COLUMN

2020.03.16

[HRプロ連載記事]第7回:海外に拠点を置く日本本社や海外駐在員に求められること

連載記事

今回のインタビューしたのは、グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役社長のブライアン・シャーマン(Bryan Sherman)さん。同志社大学に1年在籍し、富山県の黒部市役所に国際交流員として勤めた経験を持つ。また、アメリカでは住商情報システムの人事部長、ファーストリテイリングのグローバル人事などの職を歴任した人物である。生粋のアメリカ人だが、日系組織の経験が豊富で、現在日本に住み、公私ともに日本文化に適合されている。まさに日本のHRのグローバル化を内外から見てきた、希少な人物と言えるだろう。偶然にも私と同じ歳で大学の同窓生でもあり、インタビュー時は初対面だったが、すぐに意気投合した。今回ブライアンさんには、日本人駐在員が海外に派遣される際の注意事項や、日本企業が海外展開する際のHRにおけるポイントをお聞きした。

(稲垣) ブライアンさんは、「日本の組織文化にはグローバルに通用する良さがある」と発信されていますね。

(ブライアン) はい。グローバルスタンダードの組織マネジメントでは、役職ごとにJob Descriptionがあり、上司からの要求や自分に与えられるミッションが明確です。でも日本風の考え方では、Job Descriptionはあいまいで、チームで一緒に相談しながら仕事の分担を柔軟に変えていきますね。

日本の組織マネジメントでは、チームワーク、協調性、良いコミュニケーションを重視していますが、これはある意味、VUCA(Volatility:不安定、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:曖昧)の時代に重要なアジャイル(Agile:素早い・俊敏な)なやり方と捉えることもでき、これからの時代にマッチしていると思います。

(稲垣) なるほど、目新しい考えですね。よく日本と欧米の人事制度は、「職能資格制度」と「職務等級制度」で比較され、人の能力を基準とする「職能資格制度」を採用している日本は、仕事の定義があいまいでグローバルでは通用しない、と一般的には言われています。でも、変化のスピードが速いVUCAの時代では、むしろ仕事内容をカチッと決めることのほうが難しい、ということですね。

しかし、ある日系企業に勤める外国籍社員の中には、Job Descriptionが明確に決まっていないことにストレスを感じている人もいました。

(ブライアン) それはまた別の課題と向き合うことが重要で、おそらく仕事のベースとなっている「良いコミュニケーション」がポイントだろうと思います。日本人同士で良いコミュニケーションを取っているだけではだめで、これからの時代はグローバルに良いコミュニケーションを取っていかなければなりません。日本人同士はハイコンテクストのコミュニケーション文化ですから“暗黙知”が通じるのですが、他の国の人とは具体的にコミュニケーションを取ることが重要です。

たとえば、日本の会社が大切にしている理念を、どうやってグローバルに展開するか考えてみましょう。ある日本の大手メーカーが、自社の理念を英語版にして配ったところ、意味が伝わりにくいものになってしまい、社内から、「この理念は日本的だから外国人には理解できない」という意見が挙がってきました。ですが、その内容は特に日本特有のものではなく、崇高な理念でグローバルに通じるものでした。

この際のポイントは2つです。1つ目は言語の問題。英語と日本語の資料作りなどをやっていてよく感じるのは、意味がぴったり同じ表現がないということ。ですから、表面的な翻訳ではなく、“伝えたい内容”から翻訳をしないといけません。

もう1つの問題は、コンテクストの違いですね。日本の場合、「説明しなくてもすでに皆分かっている」ということがあります。余計な説明は不要、という。しかし他の国の人とは、コンテクストの違い、すなわち常識の違い、把握している情報の違い、腹落ちのレベルの違いがあるので、それらを踏まえた上で、表現に工夫をしないとうまくいきません。この点については、日本の会社がすごく弱いところだと思います。逆に言えば、これさえできれば、柔軟に組織を変えていくことで、時代の変化に対応できると思います。

(稲垣) まとめると、(1)直訳ではなく、伝えたい意味を英語で表現すること、(2)コンテクストの違いを意識して伝えること。この2つを意識して、「良いコミュニケーション」をとれば、Job Descriptionに縛られない日本流の組織マネジメントが活きて、いまのVUCAの時代に適応できるということですね。

(ブライアン) はい、その通りです。

日本本社の役割

(稲垣) 日頃、日本本社にいる人事の方々から「海外の拠点をどのようにフォローしたらいいか分からない」という声を聞きます。同時に、駐在員の方々が本社人事のフォローに満足していないことが多いのも感じています。つまり、行き違いが多い。どうしてこうなるのでしょうか。

(ブライアン) よくある課題と言えますね。本社の人間が、はっきりしたスタンスを持たずに海外拠点へ行き、「サポートしますので情報をお願いします」と言っても、関係は良くなりません。駐在員からすると、そのような抽象的なことを言われても、伝えた情報が社内でどのように使われるか分かりませんし。

また、そうした本社の人が、何かの依頼に対しスピーディーに答えない、もしくは「日本じゃないから分からない」などの回答を重ねていくと、駐在員は何も期待できなくなっていきます。このような現象をたくさん見ています。こういう現象を減らす、もしくはなくすためには、まず海外のビジネスに対して、本社が“本社のスタンス”を決めないといけません。

そのスタンスには、大きく3つのカテゴリーがあります。1つ目は「トップダウン」、2つ目は「コラボレーション」、3つ目は「関わらない・こだわらない」というものです。この3つのスタンスを、内容ごとに使い分けていきます。

1つ目の「トップダウン」は、簡単に言うと「我々は本社なので指示に従って行動してください」ということ。たとえば、「理念の浸透」などはこのカテゴリーに入ります。つまり、「本社はこういう理念を大事にしており、全世界共通言語にするので、この理念に基づいてちゃんと行動してください」ということですね。

2つ目の「コラボレーション」は、「理念の定義や行動レベル、導入プロセスは国や地域ごとにアレンジするので、一緒に作っていきましょう」というスタンスです。さきほどの「本社が指示命令を出すスタンス」と、この「一緒に考えましょう」というスタンスでは、必要なコミュニケーションの違いがあるわけですね。

3つ目の「関わらない・こだわらない」は、「もし現地の方で相談があればしてください。我々が手伝います」というスタンスです。もしくは、「現地の取り組みを浸透させるためにリソースが必要なのであれば、我々がリソースを提供します。ただ、現地から特にリクエストがなければ、本社は何もしませんよ」とも言えます。

こういう3つのスタンスで、本社のコミュニケーションの取り方を決めることが重要です。こうやって本社からのガバナンスを効かせることができている日本本社は、まだまだ少ないという危機感を持っています。

日本人駐在員の心得

(稲垣) 日本人が海外駐在をする際、どのようなことに気を付けるべきでしょうか。

(ブライアン) まず大事な前提として、駐在員の方々は“特別に選ばれた人間”として海外に行かれるわけですよね。しかし、そうした認識や振る舞いをしていない方がほとんどです。研修をやるとき、多くの方は周りを見ず、挨拶もしないで自分のところにこっそりと座って待っているだけ。ですから「みなさんは駐在員として特別に選ばれた人間でしょう? いま部屋に入ってきたとき、あなたがとった行動は、それにふさわしいものだったでしょうか」と、みなさんが部屋に入った瞬間から指摘するようにしています。

やっぱり、現地に行かれる駐在員の方は、“見られて”いるんです。どんな表情で、どのように現地の人とコミュニケーションを取るかを。そして現地の人は、そこから会社全体の雰囲気や文化はもちろん、いい会社かよくない会社かまで感じ取ります。駐在員の方の何気ない振る舞いが、現地の人をそこまで左右するのです。

また、多くの赴任者は、現地で初日に行う自己紹介で「英語がまだ上手ではありません。何も知らないので助けてください」などと言います。このような挨拶を、現地の人は心の中で「え? 高い給料が払われてる、特別に選ばれた人がこんなことを言うの!?」と受け止め、決していい印象を与えません。いい印象を与えるためには、「最初にどのように自己紹介をするべきか」といったところから考えておくことが重要です。

駐在員はリーダーです。日本で働いているときは“one of many”でも、海外に行くと“you are special”、“you are chosen”なのです。ですから、National staffの気持ちをきちんと理解して、「自分は駐在員としてここに来る意味があるんだ」というアピールをしないと、なかなかいい関係は作れないわけですね。

私自身、海外で働くことの大変さは身をもって知っていますが、海外に出た日本人にも、ぜひ頑張ってほしいと思っています。チームワーク、協調性、良いコミュニケーションを重視する日本人であれば、きっとそれができると私は信じています。

インタビューを終えて

このインタビューをきっかけに、ブライアンさんとはイベントや講演会で一緒に登壇することが多くなった。彼は日本人と外国人両方の心情を理解しているので、講話には説得力があるし、日本語も非常に流暢で聞きとりやすい。登壇回数も多い方なので、機会があれば講演会などのご参加をお勧めしたい。

>>コンテクスト参考記事:「海外進出企業の『人と組織の活性化』~インドネシアに架ける熱き想い~」第7話 インドネシアにおける従業員教育で失敗しないためのポイント

取材協力:Bryan Sherman(ブライアン・シャーマン)さん
グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役

97年に富山県黒部市役所「国際交流員」に就任後、99年ニューヨーク市にて日系企業向け人事コンサルティング会社入社。04年、米国住商情報システムズ株式会社入社、人事総務部長。07年株式会社ファーストリテイリング入社。東京本社人事部にてグローバル人事戦略業務に参画、欧米露アジア拠点の人事マネジメント業務に従事。 国内外で、企業の内と外から日本企業の抱えるグローバル人事課題の解決にあたる。


本コラムは、HRプロで連載中の当社記事を引用しています。
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1874&page=1

Pocket