COLUMN
アジア各国で活躍する人材ビジネスの企業の方々に、その国で成功する秘訣をお聞きしている本連載。第5弾の今回は、お隣の国、韓国だ。日韓関係には政治的な問題が生じることもあるが、K-POPをはじめとする韓流コンテンツや、韓国料理、韓国旅行など、我々日本人にとっては馴染みの深い国である。
日本にとって韓国は、2001年以降、18年連続で第3位の貿易相手国でもあり、経済な結びつきも非常に強い。筆者も韓国人の友人がたくさんおり、韓国は個人的に好きな国のひとつである。
さて、今回の対談のお相手は、韓国で「KOREC」という人材紹介ビジネスに立上げから携わっている、春日井萌氏だ。春日井氏は韓国の大学を卒業されており、韓国の文化を深く理解されている。対談では、韓国と実際にビジネスの関係になっていくにあたってどのようなポイントが重要になるのか、お聞きした。
INDEX
稲垣:春日井さんはいつから韓国にいらっしゃるのですか?
春日井:私は日本で生まれ育ったのですが、大学時代に韓国に留学をしていました。大学を卒業し、日系のIT企業の人事としてベトナムに1年間駐在をした後、再び韓国に戻ってきてKORECを立ち上げ、もう少しで3年が経ちますね。KORECでは、主に韓国人の大学生を集めて、就活カフェや大学生の教育、日本の企業さまへの就職斡旋事業を展開しています。
稲垣:春日井さんは大学時代から韓国にいらっしゃるので、日本と韓国のどちらの文化にも精通していると思いますが、日本から来られた方が最初に目の当たりにするカルチャーギャップにはどのようなものがありますか?
春日井:韓国は日本と比べて、「マニュアルが整備されていない国」だと思います。例えば私が最初にびっくりしたのが、銀行で口座開設する時に、担当する人によって、「開設できる」と言う人もいれば「開設できない」と言う人もいること。これはビザの更新でも同じですね。私たち外国人は、韓国に滞在する中でビザを更新しなければなりませんが、1年の延長を許可するのか、2年なのか、5年なのかといったことについて、マニュアル化されてない部分が多いです。担当によって、どの期間で、どのくらい早いスピードで出してもらえるかが全く変わります。
稲垣:日本の銀行だと、「担当する人によって結果が違う」というのは考えられないですね。入国管理局では、ビザの許可などについてマニュアル化できない部分があるため、人や組織によって多少の違いはあるものの、韓国は特に属人的判断が大きいと感じます。
春日井:そうですね。そして、それがビジネスとなると、さらに属人化していきます。良く言えば、「個人の裁量権が大きい」ということになりますね。そのため、交渉事などで「Yes」を取りたい場合、誰から話を通すのが良いのか。「この話はAさんルートからいくのが良い。じゃあそのAさんを攻略するために、組織構成や人の力学、指示系統を考えて話を進めよう」といったことを考えるのが日常茶飯事です。韓国で働く上では、そうしたマインドが日本人にとっても必要になってくると思います。
稲垣:属人的であることは面白いですが、組織で考えるとデメリットもありそうな気がしますね。仕事が標準化されていないために、サービスクオリティにばらつきがあったり、時間がかかったりすることがある。では逆に、属人化されていることで生じるメリットはどのような部分なのでしょうか。
春日井:メリットは、ルールやマニュアルがないために、もしキーマンとつながれば、できることが増えるということだと思います。これはつまり、「人脈で仕事が増える」ということで、「人脈が増えればどんどん大きいことができる」という点にとても面白さを感じています。
稲垣:韓国と日本で、人脈の作り方に何か違いはありますか?
春日井:ひとつ、大きく違うところは、「お酒の付き合い」ですかね。
稲垣:韓国人の方は、お酒が強いイメージがあります。
春日井:強いです(笑)。韓国人が人脈を作っていく上で、「韓国の焼酎『ソジュ』を一緒にガンガン飲んで関係を作っていく」というやり方があります。日本人の場合、「満遍なくみんなに対して優しくする」という人間関係かと思いますが、韓国人の場合は、どちらかというと自分のテリトリーがあって、日本人と比べると“内と外の区別”があります。そのため、相手の“内”に入ることが、関係構築をする上で非常に重要なんです。その関係構築をする上では、まずお酒を一緒に飲んで、「『もう私たちはファミリーだ』といって“内”に入っていく」
という文化があると思います。
稲垣:“内”に入ったときには、何が変わるのですか?
春日井:例えば、日本語でいう「私達」という意味の、「ウリ」という言葉が韓国語にはあるのですが、その言葉が出るかどうかという点が大きいと思います。もしお酒が苦手な人がいても、他の何かでカバーして相手の懐に飛び込み、「ウリ」という言葉を獲得する。これが重要ですね。
稲垣:「君」から「私達」、「You」から「We」になるということですね。わかりやすい線引きです。
稲垣:その他に感じる、日韓の文化の違いはありますか?
春日井:もうひとつは、「年齢による上下関係」ですね。韓国では自己紹介する時に、名前よりも先に「何年生まれですか?」、「何歳ですか?」と聞くんですよ。まずそこで年上か年下かを見定めて、その後どう対応するかが決まってくることがあります。
稲垣:例えば日系企業がインドネシアに進出する場合、30歳の若い日本人がいきなり部長になって、40~50歳の部下をたくさん持つということもあります。韓国でも、年齢と役職が逆転することはあるのですか?
春日井:あまりないと思います。韓国に来る日系企業の駐在員の方などを見ると、基本的には支社長1人やその他に数名の幹部という形で、年配の方が多いですね。「年下の人が年上の人をマネジメントする」となると、あまりうまくいかないイメージがあります。
稲垣:例えば、春日井さんがお客様のところに営業に行った時に、お客さんと年齢の話になって、春日井さんのほうが年上だった場合、どのような感じになるのですか?
春日井:年上であることは、少しプラスに働くと思います。反対に、あまりに若く見えすぎると、マイナスに働くこともあります。そのため、ある程度歳を取っているような雰囲気を醸すことが重要だったりもします。そういった点では、良くも悪くも、同一民族で画一的な価値観がある国だと思いますね。「良い大学に行って大企業に勤める」ということが正解の価値観なので、そこに付随して、ブランド品を持っていたり、役職が良かったりというところが重要視される文化的側面があります。
稲垣:文化やビジネス、人的交流の部分においては、親密な関係にある日本と韓国ですが、その一方で政治やメディアが過熱することがあります。過去には日本製品の不買運動もありましたが、春日井さんは実際に韓国に住んでいる中で、日韓関係で不便に感じることはありますか?
春日井:生活する上でデメリットを感じることは全くないですね。韓国では、「国は国」、「政府機関は政府機関」、「文化は文化」、「私たちは私たち」と分けて考えている層がすごく増えていることを感じています。文化面でいうと、韓国人は日本のアニメやドラマなどの様々なコンテンツに対しても興味があって、日本人や日本文化も大好きな人が多いです。そのため、生活する上で不便なことはありません。
稲垣:若年層では特に、そうした「政府による日本に対する見方」のような部分はあまり影響されてない。これは日本と一緒ですね。日本の若い人は、文化や人を見ているため、あまり気にしていない印象を受けます。
春日井:しかしながら、「ではなぜ不買運動が起きたのか」という話になると思うのですが、これは若い人達がユニクロに行かなかったりしたことが要因だと思うんです。先ほどお話しした「ウリ文化」、「画一的な価値観」という考え方のとおり、政府分野で何か大きなことがあった時に働く愛国心がとても強いんですよね。自分の国が何か被害を受けたり、よくないことがあったりした時に、それに対して反応するといった文化はまだまだあります。そのため、「日々の日韓の政治のやり取りによって日本のイメージが悪くなっている」ということは全くないですが、「ある一定以上の強い愛国心を刺激された時には声を上げる」ということが、若年層においてはあると思います。
稲垣:なぜ韓国の若者は、そうした政治分野での大きな出来事の際に声を上げるのでしょうか。
春日井:韓国人の「政治への興味関心度」が日本人よりも高い理由のひとつに、「民主化運動」があります。韓国では1987年に民主化運動が起こったことから、「自分達が声を上げることで国が良くなる」ということを経験している。その印象がまだ残っているため、国で何か良くないことがあった際に、「とにかく声を上げて状況を良くしていこう」という思いが強くあるんですね。
稲垣:昔、日経新聞の「私の履歴書」で、元伊藤忠商事CEOの岡藤正広氏が書かれていた記事の中に、「中国人は小さい頃から『人にだまされるな』と教えられるという。これが韓国では『人に負けるな』になる。一方、日本では『人に迷惑をかけるな』。日中韓では教育の前提が違うという。やや極端で異論もあるだろうが、私の仕事の経験を振り返れば言い得て妙だなと思わされた」という一文がありました。
春日井:まさにそうだと思います。「競争する」という意識が強い韓国の人々は、“気持ちが強い”という反面、“自己肯定感が低い”人が多いです。「負けるな」と教えられて育っているため、学校の点数やランキングなどで、人と比べて生きてきているんですよ。そうなると、「点数が低かったら自己肯定感も低くなる」という人がたくさんいます。
稲垣:私も知人に聞きましたが、例えば韓国の人は「TOEIC800点で、日本語検定N2しかないです」と自信なさげに言うそうです。実際には、韓国人で英語と日本語がそこまでできればすごいのですが……。
春日井:そうですよね。仕事なんて、たとえTOEICの点数が低くても、コミュニケーション力があれば企業で活躍できるじゃないですか。“勝気”な部分と“自己肯定感が低い”部分が、韓国の若い人の特徴だと思います。しかし、これは克服できるとも思います。人と点数で比べず、自分自身の良い部分を見つけて認める。これを毎日継続していくと、変化していきます。
稲垣:人と比べるのではなく、自分がやってきた過程を褒めるのですね。
春日井:そうです。ですから、私も学生とお話しするときには、「過去の自分と比べてね」と言うようにしています。例えば、他人と現時点でのJLPT(日本語能力試験)の結果だけで比較すれば、「『N1』の人のほうが偉い」となってしまいますよね。自分の過去の結果と比べて、「もともと『N3』だったけど、今回は『N2』になったよね。自分はすごい。頑張ればできるんだ」といった考え方をしなければ、この先自信がなくなって行動しなくなってしまいます。韓国人を褒める場合には、「過去と比べてこれができるようになってすごい」というように、具体的に褒めることが必要かもしれないですね。
「属人的」、「ウリ」、「お酒」、「愛国心」、「勝気」、「自己肯定感」。韓国でビジネスを展開し、人材をマネジメントする上で、とても重要かつ具体的なキーワードを頂けたと思う。これまで、インドネシア・マレーシア・タイ・中国と、組織・人材マネジメントのコツをお聞きしてきた。その結果、やはり文化がそれぞれの国によって違い、押さえるべきポイントはさまざまであるものの、「人と人のつながりを大事にする」という点はどの国も同じであると確信した。「ウリ」と呼ばれる人間関係の構築は、どの国でも重要なことである。
取材協力:春日井萌氏
韓国の慶應大学といわれる延世大学を卒業。2019年韓国人向けの日本就職を支援する就活カフェ「KOREC」を立ち上げ。人生のテーマである日韓交流に携わる事業を行なうために、年間1000名以上の韓国人学生の教育を行なっている。メディア出演多数。
本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2863