偏見をなくして、すべての人に公正な採用プロセスを設計する
多様な応募者に対する偏見を取り除き、候補者のスキルと経験のみを評価基準とするために、候補者リストのプロセスに関与していない人に名前、学校、場所、生年月日が表示されないようにする
企業と応募者のミスマッチを防ぐための面接手法・内容を検討する
応募者が安心して面接に臨める雰囲気を作る
面接中は、必要な事柄を引き出すためのコミュニケーションに注力する
例)①複数の面接官の場合、個々の役割を明確にする
②最適な質問を事前に準備する
③各応募者の回答をどのように採点するか決める
④補足的な質問をするかどうか決める
⑤無意識のバイアスの潜在的影響がないよう留意する
自社の魅力も伝わり、応募者もインクルージョンされていると感じる面接シナリオを用意する
質問をするときは、応募者の動機と仕事の特定の要件に焦点を当てる
積極的に耳を傾け、面接が終了した後でのみ適合性を評価する
④の視点で設計したインクルーシブな面接手法を関係者全員に共有する
できれば相互にロールプレイングを行い、各自の思考のクセや注意すべきことなどを事前に洗い出しておく
多様な観点で、偏った採用をしないように配慮する
複数のメンバーによる視点やフィードバックをもって応募者と対峙することで、多角的な評価を行えるようにする
人柄や価値観が自社に合っている人を採用する
CQI(※グローバル採用適性検査)等のアセスメントを用いて、カルチャーフィットの度合いを客観的に評価する
多様性のある組織は、一朝一夕には完成するものではありません。ただしその入り口となるのが、今回ご紹介した「インクルーシブな採用」であると考えられます。そして、インクルーシブ採用を実現するためには、組織として戦略的・計画的に採用プロセスを練り、実行していく必要があります。こうした採用に対する自社の取り組み姿勢が、新たな価値観を持った人材の獲得・定着に繋がるだけでなく、D&Iに関する既存社員の意識変革や行動変容にも良い影響をもたらすことでしょう。
②外国籍人材のオンボーディングを実現する7Stepについてはこちら
③外国籍人材を受け入れる職場向け教育と体制づくりの7Stepについてはこちら