COLUMN

2020.03.09

[HRプロ連載記事]第2回:グローバル化に向けた日本の人事課題(2/3)

5.連載記事

日本における「人と組織」のグローバル化の波を受け、【日本流グローバル化への挑戦】と銘打ち、本コラムを先月から開始いたしました。
記念すべき第1回目は、早稲田大学政治経済学術院の白木教授と対談させていただいています。白木教授は、日本企業のグローバル人材戦略の第一人者です。長時間にわたりお話しいただきましたので3回に分けてお送りしており、今回はその2回目です。
前回のコラムはこちら

グローバルHRのプロフェッショナルが育っていない

(白木) (ソーシャライゼーションの課題の他に)課題のもう一つは、世界に通用するHRの専門家を育てることにあると思っています。いま日本の人事担当執行役員で、HRの知識や課題解決策の仮説を立てて、ヨーロッパやアメリカ、アジアの会議でファシリテーション出来る人が、どれだけいるでしょうか?

これは私のゼミの外国人卒業生から聞いた話ですが、彼女は大学院卒業後、ある日本の大企業に入って人事部に配属され、グローバル会議でファシリテーションを任せられて戸惑っているとのことでした。役員は、ただその場に座っているだけなのです。その会社が特別ダメだということではありません。だいたいの企業の日本人責任者は、グローバル会議を仕切れない場合が多いと思います。

(稲垣) 確かに日本では、社会心理学のような科目はありますが、HR専門の修士はあまり聞きません。

(白木) ですから私はかねてから、HRの大学院またはそれに匹敵するような機関を作りたいと思っています。日本でも、世界レベルの競争で耐えられるHRの専門家を育てていくことが重要です。

海外現地法人のTOPと理念や戦略を共有すること

(白木) 日本の本社が抱えている重要な課題はまだまだあります。現地法人の外国人トップと日本本社が、充分なコミュニケーションを取れていないということも問題でしょう。日本企業はローカライズを進めようとしており、海外現地法人のトップをローカルにしようという動きが大きいと思います。

日本在外企業協会(JOEA)という日本の大手グローバル企業の多くが入っている協会があるのですが、そこが以前、海外現地法人約5千社を対象に「トップCEOが日本人であるかどうか」という質問をしました。すると、日本人がトップについている比率は75%くらいでした。この数字はその後もどんどん減っていると思います。ヨーロッパでは60%、アメリカでは70%くらい、中国でもどんどん日本人経営者を減らしています。また、「Non-Japaneseが子会社のトップになったときの問題は何か」と質問したところ、最も多かった回答は、外国人トップと日本本社とのコミュニケーションがうまく取れない、ということでした。

(稲垣) それだとローカライズを進めることで、日本の求心力がなくなってしまうという問題を抱えてしまう……。

(白木) そうです。海外現地法人のTOPと日本本社がコミュニケーションを取れていない、というのはおかしな話で、本来は“世界本社”である日本の経営理念や経営戦略を、しっかり理解していなければなりません。

たとえば、ネスレやGEにしても、海外子会社のトップにした人間を世界本社に呼び、「GEとは何なんだ」ということを泊まりこみで徹底的に教育します。しかし、日本の大企業でこの教育をやっている会社はごく少数です。海外現地法人の社長になった人たちは、経営者ではありますが、“世界本社”の下にあるわけですから、一堂に集まって、「わが社の経営理念はこうだ」、「経営戦略を実現させるためにはこういうストラテジでいこう」と、議論・共有するのが大前提のはずです。

(稲垣) そう言われれば、インドネシアにある、ある日系大企業のローカルの経営陣は、その会社の理念を知りませんでした。今後、日本がグローバル化を進めていくためには、現地法人の経営陣を集めた研修などは必須ですね。

プロフェッショナルを教育する意識・制度

(稲垣) 少し視点を移して、 日本の「人材教育」についてはいかがでしょうか。

(白木) 人材教育に関しては、日本は、「プロフェッショナルを教育する意識・制度」が課題と言えるでしょう。

シンガポール国立大学(NUS)の日本語学科のヘッドをしているドイツ人の先生が教えてくれたのですが、NUS卒の優等生が日系企業に就職すると、そのほとんどが3年以内に辞めてしまうそうです。卒業生は日本語もある程度できるし、高待遇で採用されたにも関わらず、です。

(稲垣) 語学や待遇以外に、どんな課題があるのでしょうか?

(白木) その課題こそまさに、プロフェッショナルへの教育です。日本はキャリアに対する考え方がグローバルスタンダードではないのです。

たとえば、日本の大企業は、従業員を新卒で大量に採用して長期雇用を考えている。新卒の側も大企業に入って安心しています。配属についても、本人が「財務をやりたい」とか「マーケティングやりたい」とか言っても、結局は入社後に会社が決めるのが一般的です。

また、大企業は、新卒を「何も知らない人」という前提で扱います。それまで勉強やスポーツ、アルバイトなど、さまざまな経験している22~23歳の大人を、子供扱いするんです。ビジネスマナーを中心に、基本的なことばかり、時間をかけて教えているんです。中にはそれが役に立つ者もいるかも知れませんが、全体的には時間の無駄だし、エリートで採用した人間にはなおさら無駄でしょう。

つい10年くらい前まで、都市銀行や金融に入ると、有名大学を出ていても最初は外回りをさせたり、地方の支店に配属されたりして、あまり世界を意識した金融の仕事をさせてもらえなかったと聞きます。一定期間の研修ならいいんですが、こういうことを何年もやらせたら人は育ちません。大手企業に多い現象かも知れませんね。

(稲垣) それに関連してなのですが、私の中国人の友人で、清華大学→東工大のキャリアを持つ才女がいます。彼女は数年前、日本で大手化粧品会社に入社し、1年も経たずに辞めてしまいました。理由は、すでに簿記2級を持っていたのに、「新卒全員が受ける研修」というルールの元、簿記の基礎研修に何日も参加させられたから。また、与えられる仕事が単純なことばかりで、「なぜこの仕事をするのか?」と聞いても、「新人だから」としか言われない環境が、つくづく嫌になったそうです。

(白木) そういうことですよね。せっかく才能ある人を採用したのに、子供扱いをして、本人の意思も聞かずに、一つのやり方を押し付けてしまう。すべての人を同じレールの上に乗せてしまうんです。

一般的な日本の大企業だと、マネージャーとして自分で采配を振るってやっていけるのは、ようやく40歳近くになってからです。つまり10年以上、自分で判断するということを経験しない。いま世の中を騒がしているゴーンさんですが、彼が日産のCOOについたときはまだ45歳でした。日本のエリートがようやく管理職になってしばらくしたくらいの年で、あそこまでの改革を断行したんです。

彼はブラジル生まれのレバノン人で、フランスのエリート校グランゼコールに入ります。卒業後、ブラジルのミシュランからオファーを受けて入社すると、メキメキ頭角を現し、26歳で工場長、29歳でミシュランブラジルの社長になります。その後、アメリカやベルギーの駐在を経て、30代の後半にはすでにミシュランで、日本で言えば、常務とか専務くらいに昇進しているんです。しかし彼は、同族企業のミシュランではCEOになれないと判断し、辞めることを決断してルノーに移ります。

ルノーに入社後4~5年して、今度は「赤字の日産」を立て直せと言われ、1年間で黒字にするんです。長年黒字化ができなかった60歳代の日本人経営陣を差し置いて、45歳の若い外国人が1年で黒字化を成し遂げたんです。エリート社会と言われる、フランスの超エリートの一例ではありますが、アメリカやヨーロッパだって、仕事ができる優秀な人には30代で重い責任を持たせています。

取材協力
白木 三秀(しらき みつひで)さん 早稲田大学 政治経済学術院教授
1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年より現職。専門は労働政策、国際人的資源管理。現在、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所所長、国際ビジネス研究学会会長、日本労務学会理事(元会長)を兼任。

最近の主な著作に『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣、2006年)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部、2014年)、『人的資源管理の力』(編著、文眞堂、2018年)等がある。


本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1750

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