COLUMN

「日本人社員と外国人社員が協働する多国籍組織のつくり方」とは 

6.セミナーレポート

はじめに
株式会社エイムソウルは、2022年7月7日、14日、21日の3日間にわたり、組織や事業のグローバル化によりイノベーションを生んでいる企業の方々をお呼びしたHR特別講演会(WEBセミナー)を実施しました。今回はそのなかから、DAY1にて登壇いただきましたHENNGE株式会社 代表取締役社長 小椋 一宏氏の講演およびパネルディスカッションの内容を一部編集し、セミナーレポートとしてお届けいたします。

小椋 一宏
HENNGE株式会社 代表取締役社長 1975年生まれ。HENNGE代表取締役社長兼CTO。一橋大学在学中の1996年に創業。一貫して技術部門のトップとして会社を牽引し、代表取締役社長とCTO(最高技術責任者)を兼任。2010年ごろからクラウドセキュリティサービス「HENNGE One」を立ち上げ。2019年10月には東証マザーズ市場上場を果たした(2022年4月、東証グロース市場に移行)。 https://hennge.com/jp/
<この記事でわかること>
  • HENNGEは10年前から外国人エンジニアの採用活動を行なっている会社。現在では、外国人社員約50名(20か国以上)が働いている

  • 日本人・外国人間の文化ギャップを解消するために、コアバリューを設定し、定期的にエンゲージメントサーベイ・フィードバックコメントを実施している

  • 経営者自ら変化する姿勢を見せることで、会社として進むべき道を示すことが大事である

  • マイノリティをマジョリティにしていくことが、真のダイバーシティの実現に結びつく


【関連の動画セミナー(下記画像をクリック)】

HENNGEが外国人採用に着目した理由

経営理念である「Liberation of technology(テクノロジーの解放)」という言葉に表現されるとおり、私たちはテクノロジーが大好きで、テクノロジーをなるべくたくさんの方々に届けたいという思いで仕事をしております。1996年の会社設立時からいろいろな分野でその時代に必要とされるテクノロジーを提供していますが、現在は『HENNGE One』という主力サービスを通じて、働き方を変え、生産性を向上させるSaaSの開発に注力しています。

過去には倒産の危機を乗り越えながら、2011年の『HENNGE One』リリースを機に事業が伸びていったのですが、そもそも当社がSaaSに注目するきっかけとなったのが、東日本大震災の発生でした。震災を機に世の中にリモートワークが浸透し、多くの企業がクラウドを導入するようになった流れに乗ってさまざまなサービスを開発・展開していく段階で、一番問題となったのが技術者の確保でした。

当時は社会的に国内の技術者不足が叫ばれている状況で、当社も同じ課題を抱えていました。そこで私たちは世界中から人材を集めるしかないと考え、外国人採用を行うことを決断したのです。2012年には0名だった外国籍社員も今は50名程度の人数になり、国籍数もこの10年間で20か国以上の国と地域から集めることができました。現在は会社の雰囲気にも多様性が感じられ、本当にいろいろな人種や宗教の人たちが一緒に働いているような会社になっています。

 

なぜこれほど多くの外国人採用を実現できたのか?

外国人採用の主なチャネルは「インターン」です。私自身も驚いたのですが、なんとこれまでに163の国・地域の累計約1.8万人の方から応募をいただきました。そのなかのおよそ24か国から100名程度のインターン生を受け入れて、そこから採用に結びつけていったという流れです。

とはいえ、最初は世界で人を集める方法がわからず、取り組みとしてまず実施したのが「世界中でビラを配る」ということでした(笑)。各国のいわゆるジョブフェアと呼ばれる集まりに参加し、あちこちでビラを配りました。

実践してみて気付いたのが、「日本って結構イケてるんだな」ということです。意外にも日本で働きたいという人が多かったことに驚きました。ただ、なかには「日本語が話せないと日本での就業は難しいだろう」「日本の労働風土や労働文化に不安がある」といった懸念を抱える外国人の方も多く、そのような不安を解消するための手段としてインターンを行ったのです。渡航費用や滞在費用はすべて当社が負担しました。

最初は技術者のみの採用だったのですが、次第に管理部門や営業職など職種の幅を広げ、いろいろな部署に外国人がアサインされるようになりました。

 

異文化理解の壁を打破するために取り組んだこと

ただし、実際に受け入れを進めてみると、私たちが暗黙の理解として持っているハイコンテクストな部分と彼らが理解できない部分との衝突などがたくさんありました。社内の雰囲気が悪くなってしまうこともあり私自身もとても悩んだのですが、そのような折にエリン・メイヤー氏の著書である『異文化理解力』という本に出会いました。本著のなかで、文化の違い(ハイコンテクスト文化・ローコンテクスト文化)と適切なフィードバックとの関連性に関する記述があり、国によって望まれる対応が異なるため誤解を生む点に触れられていたのですが、実際に当社内で起きていることと状況がマッチしていたのです。

そうした状況を打破するために、我々のコアはなんなのかということをしっかり定義し、このようなズレが生じている事実を皆で理解することを通して克服してきました。具体的な施策は次のとおりです。

 

①コアバリューの設定

『HENNGE WAY』という8つの価値観を設定しました。そもそも日本人、外国人双方が考えている自分たちにとっての当たり前=他者にとっての当たり前ではないため、互いのことを理解するマインドを持てるよう努めました。

 

②変化の加速

さまざまな取り組みを通じてダイバーシティが加速されると、同時に「変化が加速」していきました。「社長が着物に」「公用語を英語に」「海外拠点設立」「社名をHENNGEに」といった変化が起きた結果、新サービス開発が加速し、会社の上場にも繋がったのです。まさに変化ができる会社に変わったことが、私たちにとっての大きな収穫でした。

過去の私たちの会社は上記の左図のような、皆が一様で他者と違うことを行うことが難しい、変化しづらい組織でした。一方で現在は右図のように、皆が多様であることで逆に互いが尊重されるという良い循環が生まれています。個々が持つ背景や文化が異なると、たとえば「技術が好きだよね」「お客さんが大事だよね」といったコアの部分の共通点を探すようになります。結果、それ以外のことはあまり気にならなくなるため、全員がチャレンジしやすくなり、挑戦が評価されやすい文化が定着するようになりました。

 

今、ダイバーシティが求められる理由

1960年には1,677万人であった20代の人口が2020年では1,214万人となり、2040年には1,035万人になるという予測も出ています。20代人口が総人口に占める割合が、17.9%(1960年)から9.1%(2040年)になってしまうのです。同時に、円相場も大きく変化するなかで、産業構造と採るべき戦略は大きく変化しました。

労働人口の縮小が思った以上のダイナミズムで進行しているなか、今までと同じやり方が通用しない状況下で経済を拡大させるためには、「労働生産性の向上」と「多様性の拡大」が必要であると考えています。多様性の拡大により、まずは皆が互いを刺激しあってクリエイティブな思考ができるようになっていくことが大切なのではないでしょうか。

私自身も約20年にわたる経営活動において、自分たちのなかで何割かは常に変化して大失敗して学びを続けているといった部分を残さないと組織として生き残れないということがわかりました。今までやってきたことをずっと繰り返す、積み重ねる、ただ改善するというふうにやっていくと、外部環境が激しく変わったときにとても弱いんです。だからこそHENNGEという社名に変えたのですが、組織の好循環を回していくエンジンとして「ダイバーシティ」が有効であることを、身をもって体感しています。

パネルディスカッション

米倉 誠一郎氏(一橋大学名誉教授 法政大学大学院教授)× 小椋 一宏 × 稲垣 隆司(株式会社エイムソウル代表取締役)

米倉:多様性がある組織だと、コアというか、みんなの共通点ってなんだったっけというところに向かうから、よりクリエイティブになっていくという話には説得力がありましたね。

小椋:そうですね。「なんでこうなんですか」みたいなことを、日頃社内でよく議論するようになったことが大きく変わったポイントだと思います。これまではみんながなんとなく暗黙の理解で進めていたり、話さなくても伝わることがたくさんあったりしたんですよね。そうした反省を乗り越えて、多くの外国籍社員たちがいま一緒に働いてくれているということに価値を感じていますし、米倉先生がおっしゃる「日本の魅力」という点は本当に活かすべき武器だと思っています。

米倉:留学生と日本人がチームになったり、留学生と日本人チームが競争したりするほうがものすごく面白いし、ものすごく楽しいんですよね。日本人だと「行くぞ」って言ったら「分かりました」って言うんだけど、外国人からは「どこへ行くんですか?」と返ってくる。それを説得しながら行うプロセスと、同時に出てくるアウトプットがとても面白いなと思うので、それを知ってしまうと、日本人だけで働いているというのがちょっとばかばかしくなってくる気もしますね。

稲垣:そこが結構大事なポイントかなと思っていまして、僕もお二人のご意見に100%同意です。しかし人事や経営者の方からは、頭では理解できるものの、実際日々の仕組みのなかでオペレーションが組まれていたり、ルールが決まっていたりしているなかで「これなんで?」という大前提の質問をされてそれを変えるということは、本当に手間と時間がかかるという話を伺います。お二人がグローバルに舵を切られたきっかけは何だったのですか?

米倉:29歳でハーバード大学に行ったとき、自分がマイノリティになって、できない気持ちをすごく味わったというのが大きいですね。

稲垣:僕もインドネシアで事業を起こした際“外国人”になって、そこで人の優しさとか、自分の特徴みたいなものを知ることができた経験がありまして、自分がマイナーな立場になるというのが大事な体験だなと感じました。小椋さんはいかがですか?

小椋:インターネットの影響が大きいですね。私はプログラマー出身なので、一番衝撃的だったのはいろいろな技術開発が世界中、英語で行われているということでした。クラウドが日本に入ってきたあたりから毎日のように機能がバージョンアップされるようになりましたが、それらは当然英語で説明されているんです。すべて和訳されるのを待っていたら完全に出遅れると思い、もっと世界と繋がっていかなければと感じたのがきっかけですね。

稲垣:プログラム開発の最先端を知りたい、そんな興味がきっかけとなったんですね。 次は参加者の方から小椋社長への質問ですが、「日本人社員と外国籍社員双方の心理的安全性を確保していくために、日常的なコミュニケーションにおいて貴社では何か工夫されていることはありますか?」ということです。

小椋:一つ目が、定期的なエンゲージメントサーベイの実施です。こちらは基本的に匿名で回答できるようにしているので、各部門で大きな数値の変動が起こっていないかという点に注意しています。二つ目が、フィードバックコメントです。こちらも匿名で受け付けており、いただいたコメントに対して私自身も真摯に回答するようにしています。各社員の意見に対し経営陣が真面目にコミットしながら、ギャップがあることを認めつつ、丁寧に説明していく姿勢を見せることで、信頼関係を構築できるよう努めていますね。

稲垣:当初はゼロイチの取り組みということで、当然数的にも精神的にもダイバースというのがマイナーな立場であったと思うのですが、どの段階で変わってきたのですか?

小椋:日本人以外の社員が多数派を占めるようなチームが出現したあたりから結構変わりましたね。そこに至るまでは本当に苦しくて、1人目や2人目の方とかは本当のことを話してくれなかったりするので、みんなが変わっていかないとだめだと思いました。先ほどのハイコンテクスト、ローコンテクストの話ですと、ローコンテクスト側の人がハイコンテクストに合わせるのは無理なんですよね。それぞれの文化で察し合うのではなく、お互いそこは話し合おうよということを経営層から呼びかけていった感じですね。

稲垣:経営が矢面に立って自らどんどん説明をするということですね。

小椋:「トップが変わっているんだ」ということが伝わらないと、信頼してもらえないと思うんですよね。会社はもう多様な人たちと一緒に付き合っていこうとしているんだ、日本人だけの価値観でなんとなく進めていく方向ではないんだ、という姿勢をはっきりと示すようにしていますね。

米倉:変わり続けていかないと、組織が生き残れない。あと、今日本でグローバルに力を入れていますとか、女性登用していますという企業が増えていますが、実際はマイノリティとして“飾り”で置いているケースが多いですよね。そうした人たちを「マジョリティ」にするというところに意味があるんだと思います。 HENNGEが変われる会社になった、変化できる会社になったというのは、すごく大きなことですよね。日本のハイコンテクストの文化が好きだとか、日本のあり方が好きだという人たちが来てくれる。その人たちの力を借りながら自分たち自身が変わっていくというプロセスを見ると、ぜひたくさんの外国人の方に日本に来てもらいたいですし、企業側も採用していってほしいなと思いますね。

 

<この記事のまとめ>

  • HENNGEは10年前から外国人エンジニアの採用活動を行なっている会社。現在では、外国人社員約50名(20か国以上)が働いている
  • 日本人・外国人間の文化ギャップを解消するために、コアバリューを設定し、定期的にエンゲージメントサーベイ・フィードバックコメントを実施している
  • 経営者自ら変化する姿勢を見せることで、会社として進むべき道を示すことが大事である
  • マイノリティをマジョリティにしていくことが、真のダイバーシティの実現に結びつく
Pocket