COLUMN

[HRプロ連載記事] 第1話:ASEANの盟主インドネシアという国

8.連載記事

本コラムは、筆者が2014年から2年間インドネシアを生活拠点とし、2016年からは日本と同国を毎月行き来している経験から、現地に展開する日系企業の「人と組織の活性化」を考察する。文化や生活環境が異なるインドネシアで日本人がいかに強い組織を作っていくのかを、著者の実体験や現地で活躍されている専門家や経営者のインタビュー、アンケート分析などを通じて紐解いていく。第1回はインドネシアという国の概要をお伝えする。

外国人というマイノリティな立場になる

人材ビジネスを展開するべく、最初にインドネシアに来たのは2014年1月。インドネシア語はもちろん、英語もほとんど話せず、海外で働いた経験も全く無かった。だが、人事部や人事コンサルの仕事を長く経験していたことから、「採用や教育の仕事であればなんとかなるか」と、軽い気持ちで飛び込んだ。

4年経った今、いろいろな方々から機会をいただき様々な仕事に取り組めているものの、これまでを振り返ると、多くの葛藤や苦労があった。いや、今も葛藤と苦労の途中である。しかし、本当に思いきって飛び込んでよかったと思っている。国籍、宗教、生活環境、思考パターンの違う人たちと、知恵を出し合い、力を合わせ、1つの方向に向かっていく。しかもマイノリティな外国人としての立場としてそこへ加わることは、私自身の価値観を広げ、この4年間で得た経験と人脈はとても大きな財産となった。インドネシアでの展開を考える方々においては、このコラムを通じて何かしらのヒントを得ていただければ幸いだ。またインドネシアのみならず、海外への扉を開けることを考えている方にも是非読んでいただきたい。

多様性の中の統一というモットー

ASEANの盟主といわれるインドネシアだが、そもそもどういう国か。
インドネシア共和国は、東南アジア南部に位置する共和制国家。国土は5,110kmと東西に非常に長く(アメリカ・中国よりも長い!)、人口は2億5,000万人を超える世界第4位の規模。ジャワ族(9,520万人:全体の40.2%)、スンダ族(3,670万人:全体の15.5%)、バタク族(850万人:全体の3.6%)という3つの主要部族が有名だが、全体では約1340民族・742言語という多様な民族で構成される。昨年、西パプア州に住むダニ族の村を訪れたが、彼らはいまだ裸に近い姿で暮らし、独自の文化を有する。

宗教は、大半はイスラム教徒でインドネシア全人口の約87.2%(2億720万人)を占める。しかし中東の国とは違い、イスラム教を国教と指定してはおらず、プロテスタント・カトリック・ヒンズー・仏教・儒教と様々な宗教が混在する。インドネシアという国のモットーは「Bhinneka Tunggal Ika」(多様性の中の統一)であり、実際、様々な民族・文化・宗教・言語の多様性を認めた風土だ。

魅力的な人口構成

平均年齢は日本の46.5歳と比較して27.8歳と非常に若く、日本と比較をした人口ピラミッドでもインドネシアの市場の魅力を確認できる。また、「総人口に占める働く人の割合」が上昇し、経済成長が促進されることを指す「人口ボーナス期」(※1)で比較すると、日本ではこの「人口ボーナス期」は1992年に既に終了しているが、なんと、インドネシアは2026年まで続く。(参考データはすべて国連の「World Population Prospects」)。

日系企業は1,698社(※2)進出しており、車・家電・日用品など、街には「Made in Japan」が数多く並ぶ。PWC社は昨年の調査レポート(一部抜粋)で、「2050年までにインドネシアは第4位の経済大国となり、日本、ドイツなどの先進国を抜く見通し」と発表した。今後さらに影響力が大きな国になっていくだろう。

(※1):生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口層)が従属人口(生産年齢人口以外の人口層)の2 倍以上おり、かつ従属人口比率が低下している期間
(※2):ジェトロ調べ(2017年10月時点)

インドネシアの課題

もちろん課題も多くある。例えば、「公務員と政治家の腐敗」を示す2016年の腐敗認識指数(※3)は176国中90位(シンガポール7位、日本20位、マレーシア50位)だった。2004年のユドヨノ大統領政権発足以来、着実に改善しているものの、「日本では考えられない不正」が今でも横行している。

また、インフラもまだまだ未発達。そのため、日本のビジネスパーソンは、リスク回避で徒歩・電車は避け、近距離でも車で移動する。しかし、ジャカルタ市内の渋滞は東京の比ではない。毎朝家と職場60Kmほどの距離を、3時間以上かけて通勤している人もいる。さらに、雨季に洪水が起こると交通機関はマヒする。Uターンをするだけで30分かかるなんてことはざらだ。これらはビジネスパーソンの仕事の効率を下げる要因の1つである。

それだけではない。日本でもニュースになったが、インドネシアでは、2016年、2017年と立て続けにテロが起こった。警察が迅速に鎮圧したものの、現地に生活している者として身の危険を感じたのは事実だ。また、外資規制が厳しく、投資基準や業種の規制、現地人の雇用条件等、新規参入のハードルが高い。

このようにマイナス面やリスクを上げればキリがないが、これらは今後、インドネシアが「本当のASEAN・アジアの盟主」となるには乗り越えなければならない大きな課題である。

(※3):トランスペアレンシー・インターナショナル社調べ

インドネシア人の国民性

私がインドネシアで受けるご相談は「仕事の基本教育」が一番多い。時間管理、報連相、優先順位の付け方等、日本では新人研修で教育されるような基本ができないということだ。

事実、多くの日本人が「インドネシア人は時間を守らない」と言う。私もインドネシアに来たばかりの時はここにずいぶん苦しめられた。「ゴムの時間」といわれるように、彼らの時間の感覚は伸びきっていて、人を待つのも待たせるのも平気だ。約束をしている時間に遅れても、たいてい「遅れる」という連絡は入らない。会議の開始5分前に来ているインドネシア人がいると、それだけで「しっかりした人だ」と評価が上がるほどだ。

ところが数年前、私があるインドネシア人女性と話しているとき、「日本人は本当に時間を守らないですね」と言われた。すぐさま、それはこっちのセリフだ!と思ったが、彼女の話をよく聞いて謎が解けた。それは「終わりの時間」だった。彼女からすると、<18時に仕事を終える>という時間を日本人は守っていないというのだ。このように、そもそも時間に関する感覚が違うため、指導方法をインドネシア流にアレンジしないと、仕事に対する姿勢は改善しない。その他、チームワークや計画性等に関する教育にも一工夫が必要で、それらは今後のコラムでご紹介していきたい。

2018年は、日本・インドネシアが「国交樹立60周年」の節目を迎え、また8月には「アジア競技大会」が開催される。各地でも様々な式典やイベントが開催されるため、こうした話題で盛り上がるのは間違いない。今年はぜひインドネシアに注目していただきたい。


 

本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1741

Pocket