COLUMN

2020.03.09

[HRプロ連載記事]第3回:グローバル化に向けた日本の人事課題(3/3)

5.連載記事

日本における「人と組織」のグローバル化の波を受け、【日本流グローバル化への挑戦】と銘打ち、本コラムを先々月から開始いたしました。
記念すべき第1回目は、早稲田大学政治経済学術院の白木教授と対談させていただいています。白木教授は日本企業のグローバル人材戦略の第一人者です。長時間にわたりお話しいただきましたので3回に分けてお送りいたします。今回は最終回のコラムをお送りします。
白木教授インタビュー1回目
白木教授インタビュー2回目

グローバル企業が実践するエリート教育

(稲垣) 日本でもそういうエリート(若いうちから辣腕を振るう、グローバルスタンダードのプロフェッショナル)を育てる制度はあるんでしょうか。

(白木) 同族であれば別ですが、基本的にありません。親が社長だから、息子がすぐ専務になったという例はありますが、一般的にはないと言ってよいでしょう。アメリカでは90年代にはすでにハイポテンシャルを育成するシステムを持っていました。ハイポテンシャルシステムはGEが有名です。

90年代に同社のグローバルHR部門トップにインタビューしたのですが、GEは、入社してから4~5年の間に頭角を現してきた社員をヘッドクォーターが世界中からピックアップするんです。スポーツでいえばオリンピック選手候補をスカウトが各地方から集めてくる感じでしょうか。30歳前後のポテンシャル人材が数百人、同じ年代だと恐らく1%未満の選ばれたエリートたちです。そのエリートたちに3つアサインメントを与えます。

1つ目は今までのキャリアと違う業界のビジネスを経験させます。GEは発電所やプラスチックやメディカル、金融等様々なビジネスがあるので、上に上り詰める人間は複数のビジネスを経験しなくてはならない。2つ目は職種を変えます。例えば人事であれば営業や財務など、違うことをやらせる。人事部門だけでは視野が狭いので、部門を変えるということです。3つ目は国外勤務です。GEというのはグローバルカンパニーですから、自分の国の常識だけでは通用しません。どこで採用したかは関係なく、国を移動させ、世界規模で競争させ、ヘッドクォーターがウォッチしているわけです。ダメな人材は落とし、残っていった人間がGEの要職を占めていく。強い人材が育つわけですね。

(稲垣) すごいエスカレーターですね。上までつながってはいるけど、凄いスピードで走っているから振り落とされてしまうかもしれない。これはGE特有のシステムですか?

(白木) グローバル企業は、そういうシステムを持っています。シーメンスも持っていました。呼び方はハイポテンシャルじゃなくて、ジュニアサークルにしていましたが、システムは同じです。実は日本の企業も90年代にはこのシステムを取り入れようとしていました。大手自動車メーカーで私が説明したこともあります。しかし、結局日本の企業は入れなかった。世界からトップの人間を選んで競争させるのはなかなか難しいのです。なぜだかわかりますか?

(稲垣) 年功序列など、日本特有の制度を変えなければいけないからですか?

(白木) 確かに制度の問題もあります。しかし、もっと根本的な問題です。これは私の想像ですが、本音の部分は、世界的レベルの競争にさらしたら「果たして日本人が残れるのだろうか」という懸念です。世界中のエリートから、さらに100人に1人選ばれた超エリートたちの中で、熾烈な競争をするわけです。日本人で勝ち残れる人材がいるのかと。日本本社ではそんな育て方してないわけです。新人は何も知らないという扱い方をして、40歳でようやくジュニア管理職になった人間が、ゴーンさんのように26歳で工場長になって修羅場を経験している人に勝てるのかと。私は日本の大企業の40歳くらいの課長クラスにセミナーをやったことがあるんですよ。そのときにゴーンさんの話をし、「みなさん、5,000人くらいの会社のトップはどうですか?」と尋ねました。だれ一人、自分もやってみたいという人はいませんでした。とても無理ですよ、という反応です。

若い時の修羅場体験がグローバルで活躍する人材を育てる

(稲垣) 日本人の若い方々が、グローバル感覚を身に付けるにはどうすればいいのでしょうか。

(白木) やり方はいろいろあると思いますが、まずは日本の人事部がシステマティックに若いときから海外経験させる仕組みを作るということです。いま楽天などが無理やりやっていますが、あのようなことも必要です。現状に甘えているとできません。若いうちからアウェーの海外でトップを張って、最終的な意思決定を自分がする。1,000人の部下がいて、「この意思決定で失敗したらつぶれるかもしれない」と思うと誰だって怖いです。でも、世界のグローバルカンパニーは、そういう経験を積んだ人材があらゆる国の子会社にゴロゴロいるわけです。日本も若いうちに海外で修羅場を経験させるべきです。

(稲垣) 私がいまインドネシアで経営している会社のパートナーは、チャイニーズインドネシアで華僑です。歳は10歳くらい下ですが、オーストラリアの大学に行って語学もネットワークもあり、そして若いうちから海外でビジネスをして、本当に優秀です。残念ながら10年前の自分とは世界観が違うと感じました。

(白木) 若いときに経験させるのは、すごく重要なことです。我々の調査データを分析して分かったことに、海外赴任者のパフォーマンスが、どんな要素に影響されるかがあります。コミュニケーション力や語学力などいろいろある中で、とても大きな影響を与える変数の1つが、「海外勤務経験の年数」でした。若いときに多くの海外勤務を経験している人は、40歳代になってからの海外でのパフォーマンスがすごく高いのです。

また、300名ほどの海外勤務をしている若い日本人と、その上司に「部下が成長するには何が重要か」と質問をしました。上司は日本人だけではなく、様々な国の人たちです。まず挙がったのが「異文化対応能力」でした。語学力かと思いきや、実は語学力はあまり出てこなかったんです。異文化対応能力とは、海外のいろんなことに関心を持ち、自分と新しい概念を統合させていくという要素ですね。もう一つ多く挙げられたのが「前向き行動力」でした。少々苦しいことがあったり、上司から怒られたりしても、真摯に受け止めつつ負けないで頑張るぞという前向きな人間力です。こういうタイプは一番パフォーマンスが高いんです。

(稲垣) 異文化対応力、いわゆるCultural Intelligence(CQ)といわれるものですね。それに加えて、前向きな行動力というのはウェットでおもしろいです。

(白木) へこたれずにガンガン進める人間は、周りに「彼ならなんでもできる」という印象を与えます。そしてこの「前向き行動力」をどう育てるかは、先ほどの話と結びつきますが、若者を子ども扱いして育てていたら育ちません。どんどん修羅場を与えてチャレンジさせることが大事です。

日本人の強みとは

(稲垣) 先生から見られて、日本人が勝っている点というのはどういうところでしょうか。

(白木) いい部分はたくさんあって我々のリサーチでもクリアに出てきます。海外現地法人のローカル社員が日本人の上司を評価するという方法で2,000以上のサンプルを集めました。62項目のコンピテンシーのうち、トップの3つくらいは、ほとんど同じ結果になっていて、「責任感の強さ」「コンプライアンスの遵守」「他部門の悪口を言わない」ということでした。この点は日本のビジネスパーソンは日頃鍛えられていると思いますし、他の国の人達がなかなかマネのできない部分です。

日本は、もっと厳しいグローバルの競争に身をさらして、労使ともに緊張関係をもって、ビジネスに向かっていってほしい。まだまだ日本企業は成長するポテンシャルを秘めています。

(稲垣) 今回は非常に示唆に富んだお話をいただきありがとうございました。

取材協力
白木 三秀(しらき みつひで)さん 早稲田大学 政治経済学術院教授
1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年より現職。専門は労働政策、国際人的資源管理。現在、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所所長、国際ビジネス研究学会会長、日本労務学会理事(元会長)を兼任。

最近の主な著作に『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣、2006年)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部、2014年)、『人的資源管理の力』(編著、文眞堂、2018年)等がある。


本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1767

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