COLUMN
2019年4月より新しい在留資格として「特定技能」の運用が開始されましたが、どのような業種でどのような場合の活用できる資格なのかがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。ここでは、この特定技能について簡単に解説すると共に、どのように活用することができるのかについても触れていきます。
【関連の動画セミナー(下記画像をクリック)】
本コラムは、年間1000件以上の就労ビザ申請を行い、業界トップクラスの取得率を誇る行政書士Climbの森川敬太先生に監修頂いています。
|
INDEX
日本では近年、生産年齢人口の大幅な減少により人手不足が深刻化しています。一方で外国人労働者は年々増加し、2018年には146万人を突破しています。このような状況下で、移民政策を行わない日本ではいわゆる外国人の単純労働は原則禁止されていたり、週28時間以内しか雇用できない技能実習生では人手不足が解消できないということもあり、新たな施策がとられることになりました。
これまでは、就労が認められる在留資格としては17種の専門職に従事する人もしくは技能実習生のみで、例えば
●飲食店や小売店での単純接客
●工場などのライン工程
●建設現場での肉体労働
など、いわゆるブルーカラーといわれる職種は許可されていませんでした。しかし今回新設された特定技能ビザでは、このような職種もカバーできるようになったのです。
初めて外国人採用に関わる人にとって、これまでにもあった技能実習との違いがわかりづらいという人がいるかもしれませんが、実はこの二つは全く別の在留資格です。
いずれも在留資格であることに変わりはありませんが、最も大きな違いはそれぞれの目的です。
<目的>
◾️技能実習
技能実習の目的は、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することであるため、そもそも「技能実習は、労働力の需要の調整の手段として行われてはならない」(技能実習法第3条第2項)と記されているうように、日本での労働力を期待するものではありません。
◾️特定技能
一方、特定技能は外国人労働者としての在留資格で、人材不足を解決すべく労働力を確保することが目的です。
その他の制度比較については、下図を参考にしてください。
(出典:出入国在留管理庁「新たな外国人材の受け入れ及び共生社会実現にむけた取組」より抜粋)
これまでは国際協力と定義されていながらも、実際の現場では労働力の一部になっていたというのが実情かもしれませんが、今回このように特定技能ができたことにより、明確に色分けされたとも言えるでしょう。
また、技能実習生として在留している人が期限を超えて日本で働きたいという場合、特定技能の在留資格を取得しようとすることは可能になります。
特定技能の在留資格は、
●業種ごとの試験 + 日本語に関する試験(日本語能力検定4級 or JFT-Basic(※注1))
●技能実習2号を修了(働く予定の特定技能と関係がある仕事内容であること)
●業種ごとの試験 + 技能実習2号を修了
のうち、いずれかの方法で取得することができます。
なお、業種ごとの試験については日程や頻度、開催場所など業種によって異なります。
業種によっては実施回数や受験者数、実施場所が少ないなどの課題もあり、これから徐々に増えていくことが期待されています。
※注1)国際交流基金が実施する、日本語を母国語としない外国人向けの日本語能力測定検査で、モンゴル、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ミャンマー、ネパールで実施されています。
特定技能には1号と2号がありますが、ここではその違いについて触れていきます。
<対象業種>
◾️1号:特定産業分野全14分野
(介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関係産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)
◾️2号:建設および造船・舶用工業の2分野のみ
<日本語の水準要件>
◾️1号:生活や業務に必要な日本語能力が必要(試験あり)
◾️2号:試験等での確認は不要
<家族の帯同>
◾️1号:基本的に認められない
◾️2号:配偶者や子供は、必要条件を満たせば可能
<受け入れ期間又は登録支援期間による支援>
◾️1号:対象
◾️2号:対象外(自社での対応が必要)
<在留期間>
◾️1号:最長5年(1年、6ヶ月または4ヶ月ごとの更新)
◾️2号:制限なし
上記の通り、1号は幅広い分野に対応しており、登録支援期間による支援の対象にもなっていますが、家族の帯同は認められず最長5年までの在留資格です。
つまり最長5年間まで日本で働いても、必ず母国へ帰国することが条件になります。
また、2号については特定産業分野(14種)のうち2分野のみ受け入れが可能な在留資格ですが、条件があえば家族の帯同も認められ、さらに在留期間の制限もありません。
なお、特定技能1号よりも2号の方が、よりその分野での熟練された技術を要するということになります。
次に、在留資格を得た特定技能外国人を実際に受け入れるにはどうすればよいのかを、簡潔に説明します。
外国人労働者を受け入れるためには、以下のような雇用主の義務があります。
<雇用主の義務>
◾️入管への届出義務
1.届け出る事由が発生してから、14日以内に届け出るもの
①特定技能雇用契約の変更
②特定技能雇用契約の終了
③新たな特定技能雇用契約の締結
④1号特定技能外国人支援計画の変更
⑤登録支援機関との支援全部委託契約の締結
⑥登録支援機関との支援全部委託契約の変更
⑦特定技能外国人の受入れ困難
⑧出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為の発生
2.四半期に1回(3、6、9、12月)の翌月14日以内に届け出るもの
①受入れている特定技能外国人の数
②特定技能外国人の氏名、生年月日、性別、国籍・地域、住居地及び在留カード番号
③特定技能外国人が特定技能活動を行った日数、活動の場所及び従事した業務の内容
④派遣先機関の名称及び住所
⑤1号特定外国人支援計画の実施状況
(登録支援機関に全部の実施を依頼した時を除く)
⑥特定技能外国人及び同一の業務に従事する日本人に対する報酬の支払い状況
⑦所属する従業員の数、特定技能外国人と同一の業務に従事する者の新規雇用数、離職者数、行方不明者及びそれらの日本人か外国人かの別
⑧健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の適用の状況並びに労働者災害補償保険の手続き状況
⑨特定技能外国人の安全衛生に関する状況
⑩特定技能外国人の受入れに要した費用の額及びその内訳
◾️外国人への支援義務
1.入国前の事前ガイダンスの提供
2.出入国時の送迎
3.住居確保、生活に必要な契約支援
4.生活オリエンテーション
5.公的手続等への同行・支援
6.日本語学習の支援(機会提供)
7.外国人からの相談・苦情の対応
8.日本人との交流促進に係る支援
9.非自発的離職時の転職支援
10.定期的な面談の実施
(出典:出入国在留管理庁「新たな外国人材の受け入れ及び共生社会実現にむけた取組」より抜粋)
このように、外国人を雇用するためには様々な書類の作成や管理体制が必要になります。しかし、実際には手続きや支援義務を自社で全て対応するリソースがないという企業も多いと思います。
その場合は、書類の手続きは多くの工程を行政書士に任せて書類作成をしてもらうことができますし、外国人への支援義務については、登録支援機関(※注2)に委託することが可能です。
現状では、多くの企業がこの登録支援機関に委託をしています。
※注2)外国人材を受け入れる企業に代わって、支援計画の作成や特定技能の活動を安定的・円滑に行えるよう支援する機関
外国人採用をするにあたって特定技能について触れる機会は多いと思いますが、実際にはまだ運用されて間もないこともあり、課題が多いのが実情かもしれません。
例えば、特定技能1号においては日本での在留は最長でも5年となっています。
5年も勤務してもらうと十分な戦力になってもらえることが予想されますが、それ以上は雇用できないという雇用主側の悩みもありますし、もっと日本で経験を積みたいと思っても自国に帰らなければならないため、日本で長く働きたいと考える外国人にとっては魅力的な制度ではないとの声もあります。
また、特定技能ビザで認められる仕事内容は合格した試験に関わる業務に限定されているため、万一本人が活躍の幅を広げたいと思っても別の職種に就くことはできませんし、事業主は新卒採用時の総合職のような募集の仕方はできないということになります。
ただし、このように課題は多くあるものの、試験の頻度や受験者数は高まってきている業種もありますし、運用する過程で見つかった課題解決のために、受験できる外国人の要件の幅が広がるなど改善されようともしています。
今後、制度利用が活発になると共に、さらなる制度の改革が進んでいくのではないでしょうか。
このように今回は、特定技能について触れていきましたが、決して特定技能でしか雇用ができないわけではなく、特定技能ビザ以外にも就労できるビザはあります。
外国人を採用しようとすると、ついつい手続き等が面倒なのではないか、採用してもうまくいかないのではないかと尻込みをしてしまうかもしれませんが、今後「人材不足」や「グローバル化」は日本企業にとってさらに深刻な課題になっていくことは間違いありません。
だからこそ、こうした制度が始まり、外国人労働者の受け入れに追い風が吹こうとしている今こそ、外国人労働者の雇用を推進させていくことは自社のさらなる発展に繋がるターニングポイントになるかもしれません。