COLUMN
日本で働く外国籍人材の数が増加の一途をたどっている。2023年10月には204万人を突破し、記録を更新し続けている状況だ。JICAが発表した『2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書』によると、2040年にはなんと632万人、2024年現在と比べて3倍以上の外国籍人材が日本で働いているという予測だ。生産年齢人口が減少する日本にとって、外国籍人材は欠かすことはできない。
しかし近年の外国籍人材の増加に伴って、その受入れや対応に戸惑っている会社・従業員も多く、1年ほど前から弊社エイムソウルに寄せられるご相談が急増した。弊社は2020年1月から、CQI(異文化適応力検査)を中心に「文化適応」のテーマで研究を続けている。CQIを受検された外国籍人材の国籍を見ても、2024年6月現在で113の国・地域となり、世界中からビッグデータが集まっている。筆者はこのグローバル化が加速する日本に少しでも役立ちたいと考え、2024年9月(予定)に、これまでの知見をまとめた書籍を三修社より出版することになった。本書では、日本の文化の特殊性や異文化適応のノウハウに加え、CQIの分析や各国の特徴などを解説している。また、グローバル・D&Iにおける11名の第一人者の方々にご協力を頂き、インタビュー対談も掲載している。そこで、本連載コラムでも今月より、その対談の内容を掲載したい。前回のコラムで掲載した、株式会社morichiの森本千賀子社長もそのうちのお一人であるため、まだご覧になっていない方はぜひお読みいただきたい。
今回の対談のお相手は、元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さん。2015年のラグビーワールドカップでは、エディー・ジョーンズ監督とともに日本代表を牽引して強豪・南アフリカを破り、「ブライトンの奇跡」と呼ばれる歴史的勝利を収めて日本のラグビー界を盛り上げた。サッカーや野球と異なり、ラグビーは条件を満たせば外国籍の選手も日本代表に選出されるため、当時も日本人以外の選手がたくさん所属していた。そうした中で廣瀬氏は、どのように多様なメンバーをまとめ、ONE TEAMを築き上げたのか。そのD&Iの真髄に迫った。
稲垣:2023年のラグビーワールドカップは、実況などで現地や日本を飛び回られていましたね。お疲れ様でした。
廣瀬:ありがとうございました。
稲垣:廣瀬さんもメンバーに選出された2015年のラグビーワールドカップは、南アフリカを破り「ブライトンの奇跡」と呼ばれる歴史的勝利を収めました。2019年のワールドカップでは、なんと全勝で一次リーグを突破して準々決勝に進出。残念ながら南アフリカの厚い壁に阻まれましたが、「ベスト8」という輝かしい成績を収めました。2023年5月には、世界の強豪国に日本を加えた11か国で構成される「ハイパフォーマンス・ユニオン」として位置づけられましたね。アスリートでない私にとってはとても不思議な感覚があるのですが、例えばサッカーもなかなかワールドカップに出られなかったのに、一回出られた瞬間にグンとレベルが上がることがありますよね。
廣瀬:それはあると思いますね。「無理だろう」という固定概念がブレーキをかけているのでしょう。そのブレーキを外したら、“自分たちもいける”という自信につながります。百メートル走でも、桐生さんが十秒を切ったら、その後日本人がどんどん続きましたよね。
稲垣:山縣選手、小池選手、サニブラウン選手と続きましたね。
廣瀬:誰かが超えたらメンタルブロックを突破できるんです。
稲垣:では、廣瀬さんが日本代表キャプテンだったときに、メンタルブロックを超えた瞬間はありましたか?
廣瀬:一つは、代表キャプテン2年目のウェールズ戦ですかね。いままで一回も勝てなかった相手に、23対8でしっかりと勝ち切ったとき、「俺たちも普通に勝てるんだ!」とある種のキャズム(深い溝)を超えた感覚があります。
稲垣:そのように力をつけてきた日本代表だからこそ、2023年のワールドカップは、国内外でかなり期待が大きかった大会だったと思います。
廣瀬:そうですね。今回の結果は少し残念でした。
稲垣:サモアとチリには勝利を収めましたが、イングランドとアルゼンチンに敗れました。しかしそのアルゼンチン、イングランドはベスト4までいきましたよね。
廣瀬:そうなんですよね。アルゼンチン戦もそうですけど、日本は実力的にはかなり世界のトップクラスになってきています。
稲垣:姫野選手がキャプテンになられていましたね。
廣瀬:姫野選手に決まったのは8月末で、ワールドカップに行く数週間前くらいでした。そんな状況だったので、恐らくコーチ陣も姫野キャプテンもつらかったと思います。その条件下でよく頑張ったなという感じですかね。
稲垣:廣瀬さんがキャプテンになられたときは、どれくらい前に決まったんですか?
廣瀬:僕は2012年、エディーさんが監督に就任した直後にキャプテンとして指名されました。2年間キャプテンを務めた後にリーチ マイケルが次のキャプテンになり、2015年・2019年と、計6年間その体制で戦ったんですよね。やはりチーム作りには時間も大切です。次第に芯が通っていくんです。
稲垣:ワールドカップの数週間前までキャプテンが決まっていなかった、というのは素人ながらにも驚きです。新型コロナウイルス流行の影響が大きいとは思いますが、なぜそんなに遅れてしまったんですか?
廣瀬:何人かキャプテンの候補を挙げつつも、なかなか決められなかった、というのが原因の一つだと思います。しかし、キャプテン決めというのは結局正解がない話なので、そこは腹をくくって覚悟を決めることが必要です。当時はベストを考え過ぎたのではないかなと思います。
稲垣:もう一つ、今回の選出メンバーについて2019年と比較すると、外国人選手が7名から12名に増えましたよね。比率でいうと、22%から36%まで高くなりましたが、その影響はあったのでしょうか。
廣瀬:外国人選手が増えたこと自体は、僕らはそんなに強く意識はしません。ただしバックグラウンドも違うので、日本に来てからの年数などは気にするかもしれませんね。日本や日本語に対する好奇心、つまり文化に対する好奇心はけっこう大事かもしれないなと思っています。人数が少し多かったとしても、日本に愛着があったり、コミュニケーションをよく取ろうとしたりなど、そういう人であれば大丈夫です。逆に日本人であっても、利己的すぎたり、チームと違う方向を向いていたりすることの方が困ります。国籍問わず、個々人のパーソナリティーが、チーム作りに影響すると思います。
稲垣:2015年・2019年と快挙を成し遂げたことで、ワールドカップが終わった後もさまざまなドキュメンタリー番組が作られていましたが、「ONE TEAM」になる過程でかなりプロセスがあったように思います。
廣瀬:おっしゃる通り、あのときはみんなで日本のさざれ石鎧を見に行ったり、俳句を作ったり、また釜石で試合するときに日本の歴史を勉強したりと、チームで想いを共有する時間がたくさんありました。今回は8月末にキャプテンを決めて突貫でチーム作りをしてきましたから、「取り急ぎラグビーのパフォーマンスを上げよう」ということに集中するしかなかったと思います。その分、前の代表チームにあった、見えない土壌作りや文化作りのようなものが手薄だったかもしれません。これが、2023年の日本代表に足りなかったものの一つと考えています。
稲垣:なるほど。企業と同じくラグビーの代表チームでも、チームの土壌となる文化作りが大事なんですね。
本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3998